技術供与
コウがアストライアに到着して数週間が経過した。
開発ツリーの目標は遠いが、当面の目標は決まったのだ。
各自、自分の端末に注視している。
「各企業への技術供与、もしくは兵器の提供案が決まった」
「迷ってましたもんね」
「オークション形式にして、企業には競争してもらおうと思っている。随時、適正価格で技術解放していく感じだ。そこらは明記してあくまで先行権ということにする」
コウは21世紀の地球でいえば特許オークションに近い形式を取ることにしたのだ。
権限は個人に付与されるので、技術を奪われる心配もない。権限付与や譲渡の管理はオケアノスが行っている。
コウにとって譲渡する必要性は皆無なので、付与という形を取ることになる。その製品、もしくは材料の生産許可権を持つ者が増えるということだ。
もちろん落札者も付与及び譲渡は可能になる。
これで人の引き抜きが激しくなるのか、企業間の抗争が激しくなるかは不明だ。
資金力にものをいわせて大勢力になる企業も現れるかもしれない。
最初は様子見も兼ねている。
適正価格での技術解放は、独占による富の集中を防ぐためだ。落札企業は先行の研究期間が長くなるメリットがある。
富が集中し、一部企業が落札しまくって技術を死蔵する恐れもある。
その技術全般を占有するコウ自身、危険な立場になるということにようやく自覚が芽生えてきた。
ヴォイたちの指導のたまものといえよう。
「ネメシス戦域、とくに惑星アシアの各戦場において、やはり補給が滞ることが問題だ」
コウなりに分析した結果、各アンダーグラウンドフォースの兵站、補給運用に負担がかかっていると判断した。
コウも実戦に参加して思ったがやはり傭兵は命が大事。メタルアイリスのように前線で戦う部隊より、他の傭兵隊のように後方支援で様子見になるのは当然といえた。
「用意した兵器はこれだ」
パネルに用意したのは、十種類ほどの車両や航空機だった。
「ほとんど輸送機や支援車両じゃねえか」
ヴォイが笑った。コウらしいと思ったのだ。
「シルエット工場の転用で、各企業もシルエットしか作っていない。一部の構築技士が趣味で車両を作っている状況だ。これを打開したい」
「狙いは?」
「兵站を請け負う会社を各メーカーに出資させるのさ。前線に出て戦う傭兵と、出たくない傭兵をまず切り離そう」
「皆後方支援に回るのでは」
「大丈夫。前線で活躍できる者ほど報酬が高くなるようオケアノスが設定していた。これはメタルアイリスもいってた通り、IDさえあればマーダーを撃破するほど報酬が入るようになっている」
「安全な任務は見返りが少ない?」
「戦闘の激しい最前線より見返りは少ないな。それでも任務の重要度によるよ。補給輸送も激戦地域となれば危険で重要な任務となる。そこはバランスだな」
用意する車両や航空機のデータを皆に送る。
「要塞級の大型ハンガーキャリアーを搭載できるほどの超巨大輸送機。戦車を三両運搬できる大型トラクターユニット。中型の攻撃支援を兼ねたシルエット運搬型武装ヘリなどか」
「対空兵器の発達で航空機の優位性がかなり薄くなってるのは確か。だけど輸送速度を重視するとね」
C212防衛ドーム防衛戦では、援軍は期待できない状況だった。
援軍を頼んでも輸送手段に乏しいこの世界では困難だったのだろう。
大手のアンダーグラウンドフォースが緊急展開してエニュオと戦う理由もない。あのような場合は小さな傭兵勢力をかき集めるしかない。だが、彼らには移動手段がない。
どうすれば戦力を維持できるか。悩んだ末の回答が各種輸送機だった。
「惑星間戦争時代の新素材生成権利も込みということか。ただの輸送機は作らんわな」
「防御力があがれば運用するメーカーもでるだろう」
他に提示されるのは大型トラクターとトレーラー、中型のトレーラー。
そしてファミリア用の装甲装輪車と装軌装甲車、半装軌車の三種類だ。用途に応じてミッションモジュールを換装できるユニット形式であり戦車駆逐車から兵員輸送車、救急車まで対応できる。
「フェンネルOSとウィスを使ったパワーユニットを使っているから、装甲車の形をしたシルエットみたいなもんか。生存性なら戦車じゃないのか」
フェンネルOSは人間という認識が必要だ。動物タイプであるファミリア、獣人であるセリアンスロープでは人型のシルエットを操作することはできない。
車両や航空機など機能制限をかけたモードでのみ操作することができる。これはコウをもってしても解除はできなかった。
「戦車だと、人間がファミリアを捨て駒にする戦術を取りかねないからな。装甲車で様子見して、戦車系の開発技術を提供するのはもっと後にしたいな」
「可能性は高いと思う」
エメも可能性を否定しない。むしろ十分にありえると思っている。
「この半装軌車って必要ですか?」
「なんとなく」
半装軌車のファミリアたちに助けられた印象が強く、大型の半装軌車を設計してみたのだ。
売れ残ったらそれまでの話である。
「新素材はファインセラミックスときたか」
「これなら製造権限さえ与えれば地上でも作れるからね。輸送車両や航空機に付随している型式にしてある」
「ホウ素系ボロフェンを使ったセラミック・マトリックス複合材料か。グラフェンより金属的な性質を持っているから、軽量装甲材にはいいな」
「グラフェンは靱性がね。こいつがウィスで強化されたら、航空機がレールガンの一撃で落とされる心配も少しは減るかなと」
航空機はその構造上、どうしても装甲は薄く脆い。偵察機や輸送機の普及を阻んでいるのもレールガンをはじめとする対空兵器の充実による。
「五番機の改良計画はないのか」
「アキとにゃん汰が、俺用のライフルを作ってくれたよ」
「コウは斬り倒していくスタイルです。そのスタイルで対応できない時のために、射程と装弾数を重視したものにしました」
「ブレード馬鹿はミサイルとか積まないにゃ」
「二人とも、よくわかってる」
シルエットの背面にミサイルや予備のライフルを積むことも可能だったが、コウはあえて積まない選択をした。
距離に応じて的確に運用できる自信がないのと、やっぱり斬り込むほうが自分には性にあっているということだ。
それがにゃん汰やアキにどれだけ心配をかけているか、コウはいまだ気付かずにいた。
「本格的な再設計は聖杯を手に入れてからだ」
「確かに中途半端な再設計機を市場に流しても仕方ないわな。残すは聖杯探索、か」
「いよいよ外の世界へ……」
「引き籠もり生活も終わりにゃ」
「ちょっと怖い」
「大丈夫だよ、エメ」
エメの不安もわかる。眠ってから相当の時間が経過しているのだ。
「コウは俺たちが使える戦闘兵器は作ってくれないからな」
ヴォイが不満を漏らす。コウは自分だけが戦えばいいと思っている。
彼らだって支援車両でのサポートはできるのだ。
「そのうち作らせるにゃ」
「工場を動かすのが怖いんだよ」
一度動けば本格的な試作が始まる。
動かすときはシルエットなどの生産から入りたかった。
「聖杯探索は五番機だけじゃ無理だぜ」
「ああ。そこは考えてある。アンダーグラウンドフォースに依頼するつもりだ」
「アンダーグラウンドフォース?」
「ちょうどツテもあってね。アストライアも賛成してくれた。今回の件を依頼するにはぴったりだ」
悪戯っぽく微笑む。彼女たちは驚くだろうか、呆れるだろうか。
反応が今から楽しみだった。




