無力な俺に暁を
ちょっとした最後。
彼の答えをご覧ください。
「シエル?」
「くっ…一瞬遅かったか…。この体の意思が強かったの良くなかったのかもな。もう少し慎重になるべきだったな。…私らしくない。」
黄色い瞳を悔しそうに歪ませた。
ああ、どうやら『Mother』に体の主導権が戻ったようだ。
「はあ…もう、終わりか…。」
「…なあ、『Mother』は何が目的でこんな戦争を起こしたんだ?」
俺は『Mother』にふと疑問を投げかけた。
「はは…私はただ世界を…1つにしたかっ…ただけだよ。」
たどたどしく俺の質問に答えた『Mother』は苦しそうに呼吸をしている。
「世界を…1つに…?」
「…ああ、私は世…界を1つにするほどの…力はない。だが…人類共通の…敵がいれば…1つになるんじゃ…ないか?って考えたんだ。」
「…そんな理由で世界の半分の人を殺したのか?」
「だって…そこまでしないと…人類は本気に…ならないだろう…?」
俺は絶句した。そこまで人類を1つにするのに犠牲は必要だったのか?人類が1つになる必要があったのか?
「…ああ君は…歴史について…まだ学んでいないことが…多いようだね。帰ったら歴史書…を読んで置くといい…。」
と話し、勢いよく咳き込んだ。
「…くっ…もう、ダメか。雅人君…世界のこと…を頼んだよ。」
そして満足そうにシエル、いや『Mother』は目を閉じた。
「!?おい『Mother』!あんたには聞きたいことがまだあるんだよ!」
いくら叫んでも呼びかけても、もう起きない。
その時、入り口の方から音が聞こえた。
振り返ると仲間がいて、そこでようやく目的を思い出した。どうやら道中の敵を全て倒したようだ。
「マサト!」
仲間は駆け寄って来る。俺はまた涙がこみ上げてきてただ一言
「ごめん、シエルを助けること、できなかった…。」
と言うことしか出来なかった。
仲間は血だらけの俺と倒れているシエルを見て何かを察したらしく、部屋の外の状況を話してくれた。
「戦っていたら突然アーティファクトが機能を停止したから先に進めるようになったんだが、なるほど。同期していた本体が停止したんだな。」
その時、大きなアラートとともに無機質な機械音声の放送が流れた。
「緊急避難警報。緊急避難警報。全ての動力が停止しました。直ちに避難してください。繰り返します。緊急避難警報。緊急避難警報。全ての動力が停止しました。直ちに避難してください。」
仲間はすぐに俺の方を見て
「おい、マサト。おそらくここは流れ星になるぞ。その前にここを離れよう。残念ながらシエルちゃんは…連れてけねえよ。」
と言って仲間とともに離脱する準備を始めた。
「…うん、わかってる。」
俺はそれに答えて、シエルの首元にかかっているペンダントを手繰り寄せ、そして外した。
「シエル、お前の持っていくからな。」
そう言って血を拭き取り。自分の首につけた。代わりに自分のペンダントを外し、かつてシエルが俺につけてくれたようにシエルに青いペンダントをつけた。
シエルの気持ちを拾い上げるように、自分の魂を預けるように。
「マサト、行くぞ!」
俺は涙を袖で拭き取り、最後にシエルに笑みを向けた後仲間を追って急いで走り去った。
「隊長、死んでいたのか…。」
「ええ、最後まで私たちを守るために彼女は…不思議な力を使ってまで攻撃をしていました。」
シャトルに残っていた操縦士が仲間と話しているのを聞き流し、俺は部屋に戻った。
ベットに倒れこむと、もうなにも考えたくなかった。
今はもうなにも考えずに寝たい。
目を閉じ、意識を手放した。
結局守りきれなかった。
『自分はいつも助けてもらうくせにいざと助けようとすると助けられない卑怯者。』
仲間を助けるために戻ったはずなのに。
わかってるよ、俺は無力なんだって。
『頼みを棚に上げて、仲間を殺すことに躊躇しない殺人者。』
そうだ。シエルの頼みと言って世界を救うために大切な人を殺したんだ。
『やっぱりあんたに任せなければよかった。』
ごめん、助けられなかった。俺には策が思いつかなかった。
『正直、私も思いつかなかったけどあなたなら出来ると思っていた。』
あなたでも思いつかなかったことなら俺には無理に決まっている。
…なんて自分の無力を正当化しないと耐えられない。
『やっぱり所詮は「暁の子」。神に愛された子供の劣化版。奇跡なんて起こるはずもなかったのよ。』
『暁の子』?知らない、そんなの知らない。
それに神様なんていないんだよ。もしいたら世界はとっくに平和になっている。
『まあいいわ。人を失う気持ちはもう感じすぎて麻痺してるから。あなたは罪を抱えて生きる事ね。無力な人という在り方を見ることが出来て中々面白かったわ。これからもせいぜい人間らしく足掻きなさいな。』
ふっと俺の意識が浮き上がる。暗闇にいる彼女はそのまま沈んで行く。
『さようなら、無力ながらも不屈の精神を持つ少年よ。地の底から、あるいは上から見守っているわ。』
最後に彼女の赤い瞳がキラリと光った。
「…サト。おいマサト。起きろ、地上に着いたぞ。」
目を開けると仲間が起こしに来たことを認識した。
「…ん。ありがと。」
「早めに準備して外に出ろよ。」
そう言って仲間は部屋を出て行った。
俺は少ない荷物をまとめ、シャトルから出て行った。
仲間曰く、ここから基地に戻るための車が来ていないからそこらへんで暇を潰してくるといいとのことだ。
外はまだ暗く、手元の時計を見ると5時を過ぎている。
なんとなくまだここにいて空を見ていたかったので座り込み、ぼうっと眺めることにした。
俺は世界を救ったがシエルを助けられなかった。ネルも死んでしまった。ラメールも、ツヴァイ隊長もミニスさんも死んでしまった。
『Mother』は言っていた。
「まさか犠牲なしで自分の志に到達できると思っている?」と。
そんなことはわかっていた。戦いに身を投じているのだから親しい人を亡くすことには覚悟を決めていたはずだ。
だが、実際に死んでしまうと失った悲しみと自分も死ぬのではという恐怖、そして助けられなかった悔しさが沸き起こり、渦巻き、逃げ出したくなる。
先程まで見ていた夢は…なんだったのだろう。誰かからの罵倒だったかも知れないし、誰かからの激励だったかも知れない。
俺は無力だ。助けたかった世界は救えても、助けたかった人は救えない。これからもきっとそうだろう。だがそれでも生きなくちゃいけない。そして彼らが体験出来なかった平和な生活を俺は作り上げなくてはならない。
自分の無力を嘆いて、叫んでそれでも生き残った俺たちは足掻いて生きていくんだ。
いつのまにか夜が明けていた。
夕焼けのように空が濃い青から紫に、そしてオレンジ色に染まっていく。
夜明けの光が空に満ちていく。
その景色はまるで闇の中に希望が生まれるようだった。
「おーい、マサト。そろそろ基地に戻るための車が来るぞー!」
「ああ、今いくよ!」
俺は立ち上がり、荷物を持って仲間の方に走り出す。
光が常盤色と琥珀色のペンダントに入り込み、煌めいた。
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