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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
南極決戦

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潜入任務

 A001要塞エリアには多くの傭兵が集まるようになった。

 新傭兵管理機構だけではなく、アルゴナウタイ所属やトライレーム所属の人間もいる。


 二人の傭兵が歩いていた。細身で長身の壮年と、大柄で大雑把そうな青年。影武者部隊のツネヨリとヤマトだ。

 大がかりな軍事パレードがあると聞いて潜入調査を行っている。


「俺達が来て良かったな」


 街中を見回してヤマトが確信する。二人は古びたラニウスAに搭乗中だ。


「アノモスとイオリの予定だったんだが。――この街ではネレイスやセリアンスロープだと目立ちすぎる」


 二人は別任務を遂行中だ。


「いいだしっぺはボスがまた単身で乗り込むとか言い出したからだな。聖域でやらかした過去もあって、アストライアに軟禁された」

「にゃん汰さんが吐き捨てるように寝技でも訓練していろにゃ! といってフェアリー・ブルーごと軟禁したからな」


 笑い事でもあり、その時の緊迫感はただごとではなかった。

 ブルーは完全に巻き添えだ。

 

「俺達は地味だからな」

「お前が言うほど地味とは思えないが」


 体格の良いヤマトをみて、ツネヨリが軽く否定する。地味さでいうなら申し訳ないが、コウが別格だ。スパイに向いている容貌であり、性格をしている。

 そういうツネヨリも抜き身の刀のような鋭さを隠し切れていない。だからこそ影武者部隊の隊長に抜擢され、円卓の騎士を任されたのだ。

 ラニウスAを降りた二人は市街地に入る。


「活気がある。――どこも人手不足のようだな」


 やはり司令塔であるフユキの読み通り、街を運営するファミリアなどおらず、すべて人間が商いをやっている。

 ファミリアやセリアンスロープの姿も時折見る。


「テレマAIの方針も変えたのか」

「当然だが、ごく希に姿を見る程度だ。今までの所業でいえば当然だな」


 ストーンズのもと、テレマAIを有する高性能生命体ファミリア、セリアンスロープ、ネレイスは優先して抹殺対象になっていた。

 いくら方針が変わったといえど、今までの罪状が消えるわけでもない。


「ファミリアがいないから人手が必要、と。ついでに雇用が生まれているのか」


 ヤマトが町並みを眺めながら言った。

 二人のようなA001要塞エリアに来る傭兵は多い。軌道エレベーターが攻撃不可対象なので、安全性が高いということもある。


「ヘロット層の働き口も多くあるようだな。アルゴナウタイは兵站が停滞しがちだった」

「トライレームはボスとじいさんが自動車関係だったからな。容器の管理までうるさいってぼやいてたが、スフェーン大陸物流の改革に成功した」

「ジャストインタイムとミルクランだったか。よほどトラウマだったらしいからな」

「まさかこんな転送された世界でねえ。お、少し待ってくれ」


 ヤマトが少しだけ街外れに移動して、すぐに戻ってきた。

 缶ビールを二つ抱えている。


「文化開放ってのはこういうところにもあるんだな。ほれ」

「に……仕事中だぞ……」


 任務中といいかけ、慌てて言い直すツネヨリ。


「堅いこというなよ。一杯程度で判断が狂ってたまるか」

「仕方ないな」


 自動販売機は転移者からもたらされた文化だろう。


 街の広場ではサンドイッチやホットドッグ、ハンバーガーの屋台が並んでいる。

 ストリートミュージシャンも見かけた。


「難波みたいな喧噪だな」

「ニューヨークだろ、これ。絶対に」


 屋台といい売っている食べ物といい、ニューヨークを彷彿させる。


「お前ニューヨーク行ったことがあるのか?!」


 ヤマトの言葉に衝撃を受けるツネヨリ。海外に出たことはない。


「あんたはないのかよ」

「ない。こんなところで後れを取るとは……」


 何故か敗北感が漂うツネヨリだった。


「掲示板があるな」


 掲示板には求人だ。


「傭兵募集。シルエット持ちは月50ミナ。シルエットなしはシルエット支給20ミナか。条件はいいな」

「作業員も募集しているな。30ミナか。今までの管理生活からいきなりアメリカ化だな」

「屋台がチェーン店化してスタッフを募集しているぞ。資本主義に汚染されすぎじゃないか」

「落ち着けツネヨリ。これが普通なんだ。ファミリアがなんでも用意してくれて無給で働いてくれる環境のほうが異常なんだ」

「……改めて頭が上がらないな。この感想はボスに伝えよう」

「そうだな」


 尊厳戦争直前にファミリアに見捨てられた旧傭兵機構は整備もままならず、人員の消耗が激しかったと二人は聞いている。

 街中を見ると酔っ払いも多い。自由になった分、柄の悪い連中が増えたようだ。ストーンズが支配していた領域では考えられないことだった。


「喧嘩だー!」


 大きな声とともに、殴り合っている男二人が目に見えた。どちらが先にぶつかったか口論になりヒートアップして喧嘩になったようだ。

 

「仕事的には放置択一なんだが」


 むしろ喧嘩っぱやいヤマトが握りこぶしを作った。


「見て見ぬ振りもいくまい。止めにいくか」


 周囲も巻き込んだ大喧嘩になりつつある。血や歯が飛んでいる。

 ツネヨリは自分たちならすぐに制圧できるだろうという判断だ。


「ダメ」


 ヤマトがぎゅっと手を掴まれた。


「ん?」


 少年がヤマトの手を握りしめていた。


「ちょーへーされちゃう」

「徴兵?」


 見るとすぐに憲兵らしき男たちがやってきた。

 乱闘に参加したものたちは連行されていく。


「あのひとたちはあのまま兵隊さんになっちゃうの」

「そうか。荒くれ者を治安維持違反名目で集めているってことだな。だから街中で酒を飲んでもすぐに対応できると」


 ツネヨリがすぐに真相を察した。

 A001要塞エリアの自由とは、ある種のトラップだ。自由であり治安も維持している。

 しかしその監視の目は行き届いており、違反者はアルゴナウタイの傭兵として徴用される。


「ありがとな。ぼうず」


 ヤマトもツネヨリの呟きを聞き、連行されていく男たちと、見送る人々の視線を確認した。

 

「えへへ。良かったらパパとママのお店でご飯買っていって」

「おう。どこだ」

「あっち」


 キッチンカーはホットドッグの店だった。ヤマトは三つとジュース、ツネヨリも一つ購入して、少年に別れを告げた。


「なるほどなぁ。何も知らん傭兵が自由だと思ったら、徴兵トラップが待ち受けていると」

「治安を優先するという名目と兵力増強の一石二鳥だな。これは転移者の発想だ」


 トライレーム管理下の居住区ではファミリアが治安維持を兼ねている。

 重大な事件が起きる前に解決している場合も多い。

 

「楽器店と文房具店か。惑星アシアに来てはじめてみたぜ……」

「俺達だとじじぃに頼んだほうが早いからな」


 じじぃとは鷹羽兵衛のことだ。彼の会社は楽器も製作し、闇市でも高値で売買されている。


「意外だな。人気楽器はカホンか」


 四角い椅子にしか見えない楽器に、大人気というポップがついている。


「単純だからな。音楽に無縁だった人々がギターは難易度が高いだろう。まずは音楽の普及から。ジョセフという男が転移者だと知っているが、色々と考えてるな」


 ネレイスやセリアンスロープは楽器が得意だ。転移者から伝わった文化をすぐにものにした。

 トライレームでは歌姫扱いのフェアリー・ブルーとにゃん汰アキたちでバンドが結成されている。


「もうすぐ噂のパレードだ。旧式機がどれぐらいの比率であるかだな。スフェーンリベラリスアーミーという名称だったか」


 ラテン語となっているが、スフェーン解放軍という意の軍隊だ。

 ヤマトのいう旧式機とは、アルゴフォースから払い下げられた機体がどれだけあるか気にしている。

 ガザーク系統はラニウスAをリバースエンジニアリングして作られた機体だからだ。


「実質アルゴアーミーの下部組織に過ぎないがな。――きたぞ」

「なんだありゃ…… 全機新型か!」


 モノアイ型の見慣れぬシルエットが出現した。シールドとライフルを装備していた。

 不気味な単眼は、兵士を思わせる。大型のロケットランチャーを二門背面に背負っている。このモノアイ型のシルエットがもっとも多く配備されているようだ。


 巨大な小型レドームを角のように装備している機体は背面の武装ラックが独自だった。

 武装が六本ほどみっしりと詰まっている。


「おい。ありゃ……」

「いや、シルエットだ。シルエットだが…… テウタテスの技術が応用されている。多腕ではなく追加装甲で似たようなシステムを構築したか」


 二人は違和感の正体をすぐに察する。テウタテスの機構ともいうべきものを流用している。通常のシルエットよりも若干だが大型だ。


 先頭にいるシルエットはドラチェン。クルトのフラフナグズに肉薄したという機体だろう。


「さあ! 俺達スフェーン解放軍は傭兵を募集中だ。これらの新兵器こそ、ヘルメス様の期待を示すもの!」


 MCSのなかからジョセフの演説が流れ始めた。


「このモノアイの機体はヴェルリオカ。機体がない奴はこれをくれてやる! 安価だが高性能だ! 武装も大盤振る舞いだぜ?」


 ヴェルリオカと呼称された機体は新型の量産機のようだ。


「次にエース機用のインドリクだ! 手柄を立てた奴にはこいつを貸与する! シルエットより一回り大きいが、金属水素生成炉に装甲筋肉採用。ツインリアクターでどんな武装も使いこなすぜ」


 その言葉に反応したツネヨリが、睨み付けるようにインドリクを観察する。


「連中もようやくツインリアクターか。アシアの技術解放がないからリバースエンジニアリングも上手くいかず、かろうじて二基詰める程度に小型化できたみたいだな」

「それでもいくつか技術は盗まれているな。ヴァーシャはとくに熱心だから仕方ねえが」


 アシアの技術解放はコウが全権限を持つ。しかしながら部品さえあれば、逆算して解析し量産することは可能だ。

 それでもアルゴフォースは小型リアクターの完コピは不可能だったのだろう。

 アシアの技術解放による小型リアクターは通常サイズのリアクターより若干出力は小さいが、最高三基は搭載できる。二基で既存のリアクターより一回り大きくなる程度だ。

 眼前のインドリクは通常のリアクターを無理矢理小型化して、機体サイズを調整してかろうじて詰めた代物といったところだ。


「これは…… すぐに帰投できんな」

「あんなもん見ちまったらな。街も含めてもう少し情報を集めないと」

「夜の行動は避けよう。ファミリアはいないにしても監視されている恐れもある」


 二人は調査を続行するため、ひっそりと街の中に消えた。

 確認しなければいけない事項は山のようにあるのだ。


いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


一度区切ろうとしたのですが今章に出てきたジョセフ主軸の話ですし、全面闘争はまだということで続けます!


明らかに潜入調査に向いていない二人がA001要塞エリアに潜入しました。

かつてジョン・アームズがあったA051要塞エリアと合わせて考えると工業力は極めて高い状態です。

コウは潜入調査の素養はあります。かのMI6の求人でも目立たない外見と目立たない声音でした。


A001要塞エリアは活気はあるのですが、調子に乗ると捕まって徴兵されてしまいます。

イギリス海軍は人手不足の時、海岸周辺の体格の良い歩行者を拉致して入隊させていたので、それと比較したら人道的でしょう。


ジョセフが行った軍事パレードは世界への示威行為でもあります。そのためのパレードですからね。

アルゴフォースの新型配備がいかに特別か。A001要塞エリアは選ばれた場所だと宣伝する目的があるのです。


次回は予約更新です! 筆者の体調で東京千葉の暑さに耐えられるのか……!

アノモス絶体絶命のピンチ?! という予告をして!


応援よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
感想遅れました。リアルが忙しく心身疲弊に酷暑はダブルできついですね… 今回は、最新鋭機を「くれてやる」ジョセフの大盤振る舞いぶりに恐怖。 戦うだけだったバルドではこの辺の機微は出来なかったでしょうし、…
本気で普通に寝技の試練をしかねないのがコウなんだよなぁ モノアイはツインアイにモノアイタイプのバイザー被せてるのか乗ってる奴に単眼強いてるのか感覚器はそのへん気にしなくてもいいのか
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