異なる技術ツリーの統合
コウはアストライアに依頼し、インドリクの図面を投影する。
「以前テウタテスの解析レポートを作成したことがあってね。その経験が役立った」
それはヴァーシャの依頼によるもの。倒したテウタテスの権利を有するチームメンバーのバルドに頼んでヴァーシャと交渉した。
テウタテスの解析レポートをコウと同席したクルトが提出するという条件で譲渡が成立したのだ。
「問題はこのインドリクだ。アノモスは実際に戦って、どう感じたか教えてくれるか」
「移動や武装の持ち替えはテウタテスのようだったが、装甲筋肉まで採用している。パイロットが慣れていないから良かったが、手練れだったらまずかっただろう」
「そうだな。特徴としては二つ。まずツインリアクターだ。トライレームのように小型化前提のものではなく、既存のリアクターを可能な限り小型化して無理矢理二基搭載しているので機体は大型サイズのシルエットとなる」
「トライレームのリアクターとどう違うんだ?」
「アシアの提供してくれた小型リアクターは複数搭載を前提にしたもの。その分生み出すエネルギー出力は低いが、設計によっては三基程度までは搭載可能だ。そこまでしてリアクターを搭載するよりは、金属水素生成炉を組み込んだほうがいいだろう」
「しかしこれは既存のリアクターをほんのわずかに小型化したもの。パワーだけなら上ということか?」
ヤマトが図面を睨みながら憶測を口にする。
「その通りだ。既存リアクターなどいじれる部分が少ないからな」
「設計を変えるわけにはいかないか」
「そこはヒョウエさんが詳しいんだが、俺のいた二十一世紀でも自動車のガソリンエンジンの構造自体は四、五十年ほど同じ。細かい改良や素材が変わっても基本構造は変わらない。ウィスによるリアクターなどワーカーが誕生した二万年前が完成形だろう」
「げ。車ってそんなものか」
コウがヒョウエの会社に在籍していたことは知る人ぞ知る話だった。
「四ストローク四気筒のガソリンエンジン。ピストン、シリンダー、クランクシャフト、カムシャフト。これが大型車で六気筒になり、軽自動車で3気筒になったぐらいだろうな」
「転移者は工業関係者が多いもんな」
「俺達がなんで転移したか不明だよな」
ヤマトもツネヨリも剣術を趣味とするサラリーマンだった。
「商社の人間だって転移しているんだ。とくに意味はないさ」
コウが苦笑する。商社の紅信は惑星アシアを飛び回っているビジネスマンだ。彼らとて惑星アシアに転移した事実は不本意に違いない。
「設計が変わっていないということは生産や修理のインフラが整備されているということでもある。これは軍でも重要だ。地球だってずっと長い間、銃弾の規格は同じだっただろう?」
「5.56ミリ弾に7.62ミリ弾。12.6ミリ弾だな。6.8ミリ弾は俺のいた時代では普及したとは言い難い状態だった」
ロバートがNATO銃弾規格を数えた。
「多少外観をいじったリアクター程度のものだ。通常エンジン二基搭載は単純に倍になるわけではないが出力はなかなかのもの。金属水素生成炉も搭載されていた。装甲筋肉採用なので当然だろう」
「インフレ中のさなか、金属水素生成炉もそこそこ価格が落ちたらしいな」
「アシア大戦や新傭兵機構再編、南極決戦でかなりの数が量産されたからな。ヴァーシャも二基の軌道エレベーターを使って購入し続けている。世に溢れたら少しは落ち着く」
今でも辺境の地で金属水素生成炉は重要なインフラだ。
「機体の基本性能は高いということか」
「ポテンシャルはかなりのものだな。次にテウタテス構造ということだが、精査したところ新規格の追加装甲と想定している。テウタテスだけではなく、アベレーション・アームズの技術も入っている」
「というと?」
「シルエットは人間の拡張。基本は人間にない機能はない。その最たる例は内蔵武器禁止事項だ。人体に武装は詰め込めないからな」
惑星アシアに転移したばかりの時期、アストライアに指導を受けたことを思い出すコウ。
「そうだな」
「ただし道具、兵器としての性質はある。追加装甲をつけて背面の榴弾砲を制御する、スラスターを稼働させる程度のことは可能だ。この新規格追加装甲はこの可能性を追求したものだろう」
「追加装甲でテウタテスを再現したと?」
ツネヨリが興味津々だ。テウタテスは円卓の騎士でも苦戦を強いられた強敵だ。
「ギミックとしては、だな。テウタテスの四腕や六腕を簡易的に再現。指がないロボットアーム程度だ。これは俺もベレロフォンでやっている」
「ロケットとして飛行用スラスターを装備したものですな」
フユキは各部隊の装備に精通している。新型のクアトロシルエットの仕様も把握していた。
「ヴァーシャも似たようなことを、それも大がかりなことを考えていたようだ。インドリクを鹵獲できて良かったよ。これはアノモスのお手柄だ」
「どういうことだ?」
「まだ実装されていない機能も追えたということだ。そこでアベレーション・アームズがでてくる」
「人体をパーツとして扱ったあの外道兵器だな」
奴隷階級であるヘロットを人体パーツとして組み込んだアベレーション・アームズはさほど普及しなかった。
近い出来事としては生き残るためにアラクネ型に乗り込んだ子供たちが酷い目にあっている。今やクリスマススパイダーとなったブラックウィドウに搭乗した少年は今なお治療中だ。
「あの兵器の応用だろう。アシア大戦時、アベレーション・シルエットとして武器腕やホバー脚もでてきたが、後継機は出現しなかった。おそらくヴァーシャはその再現。シルエットに大型ユニット接続を目論んでいる」
「あの残骸でそこまで解析できたのか?」
「腕部脚部どころか腰部にまで連結ユニット前提のジョイントがあったんだ。シルエットを使ったテウタテス再現のプロトタイプの可能性もある」
「それは厄介だな」
バリーが思わず顔を歪める。
「パイロット育成が簡単にできるとは思えないけどね。テウタテスはバルバロイというサイボーグ前提の超反応が強さだった。このインドリクは未完成なんだろう」
「どうしてそう言える?」
「この円盤角だ。妙に性能が高い。アルゴフォース……いやストーンズ全体、レーダーを軽視する傾向にあったからな。アンティークシルエットのレーダーで十分だったからだ」
「機体に合っていないほどの高性能レーダーを搭載しているということだな」
「量産機レベルではなく、偵察機レベルのものを搭載している。長距離榴弾砲も考えたが、それよりも大型機に搭載して射程200キロ以上の大型レールガンを運用できそうだ」
「大型機にして撃ち下ろす、か」
「地平線があるからな。背が高いほうが有利だ。しかしそれは的になるということでもある」
「そりゃそうだ。人型兵器最大の欠点だよな」
「さて。ここからが本番だ。アノモスとイオリの腕が立ちすぎた問題でもある」
「ん? 俺とイオリが?」
「インドリクは既存の複合装甲とは違う。おそらくテウタテスと同質のもの。二人はインドリクを斬っているが、一般兵だと刃が立たない。言葉通り、ね」
「既存のシルエットだと斬ることができないのか?」
「テウタテスより装甲は薄いが、一般のパイロットには無理だろうな。影武者部隊所属の人間なら斬ることはできるはずだ」
「やべえな。斬れなかったら影武者部隊失格かよ」
ヤマトが真顔でおののく。影武者部隊に新たな基準が生まれるとは思いもしなかったのだ。
「ヤマトやツネヨリなら斬ることは可能だろう」
アノモスは一蹴する。二人はアノモスより腕が立つ。
「プレッシャーをかけるなアノモス」
「斬りたいなあ」
そういわれてはツネヨリも、インドリクを斬りたくなって仕方がないようだ。
会話だけ聞いていると物騒な人斬り集団だ。
「斬る機会は嫌でも増えるさ。あいつらがスフェーン大陸だけに留まるとは思えない。でここからが重要だ」
「さらに重要な話があるのか……」
「戦略的な話だな。アストライアの予想だが、ヘルメス軍はテウタテスの製造技術、つまりバルバロイたちがもっていた技術を吸収している。技術解放を自力で行ったということになるか」
「可能なのか?」
「盲点だったが、あいつは惑星リュビアを解析して惑星エウロパの管理超AIとなった。超AIアシアの解析もアテナを誕生させたことで知見はあるはずだ。残されたバルバロイの技術を解放するぐらいの力はつけたのだろう」
「ヘルメスは自分と同じ属性、石の女神キュベレーを模した超AIを創造しようとしていました」
コウの言葉にアテナのエメが語る。
四人目の闇墜ちしたアシアから石の女神キュベレーとして誕生する予定だった。
ヘスティアの奮闘がなければその目論みは成功していただろう。
「ヘルメス神は錬金術の神でもありましたね」
「ええフユキ。ヘルメスは水銀、万物の変換も司ります。もっとも有名な寓話はギリシャ神話ではなくイソップ童話にある金の斧、銀の斧でしょう」
「あれ? 鉄の斧を落とした正直者のきこりだよな。泉の女神じゃなかったっけ」
ヤマトが子供の頃読んだ児童書を思い出しながらコウに聞いた。
「女神の姿は日本だけだそうだ。欧米諸国の童話はヘルメスもしくはマーキュリーのままらしい。とまあ日本でも有名な逸話でもある」
ヤマトが肩を落とすがスルーする一同。
「ヘファイトスは兵器の製造。昔の私なら運用。ヘルメスはマテリアル関連に関しては彼の権能範囲。バルバロイがもつ惑星間戦争時代の技術だけ解放されたとみるべきでしょう」
「まずくないか? 荷電粒子砲とかも作れるんだろ?」
「無理矢理なら私たちだって製造可能ですが、極めてコストのかかる兵器になるでしょう。テウタテスもビーム兵器装備機は少なかったはず。量産レベルに落とし込めるかは疑問ですね」
『バルバロイの技術を手中に収めても惑星間戦争時代のような威力を出すことは難しいでしょう三分の一程度です』
「三分の一程度とはいっても数百メガジュールの威力をもつわけだろ? 厄介だな」
バリーが首を横に振る。楽観視はできない。
「厄介ですよ。我々だって幻想兵器の残額を用いて一部兵器に搭載するのがやっとですから」
コウが説明を再開する。
「問題は技術系統なんだ。バルバロイ技術、アベレーション・アームズの技術、既存の技術。異なる技術ツリーの統合をはかったんだろうな。そして警戒すべき点。それは無人機だ」
「無人機? マーダーか!」
「パイロットがいないならマーダーをまた使うだろう。これまでの技術ツリーを統合して再設計したものを。ヘルメス軍はエウロパ資源と惑星アシアにある二基の軌道エレベーターを活用して軍備を整えているだろうな」
アテナのエメが軽く嘆息する。
「私がエウロパを管理すれば停止もできますが。アシアがいつ目覚めるかはわかりませんが、ヘルメス軍の活動は活発になっています」
「南極決戦が終わってから動いていたんだろうが、短期間での資源採掘には限界がある。どの程度が読めないが無限というわけではないはずだ」
バリーも予想する。少なくともインドリクはスフェーン大陸で試験運用中だったとみるべきだろう。
「モチーフであるヘルメス神は魂の導き手の側面も強い。アシアの魂にこそ細工はできませんがなんらかの情報は握っていると思われます。動くとしたらアシアの身に何かが起きてからかと」
アテナのエメもヘルメスの動向を注視しているが、彼女の観測範囲内では真面目に惑星エウロパの運営はしている。
コウの背後から声がする。
「そうですねえ。その話をするためにもR001要塞エリアで話し合う必要がありますね。コウもアテナのエメもきてください」
驚いたコウが背後を振り向いた。
眼鏡をかけた優等生スタイルのヘスティアが笑顔で佇んでいた。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
コウはインドリクを解析しました。
コウとクルトの解析レポートの話はep462です。
アベレーションアームズとアベレーションシルエットという単語も久々ですね。アシア対戦時、カストル死亡によって途絶えたと思われた技術は生きていたわけです。
自動車は品番設計で協力会社変更(下請けといってはいけない)などはよくあるお話。
二輪なども同じ形状の部品が続いて、旧車用にレストアパーツを作る会社もあります。
部品供給義務はだいたい十数年ですがメーカーによって違いますね。
永年保証のとある車種も長い保証ですが永年ではなくなりました。二百年先にその会社が存続しているかどうか、誰にもわかりませんよね。
ずっと仮題だった今章も「南極決戦」と改題しました。
そろそろ決算時期ということで頑張って執筆しています。
今章終了後は告知通り、書けなかったエピソード期間をしばらくおいて充電します。毎週更新は変わりませんのでご安心ください。
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