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少年傭兵は幼女を拾った。でも厄災の魔女かもしれない。  作者: 阿井りいあ
一章

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16 厄災の魔女の伝説


 ポレットが喋ったという大事件は、リグだけでなく仲間たちにも幸福感を与えてくれた。

 モッシュに関しては感動で涙が滲んだのか、大きな片手で目元を覆っている。

 カオンもまた両手で口元を覆ってわかりやすく感動を露わにしていた。


 そんな中、張り切る方向に向かったテオドールが両腕を広げながら意気揚々とある提案を口にする。


「ポレットちゃん! 君にはさ、この僕が魔法を教えてあげるよ! 楽しく厳しくしっかり覚えてもらうからねー! って、あれ?」


 しかしテオドールの声を聞いたポレットは慌ててリグの後ろに隠れてしまった。


「テオドール、嫌われたままだな……」

「なんでさ!」

「自分の胸に手を当てて考えてみるといいですよ……」


 第一印象が最悪だったのだ。ポレットの反応は当然といえた。


 とはいえポレットに魔力があり、いつか暴走してしまう可能性がある以上、少しでも早く魔法の扱いに慣れておく必要があるのは間違いない。

 そして魔法の勉強をするのに、テオドール以上の先生は国中探しても見つからないだろう。


 出来ることならポレットの味方でいたかったが、譲らなければならないこともある。


 リグは片膝をついてポレットに視線を合わせると、神妙な面持ちで説得を試みた。


「ポレット。すごく嫌かもしれないけど、テオドールはあれで教えるのがすごくうまいんだ。それに魔法を使えるようになったら、俺たちについていく許可が下りる可能性も高くなるよ。だから……少し我慢してお勉強してくれるかな?」


 リグの話は素直に聞きたいらしいポレットの眉間にしわが寄った。

 難しい顔のまま上を向いたり下を向いたり、ちらっとテオドールを見たり、を繰り返したポレットは、むすっとしたまま答える。


「………………わかった」

「あっははははは! 嫌そ~~~~!」

「テオドール! そういうとこだぞ!!」


 大笑いするテオドールの声と、怒るリグの声が重なる。

 心配は尽きないが、魔法については真剣に取り組んでくれるはずだ。そう信じるしかない。


「ポレット。嫌なことをされたり、言われたりしたらすぐに言ってください。私が彼を斬ってあげますからね」

「俺も力いっぱいゲンコツを落としてやる」

「ねぇ、二人とも殺す気でくるのやめてくれる?」


 それに心強い味方もいる。

 こくこくと首を縦に振ってやる気を漲らせるポレットを見ながら、リグは昨晩話し合った内容をもう一度思い出した。


 ◇


『ポレットを保護する方向なのは決定として。厄災の魔女についても調べたほうがいいと思う』


 モッシュの一言に、全員が揃って頷く。

 実のところ、厄災の魔女についてリグたちは詳しいことを知らなかった。


 ──厄災の魔女はその昔、人々に救いをもたらす偉大な魔法使いと呼ばれていた。

 膨大な魔力を駆使して新しい魔法を生み出し、暮らしを豊かにしたのだ。


 しかし彼女は次第に力に溺れ始める。ある日を境に魔法を軍事利用するようになったのだ。

 それが国家間の戦争を引き起こし、世界大戦にまで発展。周辺諸国のいくつかを滅亡にまで追いやった。


 その後、氷山近くに居を構えた魔女は、長い間引きこもって力を蓄えていた。

 国は彼女の悪巧みを未然に防ぐため、早々に手を打つ。


 そしてついに同盟国と結束し、魔女の討伐を開始。

 しかし圧倒的な力を前に彼女を殺すことは叶わなかった。


 その代わり、優秀な魔法使いが何百人も力を合わせ、氷山の奥深くに魔女を封印することとなった——


 これが一般的に伝わる厄災の魔女の伝説だ。


 しかし歴史とは誰かにとって都合よく改ざんされるもの。もしかしたら魔女にも何か事情があったのかもしれないが、その辺について語られることはない。


 それもこれも、魔女がもたらした被害が尋常ではないとう事実がそうさせたのだろう。

 どんな事情があれど、被害を受けた者にしてみたらどうでもいいことで、厄災の魔女が許されざる存在であることに変わりはないのだから。


『私も賛成です。隠ぺいされた歴史もありそうですしね……少し調べるのは危険かもしれませんが』

『この中では僕が一番詳しいかもねー。でも、僕が知ってるのは国が魔女の封印に成功してばんざーい、みたいな国を称える内容ばっかりだけど』


 一般的に出回っているような情報は、おそらくあてにならないだろう。

 実際に被害に遭ったことのある地域に赴き、当時の痕跡がないか調査するくらいしか出来ることはない。


 あるいは、歴史を全て知る王族から無理やり聞き出すという手もあるが、不可能に等しい。


『俺も知りたい。厄災の魔女のこと。書物だけじゃなくてさ、本当のことを知りたいよな。封印する前はどんな人物だったのか。本当に語られているように恐ろしい存在だったのか、とか』


 リグはすでにポレットだけでなく厄災の魔女に感情移入しつつあるため、そういった些細なことが気になった。


 だがそれはリグの感情の問題。

 本当に知りたいのは、今その魔女はどこにいるのかということ。


 ポレットは本当に魔女なのか、だとしたらなぜ記憶がないのか。

 それからポレットを膨大な魔力から守るために出来ることは何か、そして力に溺れないために支える方法などだ。


 道を外したのが魔女であるなら、同じ道を歩ませてはならない。


『実際、厄災の魔女が消えた事件はしばらく人々に噂されるでしょう。だからこそ聞き込みなどで話題にしても疑問に思われにくいのは助かりますね』

『結局は地道な聞き込みが一番なとこあるもんねー。当時のことが語り継がれてたりとかはあるかも!』


 とはいえ、普段の生活もある中で調べるにも限度がある。

 それにまずはポレットを健やかに育てることが何より大事なことを忘れてはならない。


 以上を踏まえ、今後はこれまで通り傭兵としての仕事をしつつ、ポレットの生活と訓練に力を入れ、合間に魔女について調べていく、という方針で固まった。


 傭兵ならあらゆる地域で魔女の話を調べることが出来るし、一所に滞在しないというのはポレットを守るのにも有効だ。


(ポレットの心を平穏に保つ。俺はこれに専念するべきだよな)


 魔女であろうがなかろうが、膨大な魔力を秘めているという事実は変わらない。

 ならばリグの仕事はこれしかないと思うのだ。


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