工廠
2021年1月4日 設定矛盾修正。アルゲースを作成したのはヘパイトス(この時点で名称未登場)。
アシア解放と金属水素の入手の話をした翌日から、今度は工廠全体を確認することになった。
この工廠はアストライアからの指令で稼働するようにもなっているらしい。
実際に兵器を作るのは、船外の工廠区域になる。複数層からなる、巨大な地下都市工廠だ。
ヴォイがアストライアの外部工場を案内をしてくれた。大きな熊と並んで車に乗っている姿はとてもシュールだ。
広すぎて一日では回りきれなかったのだ。
最初に工業区画を視察する。
機体区、兵装区、光学区、火工区、整備区、試験区という区画がある。
機体区はシルエットや航空機、車両の機体全般で一番広い区画だった。部品加工施設から合板、極小のベアリングまで様々なものを作る施設となっている。
兵装区は砲身や銃身などの各種装備全般を作る区画にあたる。
光学区はセンサー類全般、火工区は砲弾や光学兵器のエネルギーパック全般を扱う場所。整備区は完成した機体の整備を行う場所だ。
試験区は完成した兵器をテスト全般作業を行う区域になっており、本来なら的や強度試験など各種のテストを行うことになっているとのことだった。
本来にゃん汰は火工区、アキは兵装区、ヴォイは整備区担当だったとのことだ。
いつでも兵器製造はできるとのことだった。
「うーん。未来に来た気がしない。無人施設ってこと以外は」
「馴染みがあるってか?」
「工業団地っぽいよ」
「そりゃ部品の行き来考えたら近いほうがいいわさ」
クレーン型の作業機械や運搬型の無人機械たちは今にも動き出しそうな状態だ。
ヴォイに言わせたら、コウの命令次第ですぐにでも働き始めるという。思わずまた挨拶をしてしまうコウを、ヴォイは微笑ましく見守っていた。
翌日は資材置き場と各種の精製プラント施設の視察だった。
驚くべきことに、ある程度の資材は残っていた。持ち出されたのは完成品や部品のみで、鋼材や燃料等は保管されているらしい。
機動工廠プラットホームのような大型施設は建造できないが、搭載されている大型ハンガーキャリアー程度なら可能だ。
鋼材だけではなく、繊維材料やナノ材料に使われる原料、原油に代わる代替材料の各種。アクアマテリアルやライムストーンマテリアル、セルロースナノファイバー等だ。
ヴォイによれば原油は存在するが、他材料のほうが原価が安くなっていて使われていないとのことだ。
燃料系の精製もここで行われており、水素を中心としている。ウィスによる電力があるのでメタンに頼らない、水分解での水素作成が可能だ。
見慣れない巨大プラント施設は、いかにも頑丈そうだ。
居住区域に移動する。ジオフロントに相応しい景観だったが今は廃墟そのもの。ウィスによって痛まない建物がもの悲しさを語っている。
この中にはまだセリアンスロープやファミリアが眠っているらしい。
兵器格納区域に移動する。空っぽだ。ここで量産された兵器が整備されるという。隣の区域がテスト区画だった。
その後、地下に移動する。巨大な地底湖だった。
「この下にアストライアと同型の二番艦と三番艦が眠っている。アストライアもそうだが、この地底湖は直接外洋につながっているんだよ」
「眠っている?」
「星間航行可能な空母など、戦乱の元だからな。施設管理をアストライアに託して船ごと休眠状態として、水の底だ」
「動くの?」
「ああ。動かそうとすればな。コウなら出来ると思うぜ」
「動かす必要はないかな。俺たち数人しかいないのに、超巨大船だけあっても仕方ない」
「それがいいと思う」
最後の管理区はロボット整備区画。小型の保全ロボットや設備修理全般、作業ロボット全般を管理している。
現在ロボットたちは休眠状態だ。コウの命令を待っている状態ともいえる。
アルゲースのような高性能大型ロボットはすでに持ち出された後らしい。アルゲースは最初期モデルらしく、アストライア保全用に置いていかれたとのことだ。
ヴォイは意地悪く笑う。
「ネメシスでの作業機械は最初期型が一番性能いいんだぜ。何せ、アップデートは他の機体と同様受けているし、直接作成したのは人智を超えた超AIだ。頭二つ分は違うだろうさ」
「当時の人間に教えなかったのか?」
「聞かれなかったんだろうな。見た目はまったく同型の機体だ。どちらの性能が上か聞くほうも野暮って奴だし、アルゲースが自分のほうが性能は上です、なんて言う奴には見えないよな」
「当然。俺は得したな」
「ま、あれだ。以前アキが不要品って口走っただろ。俺たちは置いていかれた存在だからそう思うのは仕方ないんだ」
並んで停止中のロボットたちをみながら、ヴォイが呟く。
「置いていかれた理由は?」
コウの顔が若干険しくなる。
「にゃん汰とアキはレーザーや粒子砲など指向性エネルギー兵器全盛期に、燃焼系の火器担当として生み出された。弾使うって理由でレールガンさえ使用頻度が減りつつあった時代だった。そりゃ仕事はないわな」
「なんでそんな超科学兵器時代に生み出されたんだろう?」
「戦争が予想外に激化してな。色々な可能性があった。光学兵器の制限がかかった場合に備えてだな。まさか問答無用で人類全体の量子データ化とは思わなかったが」
「ヴォイは? 整備担当だろ。関係なさそうだけど」
「俺か? 俺は口が悪いから保全要員として体のいいお払い箱だ」
豪快に笑ったクマは、さして気にしていないようだった。
「惑星間戦争時代の人間に同情できなくなってきたな」
「俺たちもあの時代の人間より、コウのほうがよっぽど好きだぜ?」
「アキ、酷い目にあったから俺に好感度高いのかな…… つけこんだようで申し訳ないな」
「あれは違うぜ。アキは以前なんて……」
『んんー! ごほん! ごほん! コウ。ヴォイ。そろそろ戻ってきてくださいね』
割り込み通信が入り、アキから連絡が入る。聞いていたらしい。
『あとコウ。冷凍睡眠前の人間関係なんて関係ありません。今の私を信じてください』
「わかったよ、アキ。すぐ帰る」
『はい』
弾んだアキの声に思わず笑みが漏れる。
「そういうことだ。今のアキやにゃん汰を信じてやってくれ」
「ああ。そうするよ。ヴォイもな」
「任せろ。信頼には応えるつもりだぜ?」
不敵に笑うヴォイ。何もかも頼もしい。
「ここにいる会話できない連中、人型でない連中もみんなそうだ。信用してやってくれ」
「そうか。みんなよろしくな」
声が届いているかどうかわからないが、声に出して並んで停止している機械たちに告げた。
本当に届いているとは露とも知らずに。




