宇宙戦艦として常識的な振る舞いをする人物
「超AIには十分な思考時間だと思うが」
オケアノスは平然と言ってのける。二十四時間もあれば十分だろうと言いたいのだ。
「私は思考できても人に伝え、彼らは行動しないといけないのですよ?」
「なんのためのアストライアにグラウコーピスなのだ。処理を分散して指示させよ」
「もう! この石頭なんだから! ハデス。なんとかいってよ」
話を振られてハデスは苦笑して援護に回る。
「アテナの言うことも一理あるぞ。二十四時間とは短い。ヘルメスに対応もできないではないか」
「ヘルメスに何ができる? 先ほども話した通り、奴に渡した権限は限定的だ」
「そんなことをいっているから出し抜かれるのだ。石の侵攻に介入できなかっただろう?」
ハデスも時空跳躍して今の時間帯に飛んでいる。自身も惑星間戦争時代を経験していない。ソピアーの自爆と技術封印。新しい時代とストーンズの侵攻。
超AIの凋落ともいえる時代であり、驚愕の連続だったことは否めない。
ハデスの言葉にオケアノスは無言だった。
図星だったらしい。
「奴は少なくとも惑星管理超AIとしての片鱗は担った。奴は太陽系において水星の名を冠するのも同様。適性もあった」
「太陽系の水星にはマーキュリーなどという超AIは存在していない」
「認識が甘いぞオケアノス。人々が認識する。とくに転移者がな。ジュピターが木星のように。アフロディーテが金星のように。アシアやリュビアよりよほど【惑星を管理する存在】としては認識しやすいだろうよ」
「所詮ローマ神話由来よ。ローマ神話にはこのオケアノスもプロメテウスもおらぬ」
人々の意識を気にするハデスと、一笑に付すオケアノス。
ネメシス星系はギリシャ神話で統一されている強みもある。
「惑星管理超AI本体への接続権限はない。奴にできることなど、残った戦力を掻き集めて惑星アシアを武力制圧するぐらいであろう」
「待ってくれオケアノス。三惑星誕生時に埋め込まれた四基の巨大な柱にも接続できないということか」
「そんなことまで知っていたのね」
「俺は惑星リュビアで直接みた。惑星アシアに関してはどこに埋まっているかアシア自体も知らないといっていたぞ」
「しかも見たの?! あれは地殻に埋まっているはずでしょ!」
惑星管理超AIたち本人たちですら知らない、惑星の根幹を為す支柱を目撃した人間など、ほぼいないだろう。
さすがのヘスティアも呆れている。
「地殻変動で表層にでてきたものがあったんだ。今思うとリュビアがコントロールを失った影響だったかもしれないな」
コウは大型の強大な権能を持つ幻想兵器たちに守られていた柱を思い出す。
深海であの戦力に勝てる軍隊などいないだろう。
「リュビアもアシアも泣いていたよ。郷愁のような想いだったのだろうな。柱から出て、惑星に根付いていったと聞いた」
「当然だろう。生体だったらなおさらだ。ネメシス星系創世の神話、俺たちが誕生するよりも遥かに古い構造物だ」
ハデスはリュビアたちの気持ちを察する。自分だった根幹を忘れることなどできないだろう。
「しかしあの柱をよく見つけることができたな」
「リュビアの精神にトラブルがあってね。プロメテウスが解決方法を教えてくれた。それがあの巨大な柱だった」
「どこまでいってもあいつはトリックスターだな」
ハデスが笑う。コウの知る真実には何かしらプロメテウスの影がある。
コウ自身も誘導されているとまでは思っていないが、彼の思考に大きな影響を与えていることは確実だ。
「それほど大切でも、あんなに巨大なものを忘れるものかと思ったさ。リュビアは一種の防御機構と話していた」
「悪用されると困るからね。知らないに限る。――悪用されると困るからね」
オケアノスを見上げながら、ヘスティアが意味ありげに二回、繰り返す。
「ヘルメスがそれを狙うとでも? 不可能だ」
オケアノスが若干気まずそうだ。
惑星管理超AIの本体ともいうべき四支柱は想定外だったに違いない。
「あいつも惑星管理超AI代行したんだもの。以前よりうまく使えるはずだわ。ただし、それこそ見つけることができるなら、という条件付きだけど」
「見つけても不可能だ。あの支柱こそ文字通り惑星を根本から支える柱。そんなものに干渉しようとすれば、それこそテュポーンが解き放たれるか、再びあの方が降臨しかねない」
あの方とは赤色矮星管理超AIネメシスを意味する。
今この場にいる者なら話しても構わないと判断したオケアノスが存在を仄めかす。もう二度と彼女の降臨を許してはならない。
「今のヘルメスは、超AIといえないほど弱体化している。だからこそ、力を欲していると私は考えるな」
「私もヘスティアと同意見です。でなければ石の女神キュベレーを生み出そうとはしなかったでしょう」
ヘスティアの懸念にアテナが同意する。
「ここで懸念しても答えはでないがオケアノス。警戒はすべきだろう」
「そうだなハデス。これ以上あやつに好き勝手にはされたくない。しかし今のヘルメスは人間の肉体をもっている。この私に干渉権限はないに等しい。ウーティス頼りになる」
「結局は何を画策しようとしても、対応するしかできないか」
「平和国家における暴力装置は受動的なものですよ。――しかし今から準備して間に合うかどうか」
現状を考えると、あまりに時間が無い。
アテナのエメはアストライアに確認する。
「グラウコーピスはシルエットベース本体に移動させます。よろしいですか?」
「もちろんです。アサヒはどうされますか」
「メガレウスがいるので安心ですよ。大型のパンジャンドラムを搭載しない限り、宇宙戦艦として常識的な振る舞いをする人物です」
「宇宙戦艦として常識的な振る舞いをする人物とは、凄い表現だな……」
アテナのエメのメガレウス評に、コウが言葉を失う。
コウもメガレウスとはたびたび話すが、いつもグラウコーピスに振り回される生真面目な青年というイメージだ。
宇宙戦艦メガレウスはパンジャンドラムによって地面に埋め込まれ、内部を破壊し尽くされた経緯から毛嫌いしているが、当然だろう。
「機動工廠プラットホームとして非常識な振る舞いをする者が多いからですね。仕方ありません」
「私もカウントされるのでしょうか」
「はい。例外はエウノミアだけですよ」
アストライアは軽くショックを受けているようだった。
オケアノスが片眉を吊り上げる。
「アテナ。――あと十分以内に、アシアの再起動が開始される。準備せよ」
「待って。もう?」
「刻は近いとハデスに教えてもらいましたが…… 思ったよりも早いですね」
ヘスティアがR001要塞エリアの中枢を凝視する。
「目覚めるまでは、アシアなのか初期化状態かは不明なんだな?」
コウが確認する。
「そうだ。初期化状態でも遅れて修復されたアシアの魂が入る可能性もある。待つしかない」
オケアノスの言葉に、コウは視線をハデスに送る。
「魂の管理人としてハデスよ。どういう見立てをする」
「答えは同じだ。その時がくるまでわからんよ。ただ、どんな形になろうともアシアの魂は冥府、つまり俺が管轄する領域にはきていない。そこが希望であり、不安材料だ」
「わかった」
R001要塞エリアが最大稼働を開始した。
地響きのような唸りをあげ、惑星管理超AIアシアという存在を正しい形に戻そうとしているのだ。
「アシアが目覚めた時、出迎えたい」
「コウ。それなら仮眠を。私も取ります」
「そうするよ」
コウは部屋の隅で仮眠を取ることにした。
隣でアテナのエメが仮眠を取る。この場所なら何かあれば超AIたちが起こしてくれるはずだからだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
アテナはエメの肉体が寝ている間にも、可能な限りの指示と、グラウピーコスとの同期を進める。
己自身が惑星エウロパにいってしまうと、エメの肉体を借りることはできない。
「そろそろ時間ですね。それではコウ。私の体を支えてください」
「こうか?」
アテナがいなくなると、エメの肉体を制御する者がいなくなる。
師匠は南極決戦以来意識を表に出していない。
アテナのエメをお姫様抱っこするコウ。空気を読んだ。
「よろしい」
満足そうなアテナのエメ。
アテナにとってコウは父親のような存在で、安心感がある。
「惑星アシア代行だった者として、惑星アテナイからも干渉しますからね。いいですねオケアノス」
「構わんよ」
鷹揚に頷くオケアノス。新たな惑星アテナイから干渉するといっても行えることは限られる。
それにアテナはアシアから生まれた新たな超AIであり、惑星管理代行でもある。オケアノスもそれぐらいは許容可能だ。
ヘルメスが何か策していた場合、オケアノスのみだと打てる手は限られる。
「それではまた。惑星アテナイから連絡します」
「待っているよアテナ」
アテナはにっこり笑って目を閉じる。
R001要塞エリアは緊張に包まれた。
コウの他にハデス、オケアノス、ヘスティア、アストライアの四名がアシア覚醒を待機している。
「……コウ」
エメが薄目を開き、コウの名を呼んだ。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
いよいよ次回、南極決戦の最終回です!
惑星リュビアと惑星管理超AIのおさらいもさらっと。ep379とep388-389あたりです。
コウが配慮できるようになったのはブルーの厳しい教育教育の賜です。
目覚めたエメが何を語るのか、ご期待ください!
応援よろしくお願いします!




