11 必要な話し合い
町に着き、傭兵としての依頼遂行の手続きを済ませると、リグたちは傭兵専用の宿舎へと向かった。
途中にあった屋台で料理を購入し、今日は宿舎で食事をする予定だ。
いつもであれば遠征から帰った日は酒場で食べるのだが、今はポレットがいる。
子どもを酒場に連れて行くこと自体は問題ないのだが、まずはポレットを落ち着いた場所で休ませるのが先決。
生活に少し慣れてから外食をするのがいいだろうと話し合って決めたのだ。
「ようこそ、ポレット。っていっても、俺たちの家ってわけじゃないんだけどさ」
「この町での家みたいなものじゃん。傭兵の宿舎はどうせ担当のチームしか使わないんだから」
傭兵には任期があり、季節によって期間が変わるが一年に二、三回ほど移動することになる。
各町にそれぞれ三〜五チームが時期をずらして配属され、交代で町の守護をしたり異常がないか見回りを行うのが主な仕事だ。
魔物の多い地域では討伐にも頻繁に駆り出されるため、一定以上の強さも求められる。
国の所属となるため給金が高く、それでいて討伐や採取したものは冒険者と同じように自由に売買出来る。
その代わり国からの要請があれば必ず出動せねばならず、一定周期で移動もしなければならないため独身者が多く、入れ替わりも多い職種だ。
一定期間で移動しなければならないのは、定住して悪さをさせないため。常に複数チームいるのも互いを監視する意味合いもあった。
いろいろと不自由なことも多いが、成人前の子どもでも実力があれば所属出来る上、安定した収入が得られるのがメリットだ。
リグとしては自分に合った仕事だと思っている。
こうして派遣された先には必ず傭兵専用の宿舎もあったりと、いろいろと優遇されている面も大きかった。
「ポレット用のマットレスや日用品は少しずつ揃えていきましょうね。まずは食事です。リグ、手伝ってください」
「うん。え、ポレットも?」
「ふふ。ではポレットもお手伝いをお願いします」
腕まくりをしてカオンについていこうとすると、ポレットも小走りでついてきた。
自身も腕まくりをしてやる気な様子が愛らしく、カオンとともに笑う。
こうして、テーブル拭きや食器の準備をポレットにも手伝ってもらいながら一同は和やかに食事を終えた。
食事も終わるという頃、ポレットが舟を漕ぎ始めたのでリグは一足先に個室のベッドへと運んでやった。
ベッドに潜り込んだポレットはあっという間に夢の世界へと旅立ち、リグはそっと頭を撫でてからみんなのもとへと戻っていく。
「随分早かったねー」
「すでに半分寝てましたからね」
「子どもの寝顔ってのは見ていて癒されるな。普段、お前らの顔ばっか見てるから余計に」
「僕の寝顔を見て癒されてもいいんだよぉ? あ、ちょっと無視しないでよ」
テオドールの軽口を全員で無視してそれぞれがテーブルの前につく。
他の傭兵チームがいない時はこうして食事テーブルで話し合うことが多いのだ。
「ポレットについて話し合うのは今の内だな」
「そうですね。同じ宿舎ですし、他の傭兵チームとポレットが顔を合わせることになるのは避けられません。それまでに、彼女の立場をハッキリさせておかないと」
「っ、ポレットの本当の保護者が見つかるまで俺が……!」
「ストップ。それなんだけどさー、僕から一つ提案」
リグが意気込んで自分が面倒を見ると言いかけた時、あえてそれを遮るようにテオドールが口を挟んだ。
普段はふざけてばかりだが、その表情から真剣な話だということが伝わり、リグも口を閉じる。
「魔法でポレットちゃんの精密検査をさせてくれない?」
精密検査と聞いて、一同は息を呑んだ。
それは一部の高位神官か腕利きの魔法使いしか使えない高度な魔法で、その人の健康状態から精神状態、本人も気付かぬ潜在意識や発病前の病まで、全てを暴くことが出来る。
原因不明の体調不良を調べる時や、犯罪者に対して秘密を暴く時などに使われる魔法でもあり、一般的にこの魔法を受けるような事態は滅多に起こらない。
それをテオドールがポレットにしてみたいというのだ。
全員が顔色を変え、声のトーンを落とす。
「……あの子に、何か異常を感じましたか?」
「異常っていうか、何もわかんないでしょ。よく考えてみてよ。ポレットちゃんが幼い子どもじゃなくて普通の成人した女性だったらどう?」
軽い調子で告げているが、テオドールの言葉は一つ一つが刃のように胸に突き刺さる。
正論だからこそ、リグも口を挟めずにいた。
「普通に不審者だよ。素性もわからない、特殊な容姿。保護しようとか思える? もっと警戒したよね」
「それは、まぁ……そうだな」
「モッシュまで!」
リーダーであるモッシュも難しい顔で同意を示したことで、リグはついに声を上げた。
「リグは優しいねぇ? 将来、美人なお姉さんに騙されないか心配だよ、僕は」
「うるさいな!」
「テオドール、あまり意地悪をしないように。話を進めてくれ」
合間に挑発してくるテオドールをモッシュが諫める。
カオンがリグの肩に手を置いたことで冷静になったリグは、浮きかけた腰を下ろした。
テオドールはわざとらしく肩をすくめて話を続ける。
「ポレットちゃんから話を聞ければよかったんだけど、あの子一言も喋らないでしょ? 声帯がやられてるのか心因性のものかもわからない。どこから来たのか、どうしてあの森で一人だったのか、なーんにもわかんないわけ」
「迂闊に聞くことも出来ませんからね。まだ幼すぎますから、精神的な苦痛を与えてしまうかもしれませんし」
「そもそも幼すぎて、説明が出来るとも考えにくいからな」
続くカオンとモッシュの言葉に耳を傾けながら、リグも思い出したように町でのポレットの様子をぽつりと呟く。
「町の看板も読めなかったっぽいし、筆談も出来ないと思う。エルザの手紙も、読む練習中だし……」
「だから記憶を読ませてもらうんだ。健康状態も細かく調べないと」
「で、でも」
「ねぇ、リグ。保護者があの子のことを知らないでどうやって守るの? 急に予想も出来なかった事態が起きるかもしれない。事前に知っていれば防げることだってあるかも」
「そうかもしれないけど、勝手に記憶を読むのはやっぱり……なぁ、どうしても記憶を見なきゃだめなのか? 何かあったら絶対に俺がなんとかするから!」
健康状態を調べることはリグだって必要だと思う。しかし記憶を調べるというのはやはり人道的に抵抗があるものだ。
それを幼いからといって行使していいのか、リグは踏み切れずにいた。
一方テオドールは目を細め、低い声で容赦なく告げる。
「綺麗ごとばっかり。かわいそうだから保護したい。倫理的に問題があるから記憶を勝手に読むのもダメ。でも何かあった時には絶対に守る? はっ、どうしてそんな無責任なことが言えるんだい?」
「テオドール」
「へぇ、モッシュも優しいなぁ。お子様リグには優しくしろって?」
「テオドール!」
「カオンもか。はいはい、どうせ僕は悪者ですよー」
険悪な雰囲気となった食堂に、沈黙が流れた。
最初に口を開いたのはリグだ。
「……ううん、テオドールが正しい。俺、考えなしだった」
静かな声で告げたリグの声に、モッシュとカオンが目を丸くする。
リグは真っ直ぐな目をテオドールに向けると、一度頭を深く下げた。
「ごめん。テオドールの提案に賛成するよ。それで、ちゃんとその責任も一緒に背負う」
テオドールはリグの視線を正面から受け止め、しばし真剣に見つめ合うとフッと表情を和らげる。
「なんだ。結構いい男になってきたじゃん」
相変わらず上から目線の嫌な言い方だが、今度はリグも不快に感じることはなかった。




