第933話 ユグドラシルのばあ様との再会
転移用の小屋の中に現れたのは、木製の扉。
前回温泉用の時には襖だったけれど、今回はシンプルな木製の扉にしてくれたらしい。さすがに、無意味に襖にはしなかったようだ。
「さて、ちゃんと繋がってるかなぁ」
稲荷さんの不穏な言葉に、心配になる。
カチャリという音とともにドアが開くと、そこには背の高い草が茫々と生えた場所が現れた。
「え、違うところに出た?」
思わず声が出るのは仕方がないと思う。
だって、私のユグドラシルのばあ様のあった場所の記憶には、ここまで草は生えていなかったのだ。
「おや、ちょっと裏手に出てしまったようですね」
稲荷さんが扉の向こう側へと身を乗り出す。
『おや、おまえさんはだれだい?』
ばあ様の声が聞こえてきた。
草の向こうには大木が見えるが、ユグドラシルのばあ様の幹に比べたら細い。普通の木々に比べたら、全然細くはないけど。
「ふむ。おまえさんが、ユグドラシルのばあ様かな」
『そうだけれど……おや、なんともなつかしいちからをかんじるねぇ』
「望月様の土地と、ここを繋げたんですよ。ちょっと草を刈らせてもらいますよ」
稲荷さんがそう言うと、一瞬でシュパパパパっと草が刈られていく。
おかげでそこは、ちょっとした広場になった。
「これでいいか……望月様、確認してください」
「あ、はい」
私はそろりと扉の向こう側へと身をのりだして、くるりと上を見上げると、大きな枝の張っているのが見えた。
『おや、せいじょさまじゃないか』
ユグドラシルのばあ様の声に、そのままドアから抜け出す。ユグドラシルのばあ様の本体は、扉の裏側にドーンと立っていた。
どうもここは、私たちが野営していた場所の裏側にあたるようだ。
「どうも~。お約束通りに『どこ〇もドア』を設置に来ました~」
『ほお、ほお。それがせいじょさまのいっていたものなのだね……このなつかしいちからは、うちのまごかい?』
「うーん、それは私にはわからないけど、この扉の繋がってる場所は、うちのユグドラシルの根元にあるのよ」
そんな話をしている間に、いつの間にか村人たちも集まっていたようで、なんだ、なんだとぞろぞろと出てきた。
その中にはオババさんやベシー、リンダといった薬師組もいて、特にベシーやリンダはワーワー、キャーキャーと草ぼうぼうの中へと走っていった。
きっと私の知らない薬草でも見つけたのかもしれない。(遠い目)
「で、でけぇ……」
そう呟いたのは、大地くん。その気持ちはわかる。見上げているうちに、ころんと後ろに倒れなければいいけど。
『おやおや、ずいぶんとにぎやかだねぇ』
ユグドラシルのばあ様の楽しげな声が、他の面々にも聞こえていたようで、皆の身体がピタリと固まった。
「す、すみません」
『いや、きもちのいいこたちばかりだから、だいじょうぶさ』
「みんな、ここはユグドラシルのばあ様の土地なんだから、気を付けてね」
私の言葉に、村人たちは皆コクコクと頷く。
彼らは大丈夫だろうけれど、と思い、エイデンとノワールのほうを見る。二人は、森のほうを指さし何か話をしているようだ。
――やめてよー。変なことしないでよー。
ちょっとだけ、心配になった私なのであった。





