逃げ場なし
スフェーン大陸には、所属を明確にしていない要塞エリアや防衛ドームが無数にある。
ストーンズの侵攻が激しく、要所であるA001要塞エリアやA051要塞エリアが陥落しても抵抗を続けている者も少なからずいる。
ジョセフによって結成されたスフェーン解放軍は、中立地帯を襲撃して傘下に入らないと略奪して帰投していく。
根負けして傘下になると納税義務が生じてしまう。
かといって抵抗してもいたぶるように襲撃してくるのだ。
「くそ。またあいつらが迫ってきている…… 今日はA001要塞エリアで軍事パレードではなかったのか!」
スフェーン解放軍は軍事パレードの裏で略奪を進めていたのだ。
「あいつら、破壊と略奪だけして帰っていくんだ! 必要だからじゃない。少しずつ、こちらが根を上げるまで奪っていくんだ……」
防衛部隊にも限界がある。
ベアやグリズリー。トライレームからラニウスAなど購入しているが、相手にならない。
防衛ドーム同士で合流する自治体もあるが、時間の問題だ。
「防衛ラインを整えろ!」
シルエットが防衛ラインを整え、ファミリアたちはハーフトラックに乗り火力支援のため出撃する。
「ん? トライレーム? なんでこんなところに」
トライレームからの通信が、防衛ドームの守備隊に入る。
「こちらトライレーム。通りすがりだが、賊らしき連中を視認したので迎撃するが、問題はないか?」
「こちらA112防衛ドームの守備隊だ! 協力に感謝する!」
守備隊に希望が見えた。しかし次の瞬間、呆気に取られる。
出現したシルエットは二機だけだからだ。
「二機だけか…… しかし贅沢はいうまい。少しでも戦力は欲しい」
出現したシルエットはラニウスAに偽装したラニウスCblockⅣだ。
パイロットはイオリとアノモス。
「連中、A001要塞エリアで軍事パレードをやるために戦力を掻き集めたように見せかけていて、その実数倍の戦力をすでに実戦運用していたか。パレードの裏できっちりと別働隊が略奪とはな」
「やっしかなか」
「他方面にも向かっているな。大々的な軍事パレードそのものが囮だったということか。諜報戦に長けた厄介な指揮官という噂は本当のようだ」
他の影武者部隊も多くはスフェーン大陸を偵察中だったが、スフェーン解放軍と遭遇してしまったのだ。
他大陸にまでA001で軍事パレードを開催すると、トライレームや中立の要塞エリアを引きつけ、その裏でこっそりと暴力と謀略で支配圏を広げていたのだ。
「新型か」
見慣れない機体が二種。モノアイ型シルエットが九機に、左右に円盤状のアンテナを装備した大型機機が三機の計十二機だ。
「電弧刀をもってくればよかったな」
「問題なか」
ラニウスAに偽装しているため、ラニウスは量産大剣を装備している。
五番機が初期に装備していた試製大剣の量産品でTAKABA製だ。当時より品質は大きく向上している。
「一つ目に円盤角か」
「防衛部隊に一つ目は任せっど」
二機のラニウスがローラーダッシュで敵部隊に殴り込む。爆轟駆動は封印中だ。
「おい? なんかラニウスがいるぞ」
「インドリクの敵じゃねえな! 見せしめにぶち殺すぞ!」
円盤角と呼称されていることも知らず、二機のラニウスを獲物とみたインドリクはスラスター移動を開始する。
ラニウスを射程内に修めると、大口径のレールガンランチャーを発射した。
回避行動を取り、蛇行で回避する二機のラニウス。
「ひゃっはー! 貴様たちから血祭りだ!」
背面の大口径機関砲を取り出し、両手射撃で面制圧を試みるインドリク。
50ミリ口径程度の機関砲弾ではラニウスCblockⅣの装甲は貫通できない。
「よそ見してんじゃねえよ!」
インドリクは巨大な斧に持ち替え、斬りかかる。対戦車用戦斧だ。
「持ち替えが速いな。――先ほどのスラスター移動といいテウタテスの技術か?」
四天王を思わせるスラスター移動。多腕ではないが、武器の豊富さはエース機テウタテスを彷彿させる。
「爆轟駆動解禁じゃ」
ほとんどの砲弾を大剣で受け止めたイオリのラニウスが爆道駆動を解禁する。アノモスも続いた。
二機のラニウスはAK3しか装備していない。斬ったほうが早いと判断したのだ。
「な、なんだ?」
一瞬で側面に回り込まれ、アノモスのラニウスを見失うインドリクのパイロット。
大剣を一閃し、左腕部を斬り飛ばす。
「装甲筋肉を採用しているのか!」
スラスター移動もそうだが、金属水素生成炉を持っている可能性は高い。
「畳みかける」
アノモスのラニウスは大きく腰を落とし、横薙ぎに大剣を振るう。
慌ててインドリクは左腕の戦斧を振りかぶるが間に合わない。
「遅い」
インドリクは腰部から切断された。
「バルバロイのような超反応でなければ、この程度か」
「油断すっな」
イオリもインドリクの装甲を穿ち抜いて撃破していた。
「なんなんだよ! お前ら!」
想像もつかない強敵の出現に、残されたインドリクのパイロットが半狂乱になる。
レールガンランチャーとロケットランチャーを取り出し、後退しつつ乱射した。
「合わせ」
「おう!」
一つ目の援護射撃には目もくれず、ラニウス二機が同時に襲いかかる。
敵の新型といえどラニウスCblockⅣの加速力から逃げ切れるものではなかった。
「来るなぁ!」
パイロットは叫び、高周波電熱剣に持ち変えるが、その僅かな間に距離を詰める二機。
同時に迫る大剣に、為す術もなかった。
「手練れじゃなかと装甲を斬れん」
インドリクは胸部から切断されているが、MCSは生きている。あとで尋問するために生かしたのだ。
「テウタテスと違い現行の材質だが、かなり厚めだな」
「残りん一つ目もやっか」
一つ目のシルエットは半数以上、すでに姿を消している。
二機のラニウスは、怒濤のように襲いかかり、敵部隊は餌食になった仲間を囮にしてようやく脱出することができた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ラニウス二機は防衛部隊と協力して、敵パイロットを捕縛する。
アノモスが交渉をすべて行う。
イオリは方言もきつく、何より容姿が目立ちすぎる。
「一つ目がヴェルリオカ。円盤角がインドリクだな。この二機の残骸はもらっていいか?」
防衛部隊に確認する。
「構いません!」
「敵パイロットは誰も殺してはいない。交渉するなり好きにしてくれ」
「助かります。そこで一つ質問なのですが…… トライレームの援助はやはり難しいのでしょうか」
「申し訳ない。そこまでの余力はないんだ」
「ですよね。いえ、我々の防衛ドームです。こちらこそ失礼しました。
「それでも――」
「はい」
「命の危険を感じたら、防衛ドームからAカーバンクルを引き抜いて逃走するという最後の手段がある。おすすめはしないが、命と天秤だな」
「……逃げる先がありません。避難民を受け入れてくる要塞エリアなど見当もつきません」
哀しそうに防衛ドームの防衛隊隊長が俯く。防衛ドームに住む身に、逃げ場などないのだ。
もとより各ドームや要塞エリアは独立していた。周囲と連携など出来るはずもなかった。
「北東にあるB812要塞エリアへ行ってくれ。避難民を受け入れてくれる。アノモスの紹介といえば、旧王城工業集団公司が受け入れてくれるだろう」
B812要塞エリアはかつての旧王城工業集団公司が存在していた場所だ。
今はシェーライト大陸に移管は完了しているが、トライレーム唯一の拠点として今なお戦力を充実させている。
「ありがとうございます。住人とも話し合って決めます」
生まれ育った地、という思いだけでは子供たちの未来は護れないことを知っている。
集団疎開が可能なら、そうするべきだろう。
「それがいい。こちらも迎えがそろそろ来る。俺も行くとする。あまり力になれなくてすまない」
「何から何まで…… ありがとうございます」
パイロットを殺さなかった理由も、この弱小防衛ドームの今後を考えてのことだろう。
凄まじい手練れだった。きっとトライレームでもエース級なはずだ。
アノモスは軽く手を振って、ラニウスに乗り込む。
「全部任せてしもてすまん」
イオリはアノモスが住人と会話している間に戦況レポートをトライレームに報告している。
「気にするな。ハンガーキャリアーに帰投しよう」
ストーンズ勢力下であるこの大陸ではユースティティアでさえ危険だ。百メートルサイズのハンガーキャリアーなどあまりないからだ。
二機のラニウスはヴェルリオカとインドリクの残骸を抱え、ハンガーキャリアーに帰投した。
ファミリアたちが出迎えてくれて、休憩するように促される。
「アノモスも。とくにイオリは無理しては駄目よ」
プードル犬型のファミリアがイオリに念を押す。
「わかっちょい」
イオリは苦笑いする。何のことかわからないアノモスがイオリに問いかけた。
「何かあったのか?」
「気にせじ」
そうはいいつつも美しい流し目で微笑みをイオリから投げかけられ、ドギマギするアノモス。
「そうか」
その時ハンガーキャリアーにアラートが鳴り響く。
二人はすぐにシルエットに飛び乗った。
「どうした?」
MCSの中から運用しているレッサーパンダ型のファミリアに確認する。
「可変機の大軍だ! 残骸とはいえ最新鋭機を入手したからな。向こうも必死だろうさ!」
「迅速すぎるだろ」
A112防衛ドームを離れて一時間も経過していない。
「ここは俺達に任せて、二人はラニウスで逃げてくれ。ラニウスなら逃げ切ることも可能だ」
「できるか! 迎撃にでる!」
アノモスが怒鳴った。
かつてのように仲間を眼前で殺されることなど、二度とごめんだという強い決意がある。
「おねがいアノモス! 二人は逃げて。お願い。あなたたちは私たちの希望なの」
プードル型のファミリアが懇願する。
「イオリのお腹の中にはあなたの赤ちゃんがいるの。だから、おねがい! 私たちファミリアより自分の子供の未来を!」
「え?」
凍り付くアノモス。青天の霹靂とはまさにこのことだろう。ファミリアが何を言っているか、一瞬理解できなかった。
「そうなのか? イオリ」
イオリがこくんと首を縦に振る。
アノモスからすれば思い当たる節しかないが、イオリは予兆みたいなものを微塵も感じさせなかった。
突然のことで思考が混乱し、動悸が止まらない。これまでになく動揺している。
「まちっと隠しちょこよごたったな」
イオリは照れくさそうに笑う。
「どうして言わないんだ!」
「ゆたやあたは一人で戦いにでてしまうで」
「……くっ」
アノモスが知っていたら確かに一人で出撃しただろう。
「みんなはいつから知っていたんだ?」
「出撃直前よ。MCSの生体センサーがおかしいからすぐに気が付いたわ。ラニウスがパイロットに代わって教えてくれたのね」
「アノモス。俺達はみんなで家族なんだ。お前たちは逃げて必ず生き残れ。命令だ。イオリは一人では絶対に逃げない。アノモス。お前が家族を。自分の女と子供を守るんだ。お前達の子供は俺達の子供でもあるんだ」
生まれてくる子供に居合わせたファミリアは我が子のように寄り添う。
二人のこれから生まれてくる子供はファミリアたちの子供同然なのだ。
「みんなを見捨てるわけにはいかない。このハンガーキャリアーには防御兵装が90ミリ機関砲とパンジャンドラムしかない! 相手は飛行しているんだぞ!」
自走地上爆雷は飛行している相手には無力だ。
せめてパンジャンドラムではなく対空ミサイルを搭載していればと後悔しても遅い。
「やりようはあるさ。信じてくれ。ただで死ぬ気はない。早くいけ!」
アノモスはファミリアの気迫に押される。
「わかった。イオリ。いくぞ」
ラニウスCblockⅣの機動力なら最寄りの友軍がいる要塞エリアまで十数分で到着するだろう。
「すまん」
「謝ることじゃない。気付かなかった俺が悪い」
イオリだけではない。自分の子供が彼女のお腹のなかにいる。何より二人。いや三人が危機にある状況がアノモスの焦燥感を募らせた。
まだイオリの父親とも挨拶していないのに子供ができてしまった。
アシア人としても非礼である。ましてやイオリの父は厳格な剣術者だ。斬られても文句はいえないだろう。
しかし今は状況が逼迫している。そんなことを考えている余裕はない。
「アノモス。もし一緒に生き延ぶっこっがでけたらおやっどんにあってくるっ?」
妊娠がアノモスにばれたせいか、イオリは珍しく弱気になっていた。
「当然だ! 弱気になるなイオリ。お前と子供は俺が守る」
「嬉しか」
イオリの男嫌いは有名だった。
あの日以来、ずっとイオリはアノモスにくっついているような日々だ。イオリをよく知るネレイスは目を丸くしていたし、どれだけ他パイロットに揶揄されようとイオリは動じなかった。
アノモスの子供だ。疑う要素は一切ない。
「アストライアに緊急救援を出したが…… ツネヨリとヤマトとは連絡が取れないな」
ハンガーキャリアーはプラズマバリアと対空砲火で敵の航空爆撃を凌いでいる。
しかしそれも時間の問題だろう。
「頼む。誰か。俺の家族を助けてくれ……」
今すぐにでもハンガーキャリアーへ救出に戻りたい。ファミリアたちを助けたい一心で漏れ出た言葉だった。
その声に、MCSの通信が開始された。
「すでに援軍を向かわせている。大丈夫だ。焦るなよアノモス。お前のファミリアは必ず助ける」
アストライアにいるコウからだった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
軍事パレードは一種の陽動。
その間にスフェーン解放という名目の略奪軍を各地に派遣しています。
住人の退路を絶たれた状態のA112防衛ドームの住人たち。
人生の退路が突如絶たれたアノモス。これでファミリアたちのためにも死にたがりになるわけにはいかなくなりました。
イオリは最初の転移者グループの男性とネレイスの娘なので、30歳以下。28歳ぐらいですね。ブルーは少し年上です。
二人に子供が出来たことで何故か流れ弾がコウとブルーに……
ツネヨリたちとの行動とはほぼ同時進行です。
予約投稿なので誤字脱字や修正や感想の返信は日曜帰宅後、月曜までに行います。
ホテルには執筆環境のクローンは持っていくのでそちらでやるかもしれませんが、出先で行うのは危険かな、と。
この予約投稿がされるころには市ヶ谷にいるはずです!
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