↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
別冊†恋姫  作者: 桜惡夢
天叢に翻る志旗
PR
72/137

27話


 義勇戦団・雅狼の活躍を知らぬ者は居ない。

今では、そう言われ、当たり前の様に思われるが。

その活躍は戦団を率いる森羅の判断が有ってこそ。


如何に関羽や張飛が武に長け、如何に劉備が弱った人心を惑わせる程の魅力を持っていようとも。

それを活かし切れなければ宝の持ち腐れ。

それは次々と加入した面々なしても同じ事。

その才能を引き出し、育てて伸ばし、活かす。

森羅という男は、其処が本人が自覚している以上に優れており、他の才能と合わさり、より高まる。

逆に言えば、その才能は他の影に埋もれ易い。

それ故に、自他共に気付き難い事だったりする。


そんな森羅の判断だが、基準は決して振れ無い。

劉備であれば、後先考えず人を助けたり、敵を倒す事を優先してしまうだろう。

そういった場面でも、きっちりと先の先まで考えて一つ一つの判断を下している。

結果としては同じかもしれないが。

深慮と浅慮、有慮と無慮では全くの別物。

そして、その差が明確に出てくるもの。


尤も、森羅の下に在る劉備と比較は出来無いが。

仮に劉備が義勇軍を率いていたとしても此処までの活躍や優位性を実現する事は無かっただろう。

そう、以前の劉備達の話を聞いて、諸葛亮や鳳統が彼是試算してみれば言い切れる程に。

森羅の判断力というのは雅狼の要だと言える。


その中でも諸葛亮達が特筆するのが柔軟性だ。

「臨機応変に」と言ってはいても、実際に実行するとなると中々に難しいもので。

本来なら、義勇軍の様な寄せ集め(・・・・)では至難。

先ず不可能に近いと言える。


しかし、雅狼は森羅が独立を見据えた上で公孫賛の客将だった時に、関羽を将に据えて構築した部隊が母体であり、当然ながら更に練度も増している。

その先見の明が有ればこそ、立ち上げの時点ですら森羅と劉備には圧倒的な差が生じている。

その差が、結果を伴う事で自信と信頼へと昇華。

森羅の判断や指示を疑う事無く、即座に従う。

その躊躇の無さが、臨機応変には必要不可欠。

だからこそ、諸葛亮達は心から森羅を称賛する。


そして、森羅自身の切り替えの早さが肝である。

普通、一度決めた方針は簡単には変えられない。

気紛れで遣れば混乱を生むだけであり。

尤もな理由が有るにしても即座に対応は出来無い。

其処での信頼というのは築き難いものだからだ。


その信頼が有り、森羅は変に拘りはしない。

自尊心が無い訳ではない。

ただ、優先順位が低いだけ。

しかし、だからこそ、柔軟に考えを変えられる。

其処が他の有力者には無い強み。

遣りたくても真似の出来無い武器だと言える。


だが、それは決して万能ではない。

どんなに雅狼が優れた組織だとしても。

高が一戦団に出来る事には限界というものが有る。

それを森羅の判断力が補い、活かしている。

だからこそ、森羅は誰よりも理解もしている。



「一人足りとも逃がすなっ!、狩り尽くせっ!!」



そう檄を飛ばすのは関羽。

自らも戦いながら最前線で指揮し、士気を煽る。


其処までしなくても勝てるが、油断は隙を生む。

そして、隙は取り返しの付かない致命傷に。

そうは為らない様に、そうはさせない様に。

森羅は徹底して気を緩める事はさせない。


だからこそ、負傷者は出しても死者は出さないまま雅狼は今日にまで到っているのだから。

相手が、群れる事しか、弱者を襲う事しか出来無い賊徒だったとしても、それは変わらない。

それこそが雅狼という群れの姿なのだから。



「…大方片付いたか」


「…はい、流石は愛紗さんの指揮ですね

予想していたよりも随分と早い決着です」


「宅は愛紗の指揮の遣り方が基本だからな」



そう言いながら戦場を見詰めるのは森羅と鳳統。

今では、当初の引っ込み思案だった面影は見えない鳳統だが、人見知りが直った訳ではない。

意識的に集中していれば大丈夫になっただけ。

勿論、それでも十分な成長だと言えるが。

当の本人からすると、森羅と二人っきりになると、どうしても仕事以外の話を見付け難いのが悩み。

仕事の話でなら問題無いのだが。

其処には色気も何も無い。

だから、「もっと頑張らないと…」と。

こっそりと小さく拳を握り、気合いを入れている。


そんな姿を微笑ましく思いながら気付かぬ振り。

健気な鳳統を焦らす様に翻弄していたりする。

何しろ森羅はドSなのだから。


それは兎も角として。

今、雅狼が居るのは司隷(・・)

主戦場となる冀州を自ら出て、此処に移動した。


その理由が、并州を南下し、洛陽を狙う張魍。

その手勢五万──を囮に使い、千に満たない精鋭で太行山脈を突っ切り、無防備な洛陽の背後を狙う。

河水という防壁を持ち、太行山脈を突っ切るという無茶を私利私欲でしか動かない賊徒が遣ろう等とは宮中の者は誰も考えてはいなかった。

油断する河内郡太守・王匡の守備を容易く突破し、河水を越え、一気に洛陽に迫った。

その報せは宮中に届くが慌てる事しか出来無い。


現に、官軍の切り札と成っている董卓軍は指示にて并州を南下していた囮の本隊と激突中。

到底、引き返す事も出来ず、間に合わない。


大将軍・何進率いる官軍の大本隊は冀州で足止め。

正確には黄巾賊に襲われ大半の糧食を無くした為、動こうにも動けないという醜態を晒していた。


有力な諸侯──曹操は袁術麾下の孫策と暗黙の内に協力し、素早く豫州の黄巾党の蜂起を鎮圧。

そのまま両者は冀州へと移動。

再び表に出て来た黄巾党本隊を公孫賛・袁紹と共に包囲し、殲滅戦を行っていた。


つまり、間に合う戦力は存在しない状況。

そんな絶望的な中。

洛陽からでも判る位置にまで迫った張魍。

出陣した洛陽の精鋭(・・)たる守備隊を難無く蹴散らし、その勢いのままに。


──だが、張魍が洛陽に踏み入れる事は無かった。


狙ったかの様に襲い掛かり、苦にもせず討伐。

皇帝の、宮中の官臣達の、洛陽の民達の目の前で。

その実力と最大功が誰なのかを雅狼は見せ付けた。


──とは言え、森羅は約定を違えたりはしない。

袁紹への協力も、司隷への道中で果たしている。

黄巾党本隊が曹操達が来るまで冀州から動けないで足止めされていたのは間違い無く雅狼の功績。

そして、袁紹が冀州を取れる様にも風評を操作。

森羅に、雅狼に、油断は無い。






張三姉妹(・・・・)は獲った様だな」


「あら、やっぱり、貴男も気付いていたのね」


「一応、狙ってはいたからな」


「まあ、当然でしょうね

本人達の意思や展望とはズレていたとは言っても、あれだけの事を引き起こした才覚は本物だもの

ただ殺すには惜しいわ」


「それを理解し、使い熟せれば(・・・・・・)、だがな」


「その価値に気付けない者は退場するだけよ」



そう挑発的に言い切る曹操。

それを受けて肩を竦めて見せる森羅。

否定はしない、という事は肯定したのも同然。


ただ、そんな会話を二人がしているのは宮中。

黄巾党討伐──黄巾の乱の平定に際し、特に功績の大きかった二人には皇帝直々に褒美が与えられる。

その謁見の為、待機している部屋で。

誰かに聞かれようものなら大騒ぎとなる内容を。

平然と話している。

それは部屋の外には二人に付き添う関羽と夏侯惇が控えており、御互いに睨み合っている為。

誰も近寄れない事を理解しているから。


だから、肩を寄せ合い、話の合間には唇を貪る。

久し振りに感じる御互いの匂いに、味に、温もりに理性が飛びそうに為ってしまうが。

其処で自制出来るのも、この二人であり。

御互いに挑発し合い、我慢出来無い様に誘う。

ある意味、先に手を出した方が負けなのだから。

だから、勝った上で、この欲求不満を解消したい。

そう、御互いに考えている。


そんな二人の事情は置いておくとして。

会話に出ていた通り、張三姉妹は曹操の下に。

姓名と字は捨てさせ、新たな姓名で出直し。

それでも、彼女達には破格の処遇だと言える。


その上で森羅は曹操に方針を確認し、自分が獲れば遣ろうとしていた方法を伝えた。

普通であれば、曹操は意図を疑っていただろう。

或いは、曹操は点数稼ぎだと納得しただろう。

しかし、曹操は察していた。

森羅の「使い熟せるか?」という言外の挑発を。

だから、その方法自体を疑いはしないし、無意味に深読みし過ぎたりもしない。


その代わりに、貸しを作らない様に。

森羅と向き合う様に、その膝の上に跨がる。

その意図を察した森羅の両手は遠慮する事も無く、曹操の身体を蹂躙する様に堪能する。

勿論、それでも曹操は負けないのだが。

其処までしても一線を超えずに居られる。

この二人が如何に負けず嫌いなのかが判るだろう。






「并州の上党郡、ですか…」


「ああ、前任の太守だった張楊が張魍に討たれて、領内はかなり荒れている様だからな

連中からしたら、丁度良い場所だったんだろう」


「大和様に恩を売りつつ、足も引っ張る、と…

本当に屑な連中ばかりですね」


「清廉潔白な政治家なんて居ないからな

そういう意味では連中は間違い無く政治家だ

尤も、信用出来るのか、というのは別の話だがな」


「確かに、その通りですね」



 そう愛紗と馬を並べながら話す。

何はともあれ、第一段階は成功した。

無事、領地と官位を手に入れる事が出来たからな。


通常であれば、いきなり太守という事は無い。

しかし、「それに値するだけの多大な功績を…」と連中は上手く言って特例扱いしたんだろう。

皇帝からすれば、連中よりは増しだろうしな。

もしかしたら、どうでもいいのかもしれない。

流石に情報が少な過ぎて初対面では判らないが。

あまり、政治に関心が有る様には見えなかった。

…まあ、どの道、長くはない訳だからな。

俺達にとっても、どうでもいい事だと言える。


ただ、その裏では「統治能力は無いだろうからな、直ぐに泣き付いてくるだろう」とか考えている筈。

そうなれば、恩を着せて利用しよう、とか。

狙いが透けて見え過ぎているという事に気付かない連中の方が、ある意味では凄いがな。



「合流したら、そのまま上党郡へ?」


「ああ、暇潰し(・・・)で遊んではられないからな

取り敢えず、少しでも早く入って領内の大掃除(・・・・)だ」


「鬱陶しい()は一掃しませんとね」


「そういう事だ」



賊徒嫌い──まあ、好きな者なんて居ないが──の愛紗が殺る(・・)気を漲らせる。

領内を荒らしている賊徒や官軍崩れは勿論だが。

そういった連中と裏で繋がっている輩も含めてだ。

俺の領地で好き勝手させるつもりは無い。


何より、其奴等は溜め込んでいる(・・・・・・・)傾向が強い。

それが、潰せば丸々手に入る訳だからな。

遣らない理由は無い。

それに、その殆んどは給金や買い取り等で結果的に領民に還元される事になる。

そう考えれば、使い方(・・・)の判る俺達が持つべき。

無意味な使い方をされては、只の流出だからな。


それに、俺が太守となれば資金面では今まで以上に色々な事に必要になってくる。

だから、有って困るという事は無い。


──とは言え、まだ税収には期待は出来無い。

安定した税収は領内を立て直してからだからな。

だから別の方法で資金調達は継続する必要が有る。

流石に今までの様な遣り方は出来無い。

商人達から出資して貰って資金を集めるというのは無官位の根なし草の立場だったから出来た事。

今後、その遣り方は出来無い。

遣れない訳ではないが、漸く得た官位や領地を剥奪される理由にされ兼ねないからな。

自ら墓穴を掘る気は無い。


幸いにも、資金調達の当ては有る。

団の中で試食し、改良していた食品の一部が商品化出来る目処が立ったし、さっき曹操に手土産として渡して置いたから気に入れば発注が来るだろう。

そうすれば、放って置いても評判になる。

彼女の食に対する評価は確かだからな。

それに二番煎じを遣ろうともしない。

だから安心して試供品を渡せる。

知っていればこそ、だったりもするがな。

それは態々言う必要の無い事。

儲けられる時に儲けないとな。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。