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別冊†恋姫  作者: 桜惡夢
天叢に翻る志旗
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28話



「私は呆れるべきなのか、感心するべきなのか…」


「感心したら良いんじゃない?」


「…っ…御前の様にっ、何も考えずにっ、その様に出来たら楽なのだがなっ!」


「ヒッ、ヒヒャイッ、ヒヒャイィイーーーッ!!!!」



 戯けた態度の雪蓮(馬鹿)の頬を思いっ切り抓る。

この程度で堪えるとも、改めるとも思わないが。

こうでもしないと遣っていられない。

多少でも憂さ晴らし(・・・・・)をしておかねば。

この馬鹿の様な失敗は出来無いのだから。


暫し雪蓮の頬で苛立ちと鬱憤を晴らすと解放。

ブツブツと文句を呟いている雪蓮は無視する。

………苛っとしたので「まだ懲りないか?」と指を見せて遣れば直ぐに大人しくなった。

どうせ一時の反省でしかないのだろうが…。

まあ、少し静かになっただけでも良しとしよう。


私達が今居るのは、あの義勇戦団・雅狼の本陣。

黄巾党の本隊は倒されはしたが、まだ各地に残党が残っているという状況。

──とは言え、領地も官位も無い私達には無関係。

袁術の客将という立場だが、「雅狼の森羅に借りが有るのだが──其方等が負ってくれると?」と。

そう言って遣れば、「頑張って下さいね~」と。

あっさりと自分達で対処すると言い出す始末。

…まあ、今の森羅や雅狼に下手に関わろうとは誰も思いはしないだろうがな。

私とて、何処ぞの馬鹿が遣らかしていなければ。

積極的に関わろうとは思わなかっただろう。

勿論、注目し、利が有れば接触もしただろうが。

少なくとも、今までの森羅と雅狼。

そして、私達の置かれている立場と状況。

それを考えれば、接触する可能性は無いに等しい。


…まあ、前向きな見方をするならば。

この馬鹿が遣らかさなければ森羅と縁を繋ぐ機会は無かったと言えるのだから。

そう考えれば、怪我の功名とも言えるのだろうな。

だからと言って、決して誉めたりはしないがな。


森羅との約定により、蓮華様を嫁がせる事になる。

その段取りの為の話し合いでは有るのだが。

使者が来たのは我々が黄巾党本隊と当たる前。

つまり、森羅と雅狼だけが、張魍の動きを読み切り一番功を得られると確信していたという証拠。

その先見の明を侮れば間違い無く破滅に繋がる。

正面な軍師であれば、その話を断る事は出来無い。

怒り心頭の蓮華様の御気持ちも理解は出来るが。

我慢し、飲み込み、承諾して頂く他に無い。

そう、改めて思わされる事だった。


そういった訳で、私達二人を残し、皆は帰還。

今は洛陽から森羅が戻るのを待っている最中だ。



(……しかし、義勇軍とは思えぬ練度だな)



僅かにしか見ていないが、それでも判る事は有る。

団員一人一人の動き方は宅の精鋭と比較しても全く見劣りしない──所か、上回っているだろう。

私が見て、そう思うのだから。

雪蓮や祭殿が感じた印象は正しかったのだろう。

「アレは名の通りに、戦の為の軍団(群れ)じゃな」と。

珍しく皮肉すらなく評価していたのも頷ける。

既存の──普通の義勇軍と思ってはならない。

この者達は一時的な使い捨ての兵ではない。

森羅が自らの道の為に集め、組織した真の精鋭。

これから先も彼に仕え、彼を支える古参にして要。

その者達に経験を積ませる(・・・・・・・)為の組織だ。


そう考えれば、色々と納得が出来る。

そう考えれば──背筋を冷たい汗が伝う。


森羅という男は間違い無く私達の前に立ち塞がる。

目指す頂きが同じなら、それは避けては通れない。

しかし、森羅は男で──私達は女だ。

雪蓮が蓮華様だけではなく、自らも差し出す覚悟も既にしているのも頷ける。

最悪の結果に至るよりも、その方が未来に繋がる。

途切れ、絶たれ、潰えてしまうよりも。

その血を交え、繋ぐ方が遥かに増しなのだから。


抑、政略結婚というのは血を流さず、血を流す。

その為に人類が考え出した平和的な解決方法。

戦い、血を流す事はせず。

結い、血を繋ぐ(流す)事を尊ぶ。

交わる事で、御互いに血を遺し、繋いでゆく。

それは地味ではあるが、必要な事なのだから。


だから私も…この馬鹿を責め尽くせはしない。

結果的には、大きな意味が出来たのだから。




そうして待っていると、劉備という女性が顔を出し森羅が戻ってきた事を報せてくれた。

見た目には真逆なのだが…深い部分の雰囲気が。

何処か、雪蓮と重なる気がしたのだが……。

いや、流石に気のせいか。



「待たせたな、孫策…其方等が周瑜だな?

俺が新しく并州・上党郡の太守になった森孟刹だ」


「御初に御目に掛かります、周公瑾と申します」


「“美周嬢”殿の評判は聞いている

成る程、確かに噂に違わぬ美貌と知性だな」


「欲しくなっちゃった?」


「──っ!!、ぉ────」


「ああ、この場で襲いたい位だ」


「──ナァッ!?」



雪蓮を窘めようとすれば、森羅に不意打ちされ。

思わず声が裏返ってしまった。

予期せぬ言葉だっただけに、動揺してしまう。

…顔が熱くて仕方が無い。


そんな私を見ながら、「ね?、可愛いでしょ?」と世間話をする様に森羅に近付き──唇を重ねる。

「…………は?」と。

思わず言ってしまいそうになるのも仕方が無い。

森羅も森羅で雪蓮を抱き寄せ、濃厚に………っ…。

──って、何を考えているんだ御前はっ!!。



「夫婦の挨拶?」


「今は愛妾との逢瀬、と言うべきかもな」


「あっ、成る程ね~」



──と、暢気に話しながら、また唇を重ね合う。

……………………もう好きにしろ、この馬鹿共っ。


それから暫し──という事は無く。

直ぐに用意されていた席に二人も座る。

そして、蓮華様の向かう時期や同行者、迎行者等。

細かい点を滞り無く決めてゆく。


はっきり言って、最初の巫山戯振りからは想像する事が出来無い仕事振りであり。

その活躍も納得させられる森羅。


だが、それ以上に驚いたのは雪蓮。

「出来る事なら、普段から同じ様に遣ってくれ」と言いたくなってしまう位に真面目で、仕事が早い。

いや、元々即断即決なのは知ってはいるが。

勘任せの判断ではなく。

きちんと皆にも説明し、納得させられる道理で。

その話し合いを進めているのだから。

驚くなと言うのが無理な話で。

愚痴るなと言われるのも無理な話だ。


だがまあ、取り敢えず、話し合いは無事に終了。

雪蓮への小言は帰ってからにしよう。



「さて、今日態々呼んだのは、此処からが本題だ」


「──っ!?」


「あー…何か、そんな気はしてたわ

貴男にしたら、堂々と遣り過ぎ(・・・・・・・)てるもの」



そう雪蓮が言って──気付く。

確かに、今までの森羅や雅狼の動き方を考えたなら今回の私達の呼び出しは目立ち過ぎだ。

それ所か、袁術達にも報せる様に…だった。

……まさか、私達を売るつもりなのか?。

…いや、そんな真似をする理由が無いな。

それなら私達を丸々手中に収める方が早い。

手勢の強化、という点でも悪い話ではない。

当然、私達にとってもだ。



「孫策、孫権が嫁いで来るまでの間、周瑜を預けろ

表向きは(・・・・)孫権が来るまでの人質、という事でな」


「…その真意は?」


「周瑜の患う病の治療の為だ」


「「────っっ!!??」」



森羅の言葉に今日二度目の声を上げそうになる。

──が、不意打ちではなかった為、堪えた。

堪えはしたが──雪蓮の眼差しが鋭くなった。

森羅ではなく、私を見る、その視線が。


今まで雪蓮や祭殿に体調の事を訊かれる度に上手く誤魔化してきたつもりだったが……これは無理か。

身内ではなく、森羅に気付かれていたとはな。

……いや、森羅の下で諜報活動を行う者達にか。



「…良い目と耳(・・・)を御持ちの様で」


「俺の自慢の一つだ」



そう言い切る彼の姿に好感を懐くのは、私の言葉の真意を汲み取った上での肯定だからなのだろう。

如何に蓮華様を娶る事で縁戚関係が出来ようとも。

今はまだ敵対する可能性を十分に残している。

それを承知で、此処で真っ向から肯定する。

その在り方を好ましく思ってしまうのは。

同じ理想を求めるが故なのかもしれないな。


──という現実逃避は長くは続けられない。

これでもかと言わんばかりに雪蓮が詰め寄ってきて問い質そうとしているからだ。



「落ち着け、孫策

周瑜の立場なら御前や皆、民、孫家や各家の為にも治せるものなら治したい

だが、それが困難であり、情勢的にも自分が抜ける訳にはいかないという状況だったんだ

無理を承知で、隠しているしかなかった

自分の所為で揺るがす訳にも躓く訳にもいかない」


「それはっ──っ、でも…………~~~~~っ!」



私の想いを、考えを、森羅は代弁してくれる。

そして、私からではないから。

雪蓮も葛藤しながらも、受け入れてくれる。

…苛立ちを他所様の卓に打付けるのは間違いだが。

雪蓮の気持ちは、私にも理解出来る。

私自身、自分が雪蓮に同じ事をされて、素直に話を聞き入れ、納得出来るのか。

その情景を何度想像し、その度に想像の中で何度も激怒し──泣いた事だろうか。

雪蓮の胸中の全ては判らずとも。

その感情の複雑さだけは察する事が出来る。

…恐らく、普段の雪蓮からは考えられない程にな。



「かなり症状は深刻で、方法も見付かっていない

──が、俺になら治療出来る可能性は有る」


「本当っ?!」


「ああ、嘘を吐く理由も無い

ただ、即座に、という訳にはいかない

時間も手間も掛かる

その為、周瑜自身を俺の側に置く必要が有る」


「冥琳」


「……しかし…」


「今なら、まだギリギリ治療が出来る」


「冥琳──いえ、周公瑾、命令よ、治療しなさい」


「──っ、だがっ……」


「治療の対価が気になるなら、俺の子を産め」


「──っ!?」


「孫権が…まあ、孫策も、かもしれないが…

現状、孫家の後継ぎは俺との子になる可能性が高い

それなら周家の後継ぎが主君である孫家の後継ぎと同じ父親の子でも問題は無いだろう

寧ろ、異母兄弟という事で結び付きは強くなる

悪い話ではないと思うが?」


「それは………だが、それで貴男には何の特が?」


「御前を妻にし、好きなだけ貪れる」


「──なぁっ!?」


「一人だけ、なんて思うなよ?

最低、五人は産んで貰うからな」



そう言って笑う森羅。

「むー…ちょっとー、冥琳ばっかり狡いわよ?」と森羅を睨む御機嫌斜めな雪蓮。

その可笑しな雰囲気の中に居て。

何故か、心地好いと感じてしまった。

そして──自分と雪蓮が、各々の子供達(・・・)に囲まれ。

森羅に寄り添いながら微笑んでいる。

「私は幸せだ」としか言えない光景を。

脳裏に思い浮かべてしまった。

この時点で、私は詰んでしまった。



「………言質は取ったからな」



──と、そう言い返すのが精一杯で。

男を知らず、恋愛経験も無く、頭の堅い女である。

そんな自分に「負けたままでは引き下がれぬな」と森羅にも、雪蓮にも遣り返す事を密かに誓う。

勿論、他の男に身体を許したりはしないが。

蓮華様が嫁いで来られるまでは時間が有る。

二人が出逢った時の状況を考えたなら。

雪蓮が最後まで(・・・・)出来たとは思えない。

ならば、その間に私の方が先んじて遣ろう。

それが雪蓮への日頃の意趣返しにもなるからな。

──とか考えたのが不味かったか。

雪蓮が眉根を顰めて私を見てくる。

相変わらず、狡い奴だ。



「…む……冥琳、抜け駆けしたら許さないわよ?」


「抜け駆けも何も、それが対価なのだろう?

であれば、そうなるのは仕方が無い事だ」


「それはそうだけど……だったら今から!」


「無茶を言うな、此方も領地に急ぐから無理だ」


「一回だけ!、ね?、一回だけだから!」


「…御前なぁ…それは男が言う台詞だぞ?」


「だってぇ~…」


「それに、そんな中途半端な初めてで良いのか?」


「ぅぅ~~……………………………………やだ…」


「だったら、その時まで待っていろ

俺も楽しみにしておく」



そう言って雪蓮を窘め、納得させる森羅。

懐も深く広いが…似た苦労臭がするな。



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