どちらか1つなんて選べるわけがないい。
さて、決断の時だ。
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俺は彼女を
抱きしめた。
「一緒に逃げよう。誰もいないところで誰からも逃げて君と暮らしたい、シエル。」
俺はそう耳元で呟いた。
やはり俺にはシエルは殺せない。だって大切な仲間だ。
相手をいくらシエルじゃないと心の中でわかっていても声と姿がシエルだと耳と目で伝えられる。
それにたとえ目の前の彼女がシエルでは無かったとしても、シエルを殺せない、俺には仲間を殺すことなんて無理だ。
シエルは動かなかった。
おそらく予想外のことが多すぎて呆然としてるのだろう。
「マサト…。」
シエルが俺の名前を呼んだ。『Mother』が呼ぶように君付けではなく呼び捨てでだ。
俺は体を離し、シエルと向き合って言った。
「シエル、一緒に帰ろう。もう俺は、お前と戦いたくない。」
「…甘いわ。」
刹那、腹に衝撃が走り壁際に吹き飛ばされた。蹴りを入れられたようだ。
「っく…!シ、エル?」
「甘い、甘すぎるわ!なんで私を殺さないの?殺さないと、みんな死んじゃうんだよ?それなのに私を生かそうとするなんて、そんなのおかしいよ。私の体はもう『Mother』に乗っ取られているの。今の私は奇跡的に表面に出れているだけ。『Mother』の言った通り私は死んでいるのと同じなの。」
シエルの顔を見上げると怒っていた。怒っていたけど、悲しそうにも見えた。
「シエル…。」
「もう、良いよ。私のことなんて気にしないで。気にせず、私のことを殺して世界を救って。」
俺は…どうすれば良いんだ。世界を救うためにシエルを殺すのか?
それともシエルを生かすために世界を殺すのか?
「もう、お姉ちゃん…ラメールも死んじゃったし、もうマサトしか私を殺せない。『Mother』に辿り着ける人はもういないと思う。だから…。」
そこで思考停止した。迷いよりも先に重要な現実が舞い込んできたのだ。
「…ラメールが、死んだ?本当なのか、それは。」
「うん。ラメールお姉ちゃんは必死に戦って、最後は多くのアーティファクトを道連れにして地球に落ちて…燃えていったよ。私、中から見ていたから分かるの。」
「う、嘘だ。あの隊長が…あの誰よりも強い隊長が死んだなんて…。」
俺は呆然としていると、シエルは
「マサト、もう一度聞くよ。あなたは
…本当に世界を救う気があるの?」
俺は…
シエルを殺せない、だけど!
「世界を救いたいよ!でも、シエルを犠牲になんてしたくない。世界を救うためにシエルが死ぬ必要なんてないのに!俺は世界もシエルも救う方法なんて思いつかない。だからどちらかを選ぶしかないんだ。」
「マサト、ありがとう。その言葉だけでも私は嬉しいわ。
…本当はね、もう体が押さえつけるのに必死で体、動かせないんだ。立っているだけで精一杯なの。
この体が『Mother』の支配下に戻り始めてる。だからもう自殺もできない。もう、時間がないの。ここで殺さないと『Mother』は本気で殺しに来る。もう誰にも止められないの。
だから、あなたにお願いがあるの。」
シエルはそこで一呼吸置き、緑の瞳に涙を貯めつつもとびっきりの笑顔で
「マサト、世界のために私を殺して。」
と言った。
ああ、そっか。俺は無力だ。目の前の少女に自分を殺してなどと言わせてしまうほどの卑怯者だ。何も結局出来なかった。
そんな俺は自分が無力でも守りたかったんだ。
可愛くて、愛すべきこの少女の笑顔を。
そんな笑顔で言われたら断りきれないじゃないか。
俺は深く息を吐き、優しく微笑み返した。
「わかった。俺がお前を殺して世界を救ってやる。」
俺は剣を構え、静かにシエルの目の前に立った。
「マサト、私のわがままを聞いてくれてありがとう。そして、おやすみなさい。」
シエルは微笑み、目を閉じた。
「ああ、おやすみ。」
俺は心臓に優しく、そして素早く確実に剣を刺した。
シエルは笑顔で涙を流し、倒れる。それを支え、優しく寝かせた。
「うっ…くっ……。」
俺は嗚咽を漏らした。後から後から涙が出てきて止まらない。
「…うう…」
不意にシエルがうめき声をあげた。
あと2日くらい続きます。
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