14 具体的な対策を
ようやくチームの考えが一致した。方向性が決まり、覚悟も出来ればあとはそれを守っていくだけ。
「まず、ポレットちゃんに魔力があるのは変わらないから、僕が師匠になってあげる」
「それがいいだろうな。魔法の使い方を覚えてもらえれば、いざという時にどうにかなる可能性も高まる」
この中で最も魔法の知識があるのは当然テオドールだ。他のメンバーも全員魔法は身体強化しか使えないのだから。
膨大な魔力を持っているというのなら今の内から扱いに慣れる必要があるだろう。
そこへいくとテオドールは適任。性格に難はあるが、実は教え方がとてもうまいのだ。
「剣を覚えたいなら教えられるのですが……さすがにまだ早いですよね」
「カオンはやめとけ。お前は天才肌だから人に教えるのは向いてない」
「えっ、そうですか? ではせめて体力をつける運動を」
「おっ、俺が教えるから! カオンの基準でやったらポレットがへとへとになる!」
一方、人に何かを教えるのに不向きなのはカオンだった。常に優しく穏やかで、面倒見のいい世話焼きなのだが、感覚に頼りがちなため教わる側には何も伝わらない。
その上、自分の感覚を基準に考えがちなので、加減というものを知らない。柔らかな物言いで無茶を言うカオンは天使の顔をした悪魔だ。
基本的な体力向上訓練ならリグにも出来る。ポレットの体力に合わせて段階を踏んだトレーニングをするつもりだ。
カオンに任せていたら、最初から激しい訓練になってポレットは嫌になってしまうだろう。
人には向き不向きがあるものだ。
「テオドール。封印された魔力の貯蔵庫とやらは、成長に合わせてポレットの体に魔力を送るんだったな?」
「うん、だいたいそんな認識でオッケー。ただ魔法は本人の精神面で揺らぎがちだから、常にポレットちゃんの心を平穏に保つことが大事かなー」
魔法を使うには感情を乱されてはならない。
これは鉄則で、喜怒哀楽の激しい者ほど暴発を引き起こしがちだ。
テオドールが普段から飄々としているのも魔法を扱う上での処世術のようなもので、似たように振る舞う魔法使いは多い。
ただ、彼の場合は元々の性格が大きい。生まれつき魔法使いに向いているのだろう。
「ふむ。ポレットのことは気にかけるが、いつ何が起きてもいいように早いところ保護者登録をしておいたほうがいいな。リグの時みたいに」
親のいない子どもは生活がとても厳しいものになる。
そういった子どもたちを集めた施設もあるが、子どもたちだけで集まってスラムで生きる子も多い。
ただ、ポレットの場合はその力がいつ誰に見つかるかわからない。
見目も麗しいため、保護という名目で連れて行かれる可能性が高かった。
そんな時、保護者がいれば話は別になる。モッシュに話を通さなければ勝手に連れ去ることが出来なくなるのだ。
ただし問題も残っている。
「保護者になってないと、傭兵の活動にも連れて回れないもんねー」
「それがありましたね。次の移動までにポレットの体力をある程度つけておかなければ……。傭兵とともに連れ歩いても大丈夫だと判断してもらえないと、たとえモッシュが保護者であってもこの町に置いていかなければならなくなります」
あるいは、モッシュが傭兵を辞めなくてはならなくなる。
そのどちらも、出来れば避けたい未来だ。
「リグの時は根性あったから余裕だったよねー。ただポレットちゃんはリグの時より幼いし、細くて小さいし、どうかなぁ」
「出来る限りのことをするしかない。まだこの地に赴任したばかりなのが幸いしたな」
確かに、次の町へ移動するまで冬を挟むため約半年はある。この時期は少し長めに滞在することになるのだ。
ポレットの体力をつけるにはちょうどいい期間といえる。
「みんな。あと、大事なことを忘れてる」
リグが真剣な顔で声を上げると、みんなが注目した。
「ポレットの意思を聞かなきゃ。俺は何が何でも保護するつもりだけど、この町にいたいって言うかもしれない、し……」
目を泳がせながら自信がなさそうに言うリグを見て、三人は目を丸くしている。
「そこはたぶん大丈夫だと思いますけどね。リグにとても懐いてますから」
「まーでも、傭兵の仕事って結構ハードだから、嫌だーって駄々こねるかもね」
「聞き分け良くついてきてくれているが、ポレットもまだ幼いからな。十分あり得る話だ」
通常ポレットくらいの年の子はワガママを言うもので、ポレットが大人しすぎるのだ。
記憶はなくとも、育ってきたこれまでの環境がそういった行動に現れているのかもしれない。
そう考えると、ポレットを取り巻く環境はとても良かったとは思えなかった。
(子どもがワガママも言えないなんて、異常だよな)
リグ自身、多少なりともワガママを言ってみんなを困らせた経験がある。今となっては思い出したくない黒歴史だが、子どもとはそういうものだ。
疲れた、眠い、お腹空いた、などの訴えすらないのは聞き分けが良いですませられないとリグは思う。
ただその性質のおかげで今回ばかりは助かるのかもしれないと思うと、なんとも言えない気持ちだった。
「というかさ、リグが説得しなよ。一緒に行きたいんでしょ? 意思を確認するのは大事だけどさー、迷惑になるかもってポレットちゃんが思ったらどうすんの?」
「あ……」
「まずはこちらがポレットと一緒にいたいんだということを伝えなければなりませんね。あの子なら遠慮をすることも考えられます」
ポレットの気持ちを優先させるあまり、リグの気持ちを伝えないところだった。
リグだけでなく、みんながポレットのことを思っていることをわかってもらわないときっと不安になるだろう。
一時期、自分はお荷物なのではないかと悩んだことのあるリグにはよくわかった。
「明日、朝一でポレットに全部話すよ。でも厄災の魔女かもしれないってことは……」
「ああ。黙っていたほうがいいな。そもそも幼い子に理解させようとするほうが無理な話だ」
「賛成です。いつか彼女が疑問に思うようになった時、伝えることにしましょう」
「その頃は絶賛反抗期だったりしてー。ショック受けて一人でどこかに行こうとするとか、よくある話じゃん?」
「やめろよ、今からそんな話するの……」
話し合いは夜遅くまで続き、自分の家族がポレットを本気で迎え入れようとしてくれているのが嬉しい。
その夜、リグが眠気を感じることはなかった。




