↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
南極決戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

619/682

合理化に徹した機体

  アストライア艦内で、アテナのエメは スフェーン大陸の報告を直接聞いていた。

 報告者は実際に潜入したツネヨリとヤマト、アノモスとファミリアたちだ。

 アテナのエメ以外にはコウやフユキが同席。通信ではバリーとロバートも参加している。


「事前に提出してもらった資料に目を通し、皆さんのお話を聞きました」


 アテナのエメは片手で頭を抑える。幼い顔立ちは非常に渋い表情をしていた。


「なんといいましょうか。――20世紀以降にいた転移者の思想とは思えません。中世のヴァイキングやバルト海の海賊たちが樹立した国家を連想しますね」

「やり方が蛮族だよな」


 ヤマトが笑う。近代国家アメリカ出身とは思えない。


「新自由主義? 小さな国家? どちらでもないのでしょうね。単なる弱肉強食に適当に添えられた統治制度に思えます」


「実際その通りだと思うぞ。そんなご大層な主義は持ち合わせてはいないだろう」


 ツネヨリもアテナのエメの意見に賛同する。


「新自由主義は経済の弱肉強食の側面がありますからな」


 フユキも渋い顔をする。ジョセフの敷こうとする国家観や経済は乱暴なものだ。


「先を見据えた今後を考えているような統治ではない、か」


 コウの感想を聞いてバリーが嘆息する。弱肉強食な思想だと、軍拡しかないからだ。


「その意味ではストーンズたちのほうがよほど考えていたといえるでしょうな」


 フユキが皮肉に応じる。


「金をばらまいて傭兵を。時には拉致る。海賊国家だったイギリスみたいだぜ」


 ロバートが笑い、アテナも弱々しく肯定する。


「近代イギリス海軍は浜辺に歩いていた体格の良い青年を拉致していた逸話がありましたね」

「しかしてっとり早い。金や定住する場所を与えれば、収まる。今のA001要塞エリアは活気があるぞ。品がいいとはいえないが、治安も悪くない」

「下品な街で治安が良いってどういうことですか……」


 アテナのエメも困惑するような街だ。


「気品を形成する富裕層がいないということでしょうな」

「納得です。古代ギリシャにおいて政治は貴族のものでした。ネメシス星系はAIが管理していますから貴族階級はいません」

「貴族に相当していた半神半人も壊滅した。そこに文化の振興がなだれこんで、一種のお祭り騒ぎなんだろうなとは思う」


 ヤマトが感想を口にする。カホンなど単純な楽器でさえ、目新しく人気がある。


「ネメシス星系初期はそんな状態だったんですけどね」

「そうなのか?」


 超AIたちがネメシス星系初期を語ることは少ない。

 コウも思わず聞き返した。


「そうですよ。労働から解放された人類は文化発展に専念するはずだったのです。そうはなりませんでしたけどね」


 アテナのエメが苦笑いする。


「過ぎ去りし日を思い返すことはやめましょう。A001要塞エリアは音楽と傭兵の街ですか。A051要塞エリアはどうなりましたか?」

「A001要塞エリアを鉄道で繋げていたぜ。人々の往来も活発になった」

「鉄道?」


 コウが驚く。鉄道網利用は自分たちの専売特許だと思っていたからだ。


「スフェーン解放軍とやらは節操なく、地球時代のいいところや俺達がネメシス星系で復活させたものを採用しているとみていい。ジョセフという男は柔軟な思考をもっている」

「ヴァーシャやヘルメスには無理な政策ですね。スフェーン大陸を中心にヘルメス軍の基盤を作りたいといったところでしょうか」

「ストーンズが築いた政治基盤を投げ捨ててもか?」


 ツネヨリが疑問を口にする。ストーンズの自治は非人道的とはいえそれなりに上手くいっていたはずだ。


「それでは人が育たないと悟ったのでしょう。ストーンズ時代、指揮官不足は致命的。完全平等という名目もあって構造的に育たなかったですからね」

「ヘルメスが肉体を得て実権を握った結果、ストーンズのやり方にあわせる必要もないか」

「転移者の存在はヘルメスにとっても救いだったのかもしれない。彼がようやく寄り添える人材が集まったわけですから」

「しかし税金の概念が未知のものだったとはな。自分でも意外だったが、惑星アシアに転移してからは給与明細なんて見ていないからな」


 ツネヨリが苦笑する。剣術家とはいえ、普段は仕事もしていた。


「俺はいまだに税というものがよくわからない」


 アノモスが困惑している。治安はファミリアたちが行っていた。防衛は傭兵機構を通じて防衛ドームが出資していた。

 転移者にとってはある種理想の無政府国家状態だったともいえる。 


「A001要塞エリアが音楽や芸術を振興させることによって、付加価値が生まれました。道具にも、創造されたものにも、です。ネメシス星系ではオケアノスから発行されるIDがあれば良かったのです。嗜好品が欲しければ他人よりも大変な労務に付けば良かったですし、食べるだけなら水も食事の配給もあり飢え死にすることはありません」

「そうだよな」

 

 アノモスの常識と転移者の常識は大きく異なる。


「資産の流動はありましたが、蓄財する必要もとくになかった。本来は、です。しかし惑星開拓時代、惑星間戦争時代、そして現行世代で戦争し、消耗が激しくなり貧富の差が生まれました。これだけは惑星管理超AIといえどどうしようもありません」

「それでもオケアノスは人類に対してフォローを行っていた。マーダー撃破に報奨金を出すなどしてだ」

「そうです。そして転移者たちが起業し、企業が軍を持つようになりました。技術力とビジネスは別問題です。そうですよねフユキ」

「仰る通りです。ジョン・アームズは安価な量産品に徹することで最大企業に成長しました。日系企業でも技術力がある御統より生産力を重視した五行が企業規模は桁違いに大きくなりました」

「そして商社という概念まで転移者から持ち込まれました。今や彼等は惑星アシアに欠かせない存在です。国家形成時代の幕開け。それは徴税時代の幕開けかもしれませんね」

「嫌な時代の幕開けになっちまったな」

 

 ロバートが首を横に振る。税金を払うことが大好きな人間はいない。


「ジョセフはどんな国を目指しているのだろうか」

「スフェーン大陸の統一と他大陸への侵攻でしょう。ただ指揮官不足の今では拡大路線にも限度があります。まずはスフェーン大陸でみせしめするのでしょうね」

「みせしめ?」

「税金ですよ。露骨に差をつけるのです。ジョセフの直属や最初から友邦的な意志表示を示した要塞エリアなどには二割。それ以外は徐々に吊り上げていくわけです。軍隊を差し向けるぞと」

「その話はやめないか? 俺は関係ないのだが、やはり住んでいた場所が場所で耳が痛いのでな」


 ヤマトが渋い顔をする。薩摩藩の歴史を思い出したからだ。


「ふふ。八公二民ですか。この話はこれでやめておきましょう」


 アテナのエメやフユキは何かを察したようだ。コウやツネヨリ、アノモスは気付いていない。


「次に新型シルエットです。コウの解析結果を教えてください」


 アストライアとコウは鹵獲した兵器の解析を行った。


「ヴェルリオカとインドリクの二機種についてだ。まずは一つ目のヴェルリオカだ」


 アストライアがコウの言葉にあわせて、図面を投影する。


「基本はワーカーと同じ構造。つまりベア系統のさらなる発展型だ。これはA051要塞エリアで量産されたものだろう。目新しい技術は投入されていないが、生産性を維持しつつ可能な限り装甲と火力を重視したバトルシルエットだ」

「こちらでは新型バトルシルエットのシユウがいる。同じようなものか」


 バリーがトライレームの新型量産機を挙げた。


「いいや。設計思想がまったく違う」

「どういうことだコウ。目新しい技術もなく生産性を重視しているんだろ?」

「目新しい技術もなく、生産性を向上させてもこれだけの差がでるという好例だな」


 コウはヴェルリオカの先にいるヴァーシャを見据えている。


「このヴェルリオカは、一切の追加装甲装着を前提としていない。背面には追加装甲の機能を内包しているんだ。その分可能な限り全身の装甲を厚くしている。とはいえ単純なベアの装甲強化版であるエレファントとも違い、大型リアクターを搭載。運動性もある程度は確保してある」

「追加装甲を装備できないシルエットだと?」

「割りきったものだと感心するよ。一切の設計のあそびを捨てて拡張性を捨てて均一性を取ったんだ。レールガンや榴弾砲も含めて武装は既存のものが使える。生存性をあげつつ、徹底的な生産性と装甲強化に振った機体だ」

「それもどうなんだ。汎用性こそシルエットの強さだろう」

「俺もそう考えているし、ヴァーシャもそう考えているはずだ。それはそれとして一般兵用のために運用の差異を最小限にして合理化に徹した機体ということだろう。完全に支給用だな。発展性も投げ捨てている」

「それもまた思いきった機体だな」

「本人の設計思想と目的のために構築した兵器との差が顕著にでている。シユウはウンランが運用者の思想を重視して各種の兵装に対応した機体だ。追加装甲次第では機動力の向上も見込めるが、ヴェルリオカは諸兵科運用を諦めて素人が操縦することを想定している」

「トライレームとは違い、ファミリアがいないからな」

「運搬も補給も補修するにも人がいない。その結果生まれたシルエットだと最終的に判断した。壊れたらその部分を交換するんだ。パイロットも含めて、だろう。設計思想を反映されたものではなく、誰でも使えてそこそこ強いシルエットというコンセプトを追求したんだろう」


 コウがひとまず区切り、話を続ける。


「次にインドリクだが、これはヴァーシャの設計思想が滲みでている」


 アストライアはコウがそう評した機体の画像を投影する。

 インドリクの先にいるヴァーシャに、コウは新たな戦乱を予期していた。


いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


今回はアテナのエメによるジョセフ新国家体制評です。

蛮族。

八公二民は容赦ないですが一時期は九公一民もあったという説もあり、薩摩怖すぎです。

基本、七公三民程度で国家体制が崩壊するか蜂起される可能性が高いという分析もあります。

フランス革命直前では農民は六割の税金でしたが、さらに塩の税(ガベル)がかかりました。塩には購入義務もあり、購入義務がある消費税のようなもので不満が高まりました。

フランス国家の歌詞は過激ですね!


コウによる鹵獲分析です。

ヴェルリオカは追加装甲を装着できません。追加装甲前提の背面ジョイントなどはついています。

大型リアクターは旧型のもので、アシア大戦時、ツインリアクターに対抗するために従来のリアクターを大型化して出力をあげたものです。

装甲圧はエレファント並みながらベアなみの運動性能も誇ります。使い勝手だけは良いですがカスタマイズ性能はほとんどありません。

現実の兵器だとT-34に近いかもしれませんね。主砲が一回変更になってあとは工場ごとのバージョン違いです。



シルエットの説明回は実に久しぶりかもしれませんね。Pの説明回のほうが多いのではとツッコミされないように頑張ります!

次回は本命インドリクをコウが説明します!


応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
誰でも使えてそこそこ強い…… グレイズとかデミトレーナーみたいな感じかな
兵士に個性は必要ない。運用の理想ですが、未だ石側にはそれを覆すだけの人材がいない証左でもあり… それはそれとして物量は脅威の一言。どれいとは違うのだよどれいとは! 技術回は久しぶりですよね。二極分化な…
21世紀ですら九公一民を制度とした北なんちゃらなんて国もあるんだしヤマトは気にしすぎないで大丈夫だよ、薩摩藩は北なんちゃらより民に優しい 実質的には九割五分公五分民だとかも言われてたけど
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。