無力を恨みながら
今日2本目。
ちょっと時間帯ずらしますね。
俺たちは街の廃墟の外れにある高い建物、おそらくアパートだったのだろう。そこから遠くで仲間が戦闘をしているのが見える。
「あれはやばいだろ…。」
ネルの呟きも頷ける。見える景色は虐殺以外の何でもなかった。
1対複数でこちらは銃を扱っているのに対し、あちらは手に持っている剣のみ。しかも何発も体に銃弾は当たっている。にも関わらず接近され、近距離が苦手な兵士は抵抗も出来ずに殺されていく。
仲間は剣に斬りつけられているのではなく、吹っ飛ばされている。奴の持っているのはもはや剣ではなく鈍器だ。
「とりあえず俺達のグループの作戦はこうだ。」
ネルが道路の真ん中にいて彼の攻撃で奴を引きつけ、気を取られている隙にマサトとシエルが側面から攻撃。一発で奴の脚を4本のうち2本を攻撃し、動きが鈍くなった所でさらに残りの足を攻撃する。そして近づき高火力で腕の関節部分を再起不能にし、最後にコアを破壊する。
「まあ、口ではうまく言えるんだけど実際にはうまくいかねえよな。」
「「問題はそこじゃない!」」
俺とシエルは同時に異を唱えた。
「ネルが囮になるってことだろ。それはだめだ。」
「おいおい、そこまで俺が柔に見えるか?大丈夫だ、俺とこいつがいれば耐久戦なんてどうってことないさ。」
こいつ、とネルは自らの愛銃『常盤』を持ちながら言った。
納得がいかない。そんなことしたらネルが危ないに決まっている。だが強く言えないのは代わりの案がないことと時間がないせいだ。
決めかねていた俺とは対照的にシエルは時間がないと判断したのだろう。納得いっていない顔だったが、
「…ネルが危ない目にあったら意地でも助けるからね!」
と言って建物を登り始めた。
ネルはシエルが登り始めたのを確認すると俺に近づき、耳打ちした。
「もしも、だ。俺に何かあったとしてもシエルの方が危ないと判断したらすぐに助けてこい。俺よりも距離が近くて、か弱い女子をさ。」
「…え?」
ネルは離れると「いいな、わかったならさっさと登れ」と言って配置に付いた。
俺はシエルの登った建物の道路を挟んで向かいの建物の3階にスタンバイし、さっきネルが言ったことに思考を巡らせた。
俺よりもシエルを優先して助けろ、だって?
ネルらしくない。
ネルはもっと自分の実力に自信を持ってて、むしろ『お前らが危なくなったら俺が助けてやる』と言いそうなのに。
と理由を考えようとしたが、機関銃の銃声によって思考は中断された。
チラリと見るとネルが正面から『Ma』を攻撃していた。流石に機関銃の火力には耐えきれないのか一旦距離を取るために退いたのが見えた。その隙に弾丸の補充をさらりとこなすネル。
ロールをセットするだけと言っても多少のコツは必要だ。
奴がネルに気を取られている時に足を狙う。難しい要求だがやるしかない。次にネルが撃ち始めて3秒後に撃とう。
奴が前進し始め、ネルに突っ込んでいく。それにネルが迎え撃ち、奴の進むが速度が減速していく。
1、
2、
3。
だが引き金を引く瞬間、目を疑うような出来事が起こった。
なんと奴が突如再加速をしてネルを手に持った6本の剣で攻撃し、吹っ飛ばしたのだ。
ネルはそのまま後方にあった建物にぶつかって止まった。
「くっ…!!!」
ネルのうめき声が聞こえる。血も滴っている。
ネルを助けないと。そう思って建物を飛び降りようとした時、
一発の銃声。
それはシエルの持つ琥珀から発せられたものだった。
ああ、今攻撃したら確実に狙われる。なのにシエルは撃った、自分の危険を顧みずにだ。
奴は弾丸が飛んできた方向を見るなり、飛んだ。
飛んだのだ。それも建物の3階の高さまで。
そしてシエルのいる部屋にガラスを割って入っていった。
『俺に何かあったとしてもシエルの方が危ないと判断したらすぐに助けてこい。』
ネルの言葉を思い出した。
あとは何も考えなかった。
急いで一つ上の階に登り、俺は向かい側の建物に飛び込んだ。
「シエル!」
どこだ、どこにいるんだ。
おそらくはシエルのいた3階か4階くらいに入って行っただろう。
3階の廊下を走っているとき、左側の手前から3つ目からチャキッと銃を構える音が聞こえた。
「シエル!」
扉を開くと壁に追い詰められ、銃を構えているシエルと刀を大きく振りかぶったMaがいた。
「この野郎!」
瑠璃の引き金を引く。一発の銃声が辺りに響き、命中した。
だが、奴はまるで蚊に刺されたように当たった場所を掻いている。
「ふん、そのような攻撃ではまるで効かんな。当てたいなら当方の対応力を超えるような弾速、あるいは距離を選択せよ。」
奴はシエルに向けていた刀を下ろし、こちらを向いた。
「貴殿は何を成し遂げるためにここにきた。」
「俺は、シエルを助けるためにここに来た!シエルを解放しろ。」
奴は見下すように顎をしゃくって言う。
「はっ、貴殿ごときが、か?まさか自らの実力を過信するような幼子でもあるまい。」
「ああ、わかっているさ。俺がお前に叶わないことなんて十分すぎるほどにな。
…それでもシエルはあの時、死にかけていた俺を助けてくれたんだ。だから俺は意地にでも助けなきゃいけないんだ!」
俺は奴を睨み返した。怖さなんてない、奴を倒さなきゃいけないんだと自分自身に言い聞かせるようにだ。
「ほう。恩を返すため、か。」
奴の目からは機械なのにも関わらず冷たい殺気が発せられている。
シエルは俺と奴の会話を黙って聞いていたが俺が助けにきた理由を聞くと俺に向かって
「やめてよ、マサト!このままだとあなたも死んじゃうよ!」
と言った。
「シエルがいなかったらあの時終わっていた命だ。ここで死んでもいい。」
「マサト!」
「では望み通り、殺してやろう。」
奴はそう言うと急接近し、刀を振り下ろそうとした。
間一髪後ろに避け、素早く銃を構える。
先程は甲層が厚い部分に命中したのだろう。関節部分なら削り切れる!
引き金を引いた。
再びの銃声。
だが、刀によって弾かれてしまった。
「ほう、さっきより命中精度が上がっているな。」
そして斬りかかる。俺は再び避ける。
何度も銃を撃つ。そしてまた避ける。
このような狭い室内じゃ死角を狙って攻撃は無理だ。それにシエルを巻き込む可能性もあるから手榴弾も使えない。俺が気を引いている間にシエルが逃げればいいのだが、窓や扉の近くで戦うように奴に誘導されているようだ。だから逃すこともできない。
やがて、俺は避けることに精一杯になり、銃を構えることすらできなくなった。
「おや、避けてばかりではいつまで経っても勝てないぞ。」
そう言って奴は急接近した。それを避けるために再び飛ぼうとするもバランスを崩し刀に掠った。
掠っただけなのにも関わらず、この間の大きなアーティファクトと同じ、いやそれ以上の衝撃が体全体に伝わり壁に吹き飛ばされた。
「っかは!」
口から血を吐いたのがわかった。腹が焼けるように熱い!この間の怪我とは比較にならないほどの痛みで意識が今にも沈みそうだ。
奴はトドメをさすために刀を右腕の内の一本を逆手に持ち替え、構えた。
あの刀が振り下ろされれば俺の心臓を間違いなく貫くだろう。
そして振り下ろされる瞬間、
「もうやめて!」
シエルは金切り声を出しながら言った。
「やめて、マサトを殺さないで。私はなんでもするから。私が代わりに死んでもいいから。」
その言葉を聞いたMaは振り下ろそうとした腕を止め、シエルの方に顔を向けた。
「ほう、今の言葉に二言はないな?」
「…ええ、もちろん。マサトが助かるならそれでいいわ。」
「そうか、確かにシエル嬢が従うならこれ以上の殺生の意味もない。」
奴は刀をしまい、シエルを抱きかかえようとした。
「待って。このままだとマサトが死ぬ。」
「心配しなくてもいい。あと1、2分すれば援軍が来る。一応彼を傷つけないように爆破して置こう。それでいいか?我々がここに残ったところで出来ることはないと分析できるが。」
「…わかったわ。行きましょう。」
そして俺の顔を覗き込み、
「それじゃマサト、さようなら。」
と言ってどこかに行ってしまった。
「…シ…エル…」
僅かに伸ばした手は空虚を掴む。
もう限界が来てしまった。瞼を閉じ、意識が飛ぶ。
強い風と火薬の匂いが通り過ぎていった。
時間は朝6時〜7時くらいに投稿します。
されてなかったら寝坊したと思って温かい目で待ってください。
質問、意見、文句等あればメッセージでもコメントでもいいのでください。




