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少年傭兵は幼女を拾った。でも厄災の魔女かもしれない。  作者: 阿井りいあ
一章

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12 精密検査の結果


 ポレットの扱いをどうするかは精密検査の結果を知ってから判断するということで話はまとまり、テオドールは早速ポレットが寝ている部屋へ向かうべく立ち上がった。


「リグも来たら? 心配なんでしょ」

「いいの? 邪魔にならない?」

「観客が一人いたところで集中力に影響ないよ。僕を誰だと思ってるの」


 さらっとそう言うところが残念なのだが、実際にテオドールの魔法の腕は確かだ。

 リグは苦笑しながら彼の後についてポレットの眠る部屋に入っていった。


 ポレットは先ほどと同じ姿勢でスヤスヤ眠っている。熟睡しているようだ。

 今なら検査用の採血も出来るだろうとテオドールがポレットの指先に針を刺す。

 一瞬だけポレットの顔が歪み、身じろぎをしたがそのまま寝返りを打ってまた眠ってくれた。


「良い子だねぇ。今のうちに記憶を覗かせてもらうよ。リグ、ポレットちゃんに変化がないか見てて」

「わかった」


 テオドールは指先の針の傷をさっと魔法で治すと、今度はポレットの額に手を当て呪文を唱えた。

 ポレットの額とテオドールの手の間に小さな魔法陣が浮かび、淡く光り輝く。


 テオドールの顔は真剣そのもので、まっすぐポレットを見つめていた。


 少しして、その顔が少し歪む。


「これは、また……」


 何か情報を掴んだのかもしれない。テオドールは魔法を止めるとポレットの額にかざしていた手を引っ込めた。


「もう終わったのか? 早くない?」

「まぁね。ポレットちゃんの様子はどう?」

「よく眠ってる。まったく起きる気配はなかったよ」

「ん、完璧。じゃ、みんなのところに戻ろうか」


 テオドールが部屋を出ていくのを横目で見送ったリグは、そっとポレットに毛布をかけ直してから部屋を後にした。


 食堂に戻ってきたテオドールは早速報告を始めた。


「まず、ポレットちゃんの一番初めの記憶から話すよ」

「えっ、そこから?」

「まぁね。だってポレットちゃんの最初の記憶は僕らと出会った森の中で一人目覚めたところからしかなかったから」


 テオドールの報告を聞いて、それぞれが驚きながらも納得したように頷く。


「記憶喪失、か」

「そんな気はしていましたが、それ以前が全くないというのも……」

「ま、ある日突然思い出すかもしれないしねー。これは注意深く様子を見ていくしかないよ。っていうか、問題はそこじゃないんだよねぇ」


 困ったように笑いながら、テオドールは椅子の背もたれに寄りかかって思いもよらない情報を口にした。


「ポレットちゃんの魔力が空だった。ゼロなんだよ」

「まさか!」


 思わずといった様子でモッシュが叫んだが、すぐに口を押えて黙る。

 全員がちらっとポレットの部屋に視線を向けたが、起きた様子がないとわかって揃ってため息を吐いた。


 普段から冷静なモッシュが珍しく驚きの声を上げるのも無理はない。

 魔力がゼロの生物は存在しないからだ。というより、ゼロになった瞬間死ぬというのが正しい。

 魔法を使えない人間でも魔力は血液を通して循環するものだ。生命維持に必要なものとも言える。


 つまりそれがないというのに生きているポレットはまさしく異質な存在なのだ。


 リグは思わず疑問をそのまま口にした。


「じゃあ、なんでポレットは生きてるんだ……?」

「そこだよー。それを探るのに苦労したんだ」


 あっさり調査を終えて食堂に戻ってきたというのに、本当に苦労したのだろうかとリグは首を傾げたが、黙って話の続きを待つ。


「ポレットちゃんにはね、強固な封印を施された魔力があった。鍵のついた魔力貯蔵タンクって感じ。それがあるから体内の魔力を全て失っても生きていられたんだ。まぁ、不健康だけどね」

「封印されてる? どうしてそんなことになってるんだよ」

「それは後で説明するとして、まずなぜ全身に巡る魔力がないのか。これが大問題。魔力を失っていく病気もあるし、大きな魔法を使ったって可能性もある。でもこれらは基本的に安価な魔道具で補助出来るし、全てがなくなるなんてことは滅多にないでしょ?」

「魔法を使う者は魔力を溜めておく魔道具の保持が義務付けられているくらいだからな」

「もし病なら絶対に身に着けているでしょう。でもポレットは魔道具どころか服さえ身に着けていませんでしたね」


 テオドールだけでなく、身体強化するのに魔力を使うモッシュ、カオン、リグだって魔道具の腕輪を常に装着している。万が一でも魔力がゼロになってしまわないためだ。

 ただ幼い子どもや魔法を使わない人に補助具は必要ない。カオンの言うように魔力を失う病気の子が例外的に身に着けているくらいだ。


「精密検査で持病がないことは確認したよ。つまり、ポレットちゃんは魔力を使い切るほどの魔法を使ったってことになる」

「こんなに幼い子どもが? 記憶もないのに魔法を使えるものでしょうか」

「天才だったらあるいは。僕も幼い頃から使ってたしね。だとしても魔道具の未所持問題があるけど」


 軽い冗談を挟んで明るい雰囲気を作ったテオドールだが、再び真剣な顔になって声を潜めた。


「で、ここからが本題。さっきポレットちゃんには封印された魔力貯蔵タンクがあるって言ったよね?」


 全員が神妙な面持ちで頷くのを確認したテオドールは、一度深呼吸をしてから続きを話す。


「そこに封印されている魔力の量なんだけどさ……底が見えないんだよね。膨大すぎて」

「……結局、膨大な魔力を持っているってことか。封印された状態で?」

「そ。ただの封印じゃなくて成長に合わせて少しずつ魔力が体内に蓄えられるようになってる。だから今は空だけど、少しずつ循環していくよ。とんでもなく高度な魔法さ。いずれは封印が解けてすべての魔力を体内に蓄えなきゃいけなくなるだろうね。封印のほうが耐えられないんだ」

「それほどまでに膨大な魔力量ってことですか?」

「僕よりも、宮廷魔法使いよりもずっと多い。たぶんドラゴンよりも。でさ、僕はこれだけの魔力を持つ生き物に心当たりがあるんだよねー……」


 人間離れした魔力量。強固な封印さえもいずれ耐えられなくなるほどの。


 テオドールじゃなくても、全員に心当たりがあった。


「厄災の、魔女……」


 当たってほしくない推測だ。だがそうとしか考えられない。

 直近にあった氷山の件も考えると、あまりにもタイミングが合いすぎている。


 誰もが無言で冷や汗を流す中、テオドールが大きく息を吐きながら告げる。


「エルザちゃんの言っていたことが、事実だった可能性があるなんて誰も思わないよね」


 ポレットを見て魔女だと騒いでいた村娘のエルザ。ただ恐怖心から噂を真に受けていたのだろうが、奇しくも実際その通りだった可能性があるとは。


(もしポレットが魔女だったら……? そんなわけ、そんなわけない。あんなに優しい子なのに!)


 一瞬、ポレットが魔女だったらと僅かに恐怖してしまった己の心を振り切るようにリグは頭を振る。

 自分に対して酷いことを言ってきたエルザに対し、転んで血を流すのを心配して新しいハンカチを渡す姿は心優しい子でしかなかった。


 リグは、自分の目でみたポレットを信じようと思った。


「でも、まだポレットが魔女だっていう確信はないんだよな? 可能性があるってだけで」

「そうだね。ただ、魔女と関係があるのは間違いないと考えたほうがいいよ。楽観的な考えで誤魔化せるような、簡単な問題じゃない」


 テオドールはいつだって現実を突き付けてくる。そして現実は、いつだって厳しいものなのだ。


 言葉に詰まったのはリグだけではない。難しい顔で黙ってしまったモッシュとカオンにも視線を巡らせたテオドールは最後に質問を口にした。


「それを踏まえて改めて聞くけどさ。リグ、それからみんなも。本当にポレットちゃんをこのまま保護するかい?」


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― 新着の感想 ―
シリアス展開中にごめんなさい 『難しい顔で黙ってしまったモッシュとオカンにも視線を巡らせた…』 一人でツボにはいった(ただの見間違いぃ〜)
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