ライブラ1の本気
コウの言葉を聞いてふたたびアノモスが蒼白になる。
「あんたは来るな!」
「俺は行かないさ。安心しろ」
コウが唇の端を歪ませて笑う。
「もうあの時のようにはさせない。お前の家族であるファミリアは死なせない」
「……知っていたのか。当然、か」
それはアノモスと名乗ることになった出来事。
彼以外のファミリアが全滅した事件を意味していた。
「イオリから報告は受けている。ジョセフという指揮官ならすぐに動くとアテナのエメが判断した。A112防衛ドームもお前の予想通り、敵が攻勢にでた。こちらもフォローする」
アテナのエメはジョセフという男をある意味信用していた。
撃退されたならすぐに倍返しするだろう、と。ヒヨウを撃墜し、クルトとフラフナグズに奇襲をかけた男だ。間髪を入れずに次の手を打つはずだという確信めいたものがあった。
戦術家同士の読み合いともいえるだろう。
「助かる」
A112防衛ドームが気がかりだったアノモスが安堵する。
「アノモスとイオリに危険な任務をさせるわけにはいかないな。次こそは俺が出撃しなければ――」
「認めません! ブルー! 捕まえて!」
「わかったわ。にゃん汰、アキ! 一緒に!」
「にゃ」
やる気がなさそうなにゃ、という声がする。
「わかりました!」
一方アキは気合いが入っていた。
「うわ、何をする。やめ――」
通信の途中、アテナのエメとフェアリー・ブルーの声が乱入し、入れ替わる。
「アノモス。安心して。コウは出撃させないから!」
肩で息をしているアテナのエメが画面に映った。
「ハンガーキャリアーのファミリアたちからもあなたたちへの救助要請はきていたわ。事情は知っています。イオリは一緒にいたかったのでしょう。ネレイスはみんな口下手だから許してあげてね」
ブルーは同胞の気持ちを察する。彼女とて冷たい女とよく言われていた。
「まったくみんなは……」
アノモスは周囲の人間に気を遣われていることを実感する。
先ほど判明した自分の子供ということも実感が湧かないが、周囲の反応が違っている。
「おもしてかね」
「笑い事じゃないぞ。戻ったら大変だ。早くイオリの父上に挨拶いかないとな」
いきなり義父と呼んでいいのか、アノモスは混乱しているが、今はそれどころではない。
「じゃっどなー」
イオリは珍しくけらけら笑っている。いつもと様子は違うようだった。
「援軍はもうすぐ到着します」
背後の空中で爆発が発生する。
可変機部隊は攻撃を受けているようだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
アリステイデス艦長ロバートはまずハンガーキャリアーの回収を最優先した。
「間に合ったか」
ハンガーキャリアーはプラズマバリアを張りながら蛇行運転して回避行動をとり続けている。
少しでも生き延び、アノモスたちの時間を稼ぐためだ。対空射撃でミサイルを迎撃し続けている。
『回収します』
「いけるか?」
『巨大自走爆雷の制御に比べれば戦闘中のハンガーキャリアーを回収する作業など手間にもなりません』
ライブラⅠとライブラⅡはパンジャンドラムに苦手意識があるようだ。
アルラー編隊の間に突撃して、すかさずワイヤーを投下して五十メートル近くあるハンガーキャリアーを回収する。
『回収完了。アイギスシステム連携。オウルアイシステムを利用して敵アウラー部隊に攻撃を敢行します』
「やる気だなライブラ」
『この艦で生まれた命があるのです。もはや私の子供といっても過言ではないでしょう。ライブラⅠの名にかけて必ず回収します』
過言である気はするがロバートは黙っていた。ライブラⅠがやる気なのはいいことだ。
ライブラⅠとⅡはアストライアのコピーともいうべき分霊だが、ライブラⅠのほうが判断力と制御能力に優れている。
それはライブラⅡとの差、実戦経験の差だ。
ロバートに付き合って無謀な作戦をこなしつづけた結果、無理矢理成長したともいえる。純粋な戦闘能力なら補給用途に特化したホーラ級エウノミアよりも上だという判断がアストライアが下している。
「制空部隊出撃せよ!」
制空部隊はラニウスD型とサポート戦闘機のアナライズ・アーマーとなるボレアリスの組み合わせとブレードスイフトだ。
ボレアリスとブレードスイフトはファミリアが搭乗している。
「アリステイデスは低空飛行。高度を取るな」
地上から大口径レールガンなどの対艦攻撃を避けるためロバートは操舵を行い、アリステイデスは低空飛行に移行した。
『アリステイデスから対空兵装で牽制します。編隊を崩さずに攻撃を』
ライブラ1から対空兵装の射線が提示される。大型のミサイルが垂直発射装置から放たれる。
アルラーもアシア大戦時より性能が向上しているが、射程外からの攻撃には驚いたようだ。
「まずは牽制だ! 相手が反撃するか様子を見る!」
ロバートの合図でパイロットたちは中口径レールガンを発射する。
大型ミサイルとレールガンによる威嚇で、アルラー編隊はすぐさま全機、旋回して逃走を開始する。
「ライブラⅠ。敵はどうだ?」
『アイギスシステムにて敵航空部隊を確認。当艦の部隊をみるなりすぐに撤退したようです。敵指揮官は徹底的な戦力温存を図っていますね』
「それも含めて報告しないといけないな」
『アリステイデスを攻撃する気配も感じません。小さな防衛ドームのために宇宙艦と交戦する気はないということでしょう』
「まったく厄介な奴が指揮官になったもんだ」
ロバートはため息をついた。
「アノモス。イオリ。アリステイデスまで飛翔できるな?」
「視界に入った。大丈夫だ」
二機のラニウスCblockIVは上昇する。宇宙艦は滞空が苦手なので、先に飛行して近付く必要がある。
無事二機は底部のハッチから着艦した。
ファミリアたちがイオリのラニウスに取りつく。
「今すぐ医務室へ。精密検査を」
「大げさじゃなあ」
「安定期にも入っていないのに! 気付いていたら安静にしていないとダメなの!」
羊型ファミリアがイオリに厳しく注意している。
そのまま医務室へ連れていかれた。
「アストライアへ。こちらアノモス。アリステイデスに帰投した」
「こちらアテナのエメ。お疲れ様。あとはこちらに任せて下さい。イオリのフォローを頼みます」
「わかった」
アノモスはラニウスを降りて、猫型ファミリアに整備の打ち合わせを行う。
その後、イオリのもとへ向かうのだが、気が重い。何を話していいのかわからないのだ。
アノモスの表情から察したファミリアが、何気なく声をかけた。
「イオリのことは大変だが、朗報には違いない。良かったな」
「そうだな。喜ばしいことなんだ」
多くの命が喪われた惑星アシアで、新たな命が誕生する。
「なあに。心配するな。お前達には無数の家族がいるんだからな。過去も、現在も。そして未来もだ」
「亡くなったファミリアたちも喜んでくれるはずと思いたい」
「そりゃ大喜びに決まっている。知っているか? このアリステイデスを管理しているライブラⅠだって喜んでいるんだ」
「ライブラⅠが? どうしてだろう」
「俺達ファミリアとは違い、管理系のAIには意志はあるが命はないからさ。お前達の子供はこの艦ゆかりには違いないだろ?」
「……そうだな」
ストレートに言われると、さすがに気恥ずかしいアノモス。
同じ環境にビッグボスであるコウもいることが幸いだ。
「さあ。整備は任せてイオリのもとへ急ぐんだ」
アノモスは手を振って感謝の意をファミリアに伝え、小走りにイオリが待つ医務室へ向かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
アリステイデスはA112防衛ドーム付近に着陸し、代表たちと話し合うことにした。
「もし私たちが避難を希望した場合、この宇宙艦に搭乗させていただけると?」
初老の男はロバートの体躯に若干怯えているようだ。
「そうだ。一度に全員は無理だが、二回ぐらいにわけてなら可能だろう。生まれ育った場所を離れるということは辛いことだと思うが、俺達も常時貼り付けるわけではないからな」
「もちろんです。ではB812要塞エリアに運んでいただけると」
「もしくは住民全員がシェーライト大陸の防衛ドームに移住するか、だな」
「全員が一度にですと?!」
代表は驚きを隠さない。疎開となれば家族離散が世の常だからだ。
大量の避難民を引き受けてくれる自治体などない。
「シェーライト大陸もストーンズの侵攻で住民が逃げ出して棄てられた防衛ドーム跡地が山のようにあるんだよ。A112防衛ドームのAカーバンクル移設が条件になるが……」
初老の男は防衛部隊の隊長や防衛ドームの地区長と顔を見合わせる。
ストーンズの侵略にあった惑星アシアの住民は彼等も同様だと改めて思い知ったのだ。アシア大戦時、メタルアイリスとユリシーズが単独でストーンズに勝利した事実は重い。
「スフェーン解放軍やマーダーが押し寄せることがない、我々の防衛ドームをもっていい、ということですよね」
「報酬もろくに払えないのに。スフェーン解放軍のように徴税などもないのですよね?」
「徴税などしないぞ。そうだな。うちのビッグボスならこういうさ。もしスフェーン解放軍に追われた人たちがいるなら助けてやって欲しい。それぐらいだろう」
代表たちはその言葉に決心した。
「急いで住人たちを説得します。女性と子供だけ、先に避難をお願いしたい」
「わかった。数千人程度ならこの艦でも収容可能だ。任せてくれ」
ロバートの隣にファミリアが寄ってきた。
「ボクたちも誘導するよ!」
「頼んだ」
遠い目をする代表たち。
「ファミリアですか。数年前、A001要塞エリアとA051要塞エリアが陥落する前には、この防衛ドームにもいたのですが……」
「マーダーが抹殺対象にしていたからな。ファミリアたちもストーンズ勢力下に落ちたスフェーン大陸から退避せざるを得なかった」
「はい。生産施設は破壊されましたしね」
「シェーライト大陸ではアシアによってファミリアが生産されている。アシアの意志が途絶えた今現在も」
「……例の侵略者ですか」
「あいつらは倒したが、アシアも元には戻っていない。力を合わせて乗り越えるしかないんだ」
代表たちも気を引き締めた。トライレームも決して余力があるわけではないのだ。
「大変な時にお邪魔するのも気が引けますが、私たちもできる限り力を合わせて協力します」
「離ればなれにならないだけ、幸いなんだ」
A112防衛ドームの人間たちの反対は少なかった。
住人まるごと、新天地に移転という提案が破格であることはわかっていたからだ。この機を逃すと、襲撃に怯えながら暮らすか、税金を払いながら息苦しい生活を強いられる。
生活の場所が変わるとはいえ、今までとおりに近い生活がある程度約束されたようなものだ。
ジョセフの想像以上に、惑星アシアの住人たちは税という概念に忌避感が強いのだ。
「徴税、か。嫌なものを惑星アシアに持ち込みやがって」
ロバートが毒突く。税金を喜んで払う者はいない。少なくともロバート自身が地球にいた頃はそうだった。
ジョセフは明らかにヴァーシャやかつての敵カストルとも違う、行動指針が明確な支配者ともいえる男だった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
ラニウスCblockの表記を訂正。英数字block4です。ローマ数字って機種依存文字で文字化けしたので訂正しました!
ライブラ1とロバートは艦艇での経験値を積んでいますので、性能もアップしています。
アストライアも登場した回より成長しているので、企業に貸し出しされているペリクレスよりもアリステイデスのほうが最前線で活躍しています。
無事アノモスとイオリを回収。ライブラ1はコウとブルーの子供も待ち望んでいます。
肉体をもたない高性能AIは自分にゆかりがある人の生命にはとても敏感です。
イオリはマタニティハイの可能性? アノモスのプレッシャーたるや。
ネメシス星系は農業も畜産も工業もロボットや培養できるので、税という概念が希薄です。
オケアノスから支給されている物品(鋼材や金属水素生成炉やMCS)などは内税という感覚でしょうか。通貨の発行がオケアノスのため一元管理もできています。
ネメシス星系におけるAI社会の究極的な利点は、我欲による蓄財がないこと、再分配のための公平性の担保かもしれませんね。
労働の収支が無人部分が多くを占める上にAI管理社会なので所得の再分配が発生しないのですね。
傭兵管理機構やトライレームなどへの防衛依頼は実費と労働報酬のみ。
三惑星はどこも同じ感じです。ネメシス星系三惑星の住人たちにとって税金という概念はジョセフの想定以上に忌避感があります。
転移者のほうがすんなり受け入れられることになるでしょう。
松下幸之助が提唱した無税国家論が日本で実現することはあるのでしょうか。
無事東京から戻りました。
内容はかなり濃かったです! 落ち着いたら活動報告や近況ノートでざっと書きたいと思います。
台風接近で小雨ぐらいで助かりました。立食パーティ、今回はちゃんと食べました!
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