ボクの、母ちゃん。
まだ年の瀬だが、里は賑やかだ。
子供達がはしゃぎ回り、大人達は呑み回す。
街に出て行った種族も、暗くなる頃には集うとの事。
ダムが出来た際に、追い出された者はかなりいる。
近隣の街ならいいが、都会へと出て行った家族もいる。
それで、いいと思う。
愛着の無い者には、ここは暮らして行きにくい所だ。
私もユウナと上京した時には、都会の喧噪が楽しかった。
今でも、家族水入らず向こうで暮らすのも悪くないと思う。
子育てだって、充実した支援があるし。
昨今の物流で、美味しい物も集まって来る。
ここにいる人達は、出て行けないか好き好んで残っている者達だ。
「ユウナのママ、お汁粉。」
「ありがとう、嘉子ちゃん。」
ユウナの幼なじみの嘉子ちゃんが、お汁粉を持ってきてくれた。
今は、中学生かな。大人びてて、落ち着いている。
いつも、ユウナのお世話を焼いてくれる優しい女の子だ。
たぶん、ユウナの事が好きだったっぽい。
「ユウナ、来年から中学に通うの?」
「嘉子ちゃん、今何年生?」
「1年生、森中に入るの?」
「ううん、通うとしたら秋田市内ね。たぶん、行かないと思うわ。」
「そうなんだ、一度行ってるもんね。今さら、行かないか?」
「違うのよ、私に赤ちゃんが出来たからそばにいるつもりなのよ。」
「おめでとうございます、ユウナのママ。」
「嘉子ちゃん、麻里でいいわよ。ユウナと仲良くしてくれて、ありがとうね。」
「いいえ、ユウナのママ。あっ!私、ユキの所に行ってくる。」
可愛いな、私にもあんな頃があった。
厭だっ、すっかりオバさん化しているわ。
遠くで、嘉子ちゃんがユウナと由香ちゃんを誘っている。
皆で、ユキの所に行くらしい。
ユキは、年明けの七草の頃に出産する様子。
大体、2カ月ちょっとで産まれる。
うらやましいな、まだ悪阻は無いけど。
まだまだ、先だな。
恐らく、里帰り出産だな。
実家では無く、圭子さんのいるここに居させてもらう事になりそう。
冷めてきたお汁粉を持っていると、下からクリクリッと二つの瞬きが見上げている。
「ユウナ、みんなと遊ばないの?」
「…。」
「おいで。」
抱っこされながら、ずっと見上げてくる。
「お母さん。」
「なーに?」
「どこにも、行かない?」
実の母に、置いて行かれた事思い出したのかな。
彼女も、置いて行った訳では無い。
帰れなかった、この世にいなかったから。
約束は、出来ない。
もちろん、一人になんかさせたくない。
「ユウナ、離れないでね。」
「わ~ん、母ちゃん!母ちゃん!母ちゃん!」
ギャン泣きする、我が子。
何で、こんな小っちゃい子を置いて行ったんだろう?
元々、肉親の情が薄い。
旦那に保護されるまでは、他からの暴力や誹りで生傷だらけ。
子供だから、食うや食わずのその日暮らしだったのだろう?
たまに、人を避ける事がある。
無意識に、怖がっている。
私に子供が出来たから、無意識に捨てられると思っている。
どうしようも、無い。
私がどう思おうが、ユウナがどう感じるかだ。
言葉で言い聞かせる訳には、いかない。
私は、たった一人のこの子の母親なのだ。
わかってね、あなたが必要なの。母ちゃんも!
いつもなら、授乳させれば落ち着く。
今回は、そんな誤魔化しは効きそうに無い。
泣き止んでは、いる。
愚図っては、いるけれど。
焦っても、どうしようもない。
ずっと、抱いていよう。
きれいな目、モチモチのほっぺた。
離れるくらいなら、食べちゃいたい!
「ハムッ!」
「ママ、痛い!」
「我慢、しなさい!」
「なんでよ、ボクもママを!えーん、ずるいよ。」
短い手足をバタバタさせて、駄々っ子になった。
「ユウナ、正直に言いなさい。ママを置いて行こうと、したでしょ?」
「…、違うよ。」
「ママだけじゃない、ここに居る皆の前から消えようとしているんでしょ?」
「違うよ、ママの馬鹿!違うもん!違うもん!」
「どうした、ママに又怒られたのか?」
「あっ、パパ。」
「ユウナが、早くお嫁に行きたいんだって。」
「ダメだっ、まだ子供なんだから!もう、ずっとお嫁なんかに行かなくていいから。」
「ママっ!」
「だから、ダメだって言ったでしょう。パパが、落ち込んじゃうわよ。」
「全く、そんなに慎吾がいいのか?じゃあ、慎吾をもらってくるか。」
「父さん母さんに、一生恨まれるわよ。」
「そうだな、だからもう少し待ちなさいユウナ。」
「はぁ…、ママ。ボクの、お母さん。」




