19 天才幼女魔法使い
それからテオドールはポレットにあらゆる属性の初級魔法を教えていった。
指先に火を灯す、コップに水を出す、手のひらの上で風を起こす、地面に小さな穴を開ける、光を灯す。
驚くことに、ポレットはテオドールのお手本を見ただけでぽんぽんと成功させていく。
「わぁ……これも成功しちゃったねぇ」
「な、なぁ、テオドール。これってやっぱ……すごいこと?」
「すごい、っていうか。……やばい?」
植物を少し成長させ、小さな雷を起こしたあたりで思わずリグが口を挟んだ。
いくら魔法の適性がある者でも、最初から成功させるのは難しいと聞いている。
だというのにポレットがいとも簡単に魔法を繰り出している姿は、さすがに異様な光景に見えた。
ポレットに対して恐怖心を抱いているわけではない。
これは誰にも知られてはならないという危機感が募ったという意味で、リグは恐ろしさを感じていた。
「もしかしてポレットちゃん、魔法の使い方を知ってる?」
「しらない……はじめて、つかった」
一応、といった様子で訊ねたテオドールの質問にも、ポレットはやはり首を横に振る。
記憶がないのだからもし以前に教わったことがあったとしても覚えているわけがない。
ただ、もしかすると体に染みついた記憶として使い方を覚えている可能性もある。しかしポレットの次の言葉でそれは否定された。
「でも、わかる。あたまのなか、まほうのつかいかた、うかんでくる」
「あっ、これは天才のやつぅ」
「天才ってどういうこと?」
「ポレットちゃんは、感覚で魔法を使えちゃうってことー」
普通、魔法を使う際は必要な魔力を集めて、起こす現象の理解から始めるのだという。
イメージするのに苦労する者も多く、それを補助するために呪文を唱える者が多い。
しかし、魔法理論をきちんと理解し、イメージがしっかり固まっていれば呪文を唱える必要もない。
そこまでに至るにはかなりの勉強と訓練が必要で、よほどの秀才か年配の魔法使いでないとまず無理なのだそうだ。
そして稀に、その理解を感覚で捉えて魔法を使うことが出来る天才が現れるという。
「かくいう僕も天才なんだけどね! 十二歳という若さでどんな魔法も使いこなせるようになっちゃったから。最年少だったんだよ? たった今、更新されたけど」
ポレットはどう見積もってもまだ四、五歳の幼女だ。
一般常識より先に魔法の理解をしてしまう幼女となれば、歴史書に載るだろう。
「これは魔女である可能性が高まっちゃったなぁ」
「ま、前向きに考えよう、テオドール。俺たちについて来られる確率が高くなったわけだし」
「ま、そうだね。ただそうなると教えるべきことは別のことになる」
テオドールは目をぐるっと回して肩をすくめると、苦笑しながら続けた。
「加減の仕方! 稀代の天才幼女魔法使いから、天才幼女魔法使いくらいまでは下げておかないと」
「よくわからないけど、よくわかった気がする」
要は、ギリギリこの年齢の幼女が天才という言葉で片付けられる程度に誤魔化す必要があるということだ。
間違っても簡単に魔法を使えるところを見られてはならない。
「よし、ポレットちゃん。僕といくつか約束して!」
テオドールはポレットの前で片膝をつくと、指を三つ立てながら言う。
「僕がいいよって言った魔法以外は、人のいる場所で使っちゃダメ。たくさん魔法を使いすぎちゃダメ。大きな魔法を使っちゃダメ」
「だめ、ばっかり」
ポレットは頬をぷくっと膨らませて不満顔だ。
せっかく使える魔法があるのにあれもこれも禁止されては、この年齢の子どもにしてみれば当然の反応だろう。
これはまずいと思ったリグは、テオドールの隣に片膝をついてポレットの説得を試みる。
「ポレットはさ、たくさんの魔法が使えてとってもすごいよ。かっこいいし、自慢に思う」
「ほんと?」
「うん。だけどね、ポレットがあまりにもいろんなことが出来すぎると、悪い大人がポレットを狙うかもしれない。変に目立って、嫌な気持ちになるかもしれないんだ」
伝わっただろうかとドキドキしながらリグが反応を待っていると、ポレットからは斜め上からの言葉が返ってきた。
「わるいひと、ポレットが、やっつける!」
「うーん、血の気が多い。うちのチームにピッタリだねぇ」
「テオドール、今は褒めたらダメなところ!」
ただし血の気が多いのはリグにも自覚があるところだ。
たしかに傭兵としてピッタリの素養かもしれないが、女の子でもある可愛いポレットの教育にはよろしくない。
しばし頭を悩ませたリグはある提案を思いつく。
「ポレットが大きくなったら、使える魔法も増えていくよ。な? テオドール」
「ん? ああ、そうだね。成長に合わせて、きちんと使っていい魔法を増やすよ。約束する!」
「おおきくなったら?」
ポレットは少し考えた後、納得したように頷いた。
「わかった。ポレット、おおきくなる」
ギュッと小さな手で拳を作り、やる気に満ち溢れた様子を見せるポレットを見て、二人はホッと安堵したのだった。
その後、テオドールは明かりを灯す光の魔法と、コップに水を出す水の魔法だけはみんなの前でやってもいいという許可を出し、今日の訓練は終わりとなった。
「よーし! 次はお待ちかねのお買い物だよー! ポレットちゃんの可愛いお洋服をいっぱい買っちゃおうね!」
「なんでテオドールが一番楽しそうなんだ?」
こうして三人は森から町へ戻り、軽い足取りで買い物へと向かう。
たくさん買いすぎないように見張ろうとしたリグだったが、いざ可愛い服を目の前で見るとあれもこれもポレットに着せたくなってしまう。
結局、二十着ほどの服を購入した二人は、宿舎で待つモッシュとカオンに呆れた顔を向けられたのだった。




