第932話 『転移用の小屋』を設置する
村に向かう途中から、ノワール、マリン、大地くんの三人が猛ダッシュ。おそらく、誰が一番に着くか、競争を始めたのだろう。あっという間に姿が見えなくなった。
一方の大人二人、エイデンと稲荷さんは走りながら、何やら話をしている。残念ながらスーパーカブに乗っている私には聞こえてこない。
――この二人のことだから、物騒な話でもしてるんだろうなぁ。
私は知らない、うん、知らない、と心の中で唱えていれば、村の裏手までやってきていた。 スーパーカブのエンジンを切り、タブレットに『収納』して、うちの村のユグドラシルの根元へと歩いて行く。
そこにはエイデンと稲荷さんの二人のみ。ちびっ子たちは、村の中に入っているのだろう。
――相変わらず、デカいなぁ。
根本から見上げるユグドラシル。こんもりと茂っているので、日差しは届かない。幹の太さは、大人が十人、手を伸ばして囲えるかどうか。
それでも、ユグドラシルのばあ様の大きさに比べたら、可愛いものだ。
「望月様、この辺りにどうです?」
稲荷さんが、ユグドラシルの根元の中でも池の近くを指さす。
「了解です」
私は指定された場所へ行くと、タブレットを手に取る。画面で『タテルクン』を立ち上げると、建物のメニューを開く。種類は、温泉に行く用の小屋、『小屋(床:コンクリート) 』と同じ物でいいだろう。
「ポチッとな」
ストンと現れた小屋。そのドアを開けると、見慣れたシンプルなコンクリートの床。当然、今は何もない。
「稲荷さん、じゃあ、ここに『どこでも〇ア』をお願いします」
「(違うんだけどなぁ)……はいはい。繋ぐ先は、ユグドラシルのばあ様の根元でいいんですよね」
「そうですー」
外に出てきた私と入れ違いに、小屋の中へと入る稲荷さん。
「あ、大地、来なさい」
いきなり宙に向かって稲荷さんが声をかける。
「何」
「うおっ!?」
いきなり私の背後で大地くんの声がして、ビビる。いきなり呼ばれたからなのか、ちょっと不機嫌そうだ。
「中に入りなさい。『転移の扉』の作り方を見せる」
「は、はいっ!」
いつになく真面目な稲荷さんの言葉に、大地くんも細い目を大きくして返事をすると、すぐに小屋の中へと入っていく。
中でぼそぼそと話す二人。コクコクと頷く大地くん。彼もちゃんと神様の力の継承を受ける存在なんだな、と、今更ながらに感じてしまう。
「では、やりますねぇ」
……さっきまでの真剣さはどこにいった、というくらい気の抜けた声が聞こえたかと思ったら、ボフンッという音とともに、小屋から白い空気が溢れた。
「うおっ」
その勢いに、思わず声が出る。
「大丈夫か」
「う、うん」
エイデンに抱き止められ、なんとか倒れずに済んだ。そういえば、前回も同じように吹き飛ばされそうになって、エイデンに支えられたんだっけ、と思い出す。
「……これ、俺もできるのかな」
小屋の中から、ポソリと自信なさげな大地くんの声が聞こえた。
「まぁ、今のお前では無理だろうねぇ」
「だよなぁ」
ポンポンと大地くんの肩を叩いている稲荷さん。
いつもの胡散臭い顔ではなく、ちゃんと父親な顔をしていて、思わず、ニヤニヤしてしまった。





