世界を賭けた戦い
シエルちゃんはみんなの心にある優しい少女です。
そんな少女が敵側に回っていたらどう思いますか?
「なんでシエルが…『Mother』なんだよ。ふざけているだけだよな?ハハ…。」
乾いた笑いしか出てこない。
彼女は自分の胸に手を置き、
「ん?ああ、そうか。この『天児』の身体の知り合いか、なるほどな。だが、今のこの身体の所有者はこの私、司波紗月だ。わかりやすくいうと、『天児』の体に司波紗月の人格が宿っていると言ったところだな。」
と黄色い瞳を輝かせながら言った。
「なんでだよ。君はシエルじゃなかったらなんなんだよ。『Mother』とかよくわからないこと言って俺をからかってるんだよなあ?」
俺は縋るように彼女に語りかけたが目の前の彼女はこちらに歩み寄りながらこう言った。
「いい加減諦めたら?シエルの精神は死んだ。そしてその体を司波紗月が使っている。ただそれだけの話だ。」
いやだ、認めたくない。目の前にいる彼女の姿は間違いなくシエルだ。だからこそ、中身が別人だなんて思いたくもない。
それにこのままだと俺はシエルと戦うことになる。
「なあ、雅人君。君は本当に世界を救う気がある?まさか犠牲なしで自分の志に到達できると思っている?そんなわがままを語れるのは子供のうちだけだ。」
そうだ、その通りだ。ここまで来るのに俺は隊長もネルも犠牲になった。父さんだってそうだ。だけどこのままシエルと戦えばどちらかが死ぬ。
そんなのは絶対にいやだ。
あ。
『あ、そうだ。これからありえないことが起こっても必ず受け入れるの。そして理解して自分で最善を選択するの。いいわね。』
まさかラメールの言葉はこの状況を示していたのか?
確かにシエルの体に別の人物が入ってるんなんてありえない事だ。だけど、ありえないことを受け入れろとラメールは言った。
受け入れ、理解し、そして最善の選択をする。
シエルの体には『Mother』が入っている。
大きく深呼吸をして前を見据えた。
目の前にはシエルの姿をした敵がいる、ただそれだけの事じゃないか。
世界を救うには彼女を倒すしかないんだ。
彼女はシエルなんかじゃ、ない。
それに後ろの本体を壊せばそこで終わりだ。
本体を壊せば『Mother』は為すすべがなくなり、シエルを殺さずに済む。
「わかった。なら、お前は人類の敵ということだな。ネルやシエルのために俺はお前を倒し、後ろの本体を壊してやる。」
と俺は迷いを捨て、覚悟を決めて言った。
「ん、ああ、先程後ろの機械を本体といっていたな。すまないがあれは嘘だ。たしかにさっきまではそうだったんだが今は違う。この体の心臓に埋め込まれたコアこそが本体であり、コアと本体は同期している。そして私がいる限り本体はどんな衝撃を受けても壊れないようになっている。
つまり、本体の機能を止めたければ私のコアがある心臓を壊すしかないんだよ。」
その言葉はシエルを助けて世界を守るという希望を撃ち砕くのに充分な言葉だった。
「…そ、それが本当ならばお前を倒したらシエルは、死ぬってことか?」
「ああ、もうこの体は私のものだからな。」
そういうと彼女は懐から銃を取り出した。
「さあ、始めようか。世界を掛けて戦おう!」
銃声が周りに響き渡った。
素早く弾丸を避け、距離を取り俺は瑠璃を構えた。
「ふうん、『不屈の瑠璃』か。だからこれまで生きてこれたのか。だが、所詮は海松杏の作り物。性能は大したことない。」
『Mother』を狙って連射していく。そしてわずかに移動した先にも撃ち、逃げ場を無くしていく。だが、再び迷いが生まれているのか全く当たらない。
『『Mother』を倒すにはシエルを殺すしかない』
呪いのように手足を震わせ、うまく撃てない。
「くっ…。」
そうこうしているうちに大きく距離を縮められた。まずい、このままだと相手の間合いだ。
急いで距離を取ろうにも間に合わない。
「ふふ、遅い!」
そう言って彼女は銃を撃ってきた。
間一髪避けるが銃弾がわずかに頬を撫でた。ヒリヒリとして痛い。
「うーん、最初に目は流石に欲張りすぎたか。じゃあまずは手足だな。」
そう彼女は呟いて再び銃を構えた。
再び俺は距離を取り、銃を撃った。だが、さっきと同じで当たらない。
迷っている場合なんかじゃないのに、世界を救うはずなのに。
軽く頭を振ってもう何も考えないことにした。
世界を救うために必要な犠牲、それがシエルだ。なら仕方ないのかもしれない。
迷いは捨てないと。
だが何度撃っても当たらない。こちらの殺気に気づいたのだろう、動きが速くなっている。このままだと永遠に相手に当たらない。ならば、
俺は銃を床に置き、腰に刺してある剣に手をかけ間合いを一気に詰めた。
『Mother』はこちらに撃ってくるものの銃を持っている時よりこちらの動きが速いせいか当たらない。
そして今度は俺が彼女に一矢報いた。
剣で銃を飛ばし、彼女はへたり込んだ。
「嘘、まさかそんなことが出来たなんて。やはり百聞は一見にしかずだな。ふふ、ははははははは!」
壊れたように笑いながら立ち上がり、大きな機械の側にあったボタンを押し、中から剣を取り出した。
「あなた、剣も出来るのね。おそらくあの子の入れ知恵だろうがね。だけど所詮は数ヶ月の代物だ。それなら私が勝つ。」
と言って剣を構えた。だが彼女は俺の剣を見るなり目を見開いた。
「おや?その剣は…『暁闇』か!全く、紅色の女は私の邪魔をする気か。」
「紅色、の女?誰のことだ。」
「君たちの隊長のことだよ。あの赤髪の化け物みたいな女。」
「隊長は化け物じゃない!いつも人のことを気にかけてくれる素晴らしい人だ。」
「へえ、君が勝てなかった『機械仕掛けの神』を1人で倒したと言ったら?」
「な!?」
『機械仕掛けの神』———ラメールはMaのことをそう呼んでいた。
ラメールと目の前の『Mother』は知り合いだったのだろうか。
いやそれよりも!彼女は1人でMaを倒しただと?確かラメールはプリムール隊で討伐したと言っていたはずなのに。
俺が思考を巡らせている間にどこからか剣を取り出し、斬りかかってきた。
我に返り、剣を受けとめ力づくで跳ね返すと、その反動を使って彼女はひらりと後退していく。
彼女を殺さなければ、世界は平和にならない。
彼女は急接近して正面から斬りかかって来る、それを避けて斬り返す。
世界を平和にしなくてはいけない、戦争のない静かな生活が欲しい。
でも、シエルを助けたい。
彼女は今度はフェイントを使って死角を狙って来る。見えなくても首元を狙っているのがわかっている。そこに剣を置いて受け流す。
どちらも助けたい。でもどちらか選ばなくてはいけない。
再び斬りかかって来る。それを斬りあげて弾く。
いや、覚悟を決めないと。救うために切り捨てなければいけない。大切なものを犠牲にするとしても俺は守りたいから。
今度は俺が斬りかかる。迷いのない剣に彼女はたじろぐが当たらない。
再び剣を構え、一気に振り下ろす。彼女は避けようとするも間に合わず剣に当たり、部屋の隅の方へ飛んで行った。
そして俺は距離を詰め、彼女を———
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