空飛ぶ、ユンボ。
まだ暗い朝、小降りになった雪の中を夫と娘が出かける準備をしている。
「貴方、行くの?」
「あぁ、今のうちに片付けないと生活が麻痺する。」
「ユウナは小さいんだし、おいて行けば?」
「こいつも、貴重な免許持ちだからな。重機のオペレーターは、何人いても助かる。」
「お母さん、大丈夫だよ。ボク、ベテランだから。」
「格好いわね、そのドカジャン。」
襟がシルバーのファーになっている、厳つい防寒着。
それにヘルメットを被って、一端の職人だ。
「行くぞ、文太!」
「へい、姐さん!」
「朝から調子いいわね、あの二人。」
「私が嫁ぐ前は、あんな感じだったのよ。」
「ああしていると、ユウナは文太君の娘なんだなぁ。私達は、もう一眠りするよ。お前も、無理しないで休みなさい。」
「うん、おやすみ。」
二人は、国道を塞ぐ土砂崩れの対処に出掛けた。
大雪のせいでぬかるんだ斜面が、雪崩と共に崩れたのだ。
生憎と回り道は一度隣村に出なければならず、通常の5倍ほど時間が掛かる。
ユウナはやはり魔力持ちの為、こういった作業ではかなり活躍するらしい。
もちろん、ユンボを使っての作業だが。
小さい女の子がユンボで、土砂をどかす。
シュールな、絵面だ。
たぶん、〔野郎共、かかれー!〕とか言ってそうだな。
鬼族も牙狼族も、ノリノリの一族だからな。
あの子は王女でも姫でも無く、カシラとか言う奴だろう。
文太が運転するトレーラーからユンボを降ろした、ユウナ。
「者共、かかれー!」
【オゥ!】
案の定、ユンボの上から気合を入れるユウナ。
ユウナが土砂をダンプにいれた所から、文太が杭打ち機で鉄板を差し込んでいく。
鬼族が、鉄板の隙間に、モルタルを流し込む。
牙狼族は、土砂の警戒をしつつ国道の修復を行う。
まるで、自衛隊の業務隊の様である。
たぶん、これが文太の最後の陣頭指揮になるだろう。
次代の学も、じっと手際を見ながら現場を指揮する。
ユウナが男なら、親方の後を継いでうちも安泰だろうに。
荒くれ者達も、ユウナを慕っている。
まぁ、そんな小さな器ではないな。
一区切りついた所で、休憩にする。
ユウナが、魔術で飲み物を温かくしてくれた。
あいつは寒いのに、ガリガリ君を食べている。
「ユウナ、うまいか?」
「うん、学兄ちゃんも食べる?」
「いや、遠慮しとく。」
作業を再開してしばらくすると、昼が近かった。
みんな朝早くからだったので、クタクタだ。
そんな中、ギルドから由美達が差し入れを持って来てくれた。
親方の嫁さんも、ついて来た様だ。
「お母さん、おっぱい!」
何か、ヤバい発言が聞こえた。
「親方が、ユウナを抱っこしてこっちに来た。」
「由美、索敵に反応はあったか?」
「ううん、鳥居は正常通りだよ。」
「そうか、ユウナ魔力の痕跡は無いか?」
「無いね、自然災害だね。後は土魔術で固めるから、お父さんは国道通れる様にしてよ。」
「ユウナ、魔力は大丈夫か?」
「うん、ミミに鍛えてもらったから。それに、ボクは法力を使っているらしいよ。学兄ちゃんも、鍛えてもらいなよ。」
「いや、まだ俺は死にたくない!」
「冷めない内に、食べようか。みんなにも、行き渡ったかな?」
「麻里、ユウナのは何だ?」
「ボクのは、パンケーキだよ。あげないよ、お父さん。」
「ホットケーキか、いっぱい食べろよ。」
「パンケーキだっうの。これだから、年寄りは。」
「ユウナ、このミロはみんなで飲むのかな?」
「やめろや、ボクのミロだぞ!大きくなれないやん!」
ユウナが、昔のきかん坊に戻った。
なんぞ楽しそうだな、親方。
おぉ、ユウナが飛んで行った。
「ユウナ、ムリするなよ。」
「はーい!」
もう少し、休んでいればいいのに。
「学、ローラーを取りに行ってくれ。その間に合材、敷いとくから。」
「わかりました、親方一本もらいますね。」
俺は、タバコと鍵を受け取ってトレーラーの所に行く。
これなら、暗くなる前に終わりそうだ。
市役所の人に邪魔なマスコミを寄せてもらい、ギルドに戻る事にした。
ったく、規制してなかったら明日の新聞の見出しが変わってたな。
‘幼女、ユンボで空を飛ぶ’とか。
ミミ様の鍛錬に、耐え抜いたんだ。
相当、しんどかったろうな。
あの子の根性は、見上げた物だな。
杭打ち機を降ろして、ローラーを積む。
年末にこう言った緊急案件は、堪えるな。
市役所からの実入りも、少ないしな。
誰もやりたがらないから、うちに回って来る。
本来なら、あいつらがやらなければならないのだが。
ダム工事では、いの一番に美味しい所取りしたのに。
妙な、難癖つけてこなければいいのだが。




