15 ポレットの意思
翌朝、食事の準備をしながらポレットが起きてくるのをそわそわしながら待つ。
昨晩は遅くまで話し合いをしていたというのに、リグは誰よりも早くから起きていた。
というより、結局うまく寝付けなくてずっと起きていたようなものだ。
「おはようございます、リグ。ふふっ、随分と早いお目覚めですね」
「うっ、おはようカオン。だって、なんか緊張しちゃって。でもカオンだって早いじゃん」
「私はいつも同じ時間に起きてしまうだけですよ。さて、濃いめのコーヒーでも淹れましょうか」
「いいの?」
「前の町で多めに買い溜めておいたのです。早起きした者の特権ですよ」
小声で話すカオンに、リグも思わず小さく笑う。
しばらくして、食堂にコーヒーの良い香りが漂った。
「あっ、ポレットおはよう」
それから数十分後、次に起きてきたのはポレットだった。
目をこすりながらあくびをするポレットの手を引き、リグは身支度の手伝いをしに行く。
その間にモッシュが起きてきたが、テオドールは朝食の準備が整うまで起きてこない。
仕方なくリグが起こしにいったが、食堂まで連れてくるのにとても苦労した。今も席に座ってはいるものの、テオドールの目はほとんど開いていない。とことん朝に弱い男だ。
朝食を終え、片付けも終えたところで一同は目配せし合う。
昨日の話し合いで、ポレットに話すのはリグにしようと決めた。
緊張の面持ちで小さく息を吐いたリグは、まっすぐポレットを見つめながら話を切り出した。
「ポレット、今から大事な話をするよ」
きょとんとした顔ながらも、ポレットは一つ頷く。
リグもまた頷き返すと、昨晩からずっと考えていた言葉を紡ぎだす。
「まず、ポレットに知っていてもらいたいんだけど。俺たちは傭兵で——」
幼い子どもがどこまで理解出来るかはわからなかったが、少しでも理解してもらいやすいよう、リグは言葉を選んで丁寧に説明した。
傭兵は時々引っ越しをしなければいけないこと、子どもを連れていくためにはポレットにもすごく頑張ってもらわないといけないこと。
もしかすると、連れていけなくなるかもしれないことも。
その場合は、ポレットが元気で暮らせる場所をちゃんと探すということまで話し終えた時、ポレットの表情を見たリグは思わず言葉に詰まる。
勝手な勘違いかもしれないが、どことなく悲しそうに見えたのだ。
「っ、それでさ……この先ポレットがどうしたいかを聞きたいんだけど、その前に言っておく」
悲しい顔をさせたくない一心で、リグはこれまでで一番力を入れて説明する。
「俺は……俺たちはみんな、ポレットとずっと一緒にいたいって思ってるからな!」
一番伝えたいことはこれだった。
出来ることならずっとポレットと共に過ごしたい。
リグがそう言うことで、ポレットの返事を誘導しているように感じるかもしれないが、一緒にいられるならそれでもいいと思った。
リグも少しだけずるい大人の仲間入りしたのかもしれない。
「俺たちと一緒にいるってことは、ポレットも大変な思いをする。危険な目にも遭うかもしれない。それでも、俺たちはポレットと家族になりたいんだ」
気付けばリグは、ポレットの両手を握りしめていた。
(なんか俺、思っていた以上にポレットのことが大事みたいだ)
この幼い子どものことを、リグはもちろんモッシュたちもまだ何も知らない。
テオドールが調べてくれた情報以外は何もわからないのだ。
(自分の気持ちを我慢してしまう、とても優しい子なのは知ってる。だからこそ……!)
どんなものを好み、嫌がるのか。もっと色んな表情も見てみたい。
ポレットにも、リグたちと一緒にいたいと思ってもらいたかった。
「もし一緒に来てくれるなら、全力でポレットを守るって約束する。どうする? あっ、えっと、すぐに決められないっていうなら少し時間を……あれ、ポレット?」
熱が入りすぎて喋りすぎたことに気付いたリグは、ポレットにも考える時間が必要だということに思い当たる。
慌ててそれを伝えようとした時、ポレットがおもむろに手を離し、椅子から下りてリグの下に駆け寄ってきた。
リグも椅子から下りた時、ポレットが勢いよく足に抱き着いてくる。
どうしたのかとリグが口を開きかけた時だ。
「リグ、にぃ……いっしょ」
足元から、か細い声が聞こえてきた。
「え……」
「リグにぃ、と、いっしょ、がいい」
戸惑いながら見下ろすと、ポレットがリグを見上げて涙目になりながら口を動かしている。
間違いなく、その可愛い声はポレットのものだった。
「~~~っ!!」
「ポレット、も、がんばる」
へなへなとその場に膝をつくと、視線が近くなったポレットがなおも言葉を続けていた。
ちゃんとリグの説明を理解し、気持ちも伝わっているのがよくわかる返事だ。
そしてなによりも。
「ポレットが、喋ったぁ……!」
ブワッと感情が溢れて、リグも泣いてしまいそうだった。
しかしそんな場合ではない。せっかくポレットが頑張って意思表示してくれたのだから、それに答えなければ兄失格だろう。
リグは涙で滲みそうになった目元をグイッと腕で拭うと、とびきりの笑顔で答える。
「うん、うん! 一緒にいような! 兄ちゃんが絶対に守るからな!!」
「ポレットも、まもる」
「ふはっ! うん。ありがとうな」
こんなにも喜びを感じたのはいつぶりだろうか。
リグは今までに感じたことのないほどの多幸感で満たされ、改めてポレットを守ろうと決意を固めた。




