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別冊†恋姫  作者: 桜惡夢
秋奏七歌
123/127

23話


 物語によく有る定番の物の一つ。

「この戦いが終わっら……」といった類いの台詞。

「所詮は盛り上げる為の演出」と。

そう鼻で笑っていたのだが……

フッ……どうやら、現実でも起きる様だ。

出来る事なら、奏太殿(貴男)の腕の中で果てたかった。



「いえ、遊んでいないで働いて下さい」



そう冷静に言う奏太殿。

その何事も無かったかの様な切り替えには尊敬さえする。

私は全く切り替えられてはいないですからね。

ええ、あんな事を妄想しておきながら、実際には奏太殿の腕の中に居ると顔も正面に見られません。

何コレ、近過ぎでしょうっ!?

……まあ、この状況も自業自得な訳ですが。


張三姉妹の──いえ、宝々娘々の公演の後、勢いに任せて奏太殿に告白したまでは良かった。

……いや、良かったのか?

今考えると、本当に良かったのかは悩ましい所です。

何しろ、私は奏太殿の返事を聞かずに逃げたのですから。

はい、「拒絶されたら生きてはいけないっ!」と思って。

奏太殿の声が最初の音となるよりも速く。

ははっ、人はあんなにも速く駆けられるのだな。


……はい、それが事の発端、現状の原因です。


逃げ帰った後、自分の不甲斐無さには涙も出ず。

だからと言って、自棄酒も出来ず。

流石に告白した日の事を酒で誤魔化すという真似は私には出来無かった。


稟達に言う事も出来無かったが……それは構わない。

どうせ、直ぐにバレるだろうから。

奏太殿が言い触らしたりはしない。

私が、少し前の春蘭の様になるだろうから。

……春蘭と同じというのは正直、複雑だが。

自業自得なので何も言えない。


翌朝、心身共に普段よりも気怠く、重かった。

寝付きこそ悪かったが、眠れはした。

我が事ながら、繊細なのか図太いのか判らない。

……まあ、仕事に支障が出なければ良いか。


そう思いながら身仕度を整えて部屋を出たら──目の前に秋蘭が立っていた。

全く気付かなかった。

其処に居る気配さえ感じなかった。

そして──驚いた一瞬の間に秋蘭に捕まった。

そのまま華琳様の執務室に連行された。

いや、引き摺り込まれたと言うべきだろうか。

蟻地獄の巣に踏み入れた蟻になった気がした。


昨夜、奏太殿の様子が可笑しかった為、問い詰めた?

奏太殿は口を割らなかったが……状況から察したと。

あー……私と別れた後は直帰するから。

だから、私が原因の可能性が最も高い、と。

成る程、納得。


ですが、それで奏太殿が口を割るとは……身体は正直?

……え? ……奏太殿の……その……アレを?

しかし、それでどう遣って………………


嘘は吐かないが、隠し事はする。

奏太殿は、そういう方です。

しかも、それは見破れません。

華琳様でさえです。

それを、秋蘭は可能にしている、と。


ただ、常人(・・)には判らない事です。

秋蘭の話を聞いても信じられませんから。

華琳様が視線で「秋蘭だからよ」と仰有っています。

ですよねー。


──でまあ、奏太殿の反応から見破り、確信した、と。

最終確認として容疑者()を確保した訳ですか。

…………え? 違う? では何故──



「──言わねば判らぬか、この腰抜け(・・・)め」



普段であれば、過剰に反応・反発する一言なのだが。

今は何と言うか……「……え?」となる。

予想していた展開と違い過ぎるから。



「勢い任せだろうが、告白したのだろう?

だったら、そのまま奏太の胸に飛び込まぬか!

そのまま目を潤ませ、可能なら涙の一筋も流せ

そうして求めれば押し切れたものを……

何の為に告白したのだ馬鹿者め」



そう言って、心底呆れている様子の秋蘭。

……予想の斜め上の反応だった。

いや、秋蘭も華琳様も奏太殿との関係は推奨している。

奏太殿自身が一線を越えない様にしているだけで。

だからまあ、私も告白した訳ですが……

そうか……だから、こうなる訳ですか。



「仕官当初、私に宣戦布告をしたのは何処の何奴だ?

あの頃の御前は何処に行った?

不安が有るのは仕方が無い

私とて初めての時を迎えるまでは不安だったからな

だが、それで臆していたら何も得られはしないだろう?

今の関係を失うかもしれないが、それで終わりではない

寧ろ、自分を女として意識させる契機(初手)になる

自ら膠着した関係()を壊す事で可能性()を拓く

その絶好機を……放り出して逃げた?

巫山戯ているのか? ア゛ア゛ァ?

何とか言ったらどうだ?」



顔を挟まれ、鼻先が触れ合う距離で睨み付けられる。

「いや、この状態では言いたくても言えない……」等とは口が裂けても言いません。

「御前の様な意気地無しには発言権は不要だろう?」と。

笑っていない目を向けられたので、首肯した。

……秋蘭が、あんなにも怖かったとは……

いや、これも奏太殿が絡んでいるからか。

奏太殿が絡んだ時の秋蘭は別格に成るからな。


──といった事が有った後、華琳様からの通達。

奏太殿と二人で(・・・)囮役をする様に、と。

ええ、判っています。

黄巾党との決戦に向けた大事な作戦です。

ですが……絶対に態とですよね?


そう視線で問うと、笑顔が返って来ました。

はい、逃げた私が悪いです。


──で、奏太殿と囮役の任に就きました。

普段の格好ではなく、旅の行商人夫婦を装った格好。

……今までは気にしていませんでしたが、私の普段着って意外と露出度が高かったみたいです。

いやまあ、旅の行商人という事ですからね。

露出が多いと些細な事で怪我もし易く危ないでしょう。

だから、露出が無いに等しい格好なのは当然。

寧ろ、体型さえ判り難くする様に重ね着しています。


私の判断ではなく、奏太殿の監修で、です。

「それっぽい格好だと食い付かないので」と。

まあ、今は連中も無差別に襲っては来ませんからね。

態々、危険な獲物には近付きません。

そういう意味では、扮装も徹底しなければ、と。


はい、実は今格好で十日程、過ごしています。

身体に馴染ませる為であり、服装自体を仕上げる(・・・・)為に。

草臥れ、薄汚れ、ちょっと臭う(・・)位にです。

…………正直、複雑です。

複雑ですが、必要な事なので仕方が有りません。

──ああでも、下着だけは別です。

毎日変えていますから。

ただ、この十日程は御風呂は無しです。

身体を洗うにしても水浴びだけ。

……其処まで遣る必要が有るのですか?

いや、万が一にも失敗は出来ませんが……


──なんて遣り取りをしながら任務開始。

夫婦を装うので、当然ながら常に一緒に。

夜営時には身を寄せ合い、宿では同じ布団で眠る。

自分の臭いも気にはなりますが、奏太殿の匂いがぁ……

秋蘭の言う“奏太分”が何なのかが判った気がします。


因みに、秋蘭と華琳様からは任務中に一線を越えても良いという許可が出ています。

出ていますが……流石に初めては整えたい。

せめて、身体を綺麗にしてからにしないです。

だって、一生に一度の事なのですから!


……まあ、どうせ、私はヘタレの腰抜けですが。

ええ、此処で開き直り、気にせず行けるのなら、あの時に逃げたりなんてしませんからね。

笑いたければ笑いなさい。

私自身、自分に対して笑って遣りたい位なのだから。


……ゴホンッ、話を戻して。

二日目、向こうの偵察の眼に私達が引っ掛かった。

──チッ、早いな、おい。

いや、見付かり易い様に場所を選んでいるのだから当然と言えば当然の事なのだが。

むぅ……複雑だな。


その偵察だが、警戒はしているが、その技術は稚拙。

此方等が気付いているとは思ってもいないだろう。

しかし、注視はしているから油断はしない。

気付いてはいない──いや、完全に無視する。

奏太殿──いえ、旦那様(あなた)、はい、あ~ん。




五日目、裏取り(・・・)をする訳ではないのですが……

私達の周囲を慎重に嗅ぎ回られています。

慎重なのにも程が有るのでは?

確かに其処等の賊徒とは違いますが……

まあ、偽装とは言え、夫婦生活が続くのは有りです。




八日目の今日、漸く食い付いてくれました。

本音を言えば、「もう少し……」とも思いますが。

今は意識が変わったので大丈夫。

これが終わったら、奏太殿と本当に──


──という妄想です。

はい、そう簡単に意識なんて変わりませんから。

奏太殿って意外と睫毛が長いですね。


さてと……怒られる前に私も仕事をしましょうか。

…………心の準備が要るんですよ、私でも。


奏太殿の肩口から後方を見て、追い掛ける黄巾党の連中と視線を打付ける。

そして、恐怖心を露にして──叫ぶ。



「キャアアアァァアアァアァッッッ!!!!」



視線を切り、奏太殿の胸に顔を寄せる。

しっかりと抱き付く事も忘れずに。

そうして、後ろからは表情が見えない様に。


何しろ、今、自分がどんな顔をしているのか。

自分でさえも判らない。

判らないけれど──顔が熱い。

耳の先──いや、耳の裏、項の辺りまでもがだ。


──恥ずかしいっ!


兎に角、その一心で体温が急上昇している。

はっきり言って、これまでの人生の中で、こんな悲鳴など一度も上げた記憶は無い。

あまりにも……そう、か弱い女みたいで恥ずかしい。

その真逆に居るが故に尚更に。


華琳様に秋蘭、稟に風、天和達に審査されて。

散々、駄目出しされて、どうにか形にした。

半泣き所か、本気で泣いた位に大変だった。

今後は芝居を見ても役者に文句は言わないと決めた。

誰が見ても判る演技力というのは凄いのだから。



「──上手くいったみたいですよ」



振り返る事も無く、走りながら奏太殿は囁く。

しかし、確認する余裕は今の私には無い。


逃げる獲物を追う。

その形を作る事で優位だと錯覚させ、更に悲鳴を上げれば大半が男達の連中は勘違いする。

警戒心が薄れ、前のめりになって追い掛ける。

その先に破滅が待っているとは考えもしなくなる。

全ては仕組まれた事だとも思いもせずに。


──という様な思考でも誤魔化し切れない!

忘れようとすればする程に脳裏に強く刻まれる。

嗚呼、秋蘭に気圧されたとは言え、囮役を引き受けた事を今となっては悔いるしかない。

救いが有るとしたら……この状況でしょうか。

奏太殿の腕の中に抱えられている事。

…………いや、やはり羞恥心の方が強い。

しかも、奏太殿に見られたのだから……

……ぅぁあぁぁああぁああぁあぁ──




 遠くから星の身悶えする声が聞こえた気がするわね。

まあ、自業自得だから仕方が無いのだけれど。

今回の囮を使った作戦は秋蘭の提案。

協力者は稟と風。

その意図は……まあ、言うまでも無いわよね。

黄巾党の一部を削る程度の事が目的ではないわ。

星に覚悟を持たせる事。

もう、これ以上無い羞恥心を味わえば……ねぇ?

……正直、私ではなくて良かったとは思うわ。

星よりは……まあ、声が出ない訳ではないわ。

あまり他人に話す様な事ではないけれど。

奏太の前では何度か、そんな経験も有るから。

……ああ、だから私も開き直れているのね。

──となると、星にも効果は期待出来るでしょう。



「華琳様ー、最終中継地点を通過したそうですー」


「そう、それでは此方等も動きましょうか」



囮役()に食い付いて()に入った獲物を狩る。

こんなにも容易い事は無い。

そして、その事に奏太が気付いていないとは思わない。

つまり、奏太としても星との関係を考えている。

期待している所まで進展するのかは判らないけれど。

この一件で確実に前進はするでしょう。


………………何かしら、少し靄々するわね。


もしかして、他の娘に先を越されたくはない、とか?



「……まさかねぇ……」


「華琳様ー?」


「何でもないわ

それよりも、本隊の方は順調なのかしら?」


「今の所は何の連絡も来ていませんねー」


「向こうは桂花が居るから大丈夫でしょうけど……」


「春蘭様が居ますからねー」


「そうなのよねぇ……」



事実なだけに、風の一言には思わず溜め息が漏れる。


此方等の別動隊は……まあ、殆んど私用よね。

討伐の成否は重要ではないわ。

──と言うか、失敗は有り得ないもの。

だから、事の成否は星の変化次第。


其処までは話してはいないけれど……

別行動になるから、春蘭には遣る気を出させる様な言葉を掛ける必要が有ったのよ。

普段なら、素直に話を聞くのだけれど。

こういう時には何故か変に勘が働くのよね、あの娘は。



「まあ、気を逸らす為の相手は居るから……」


「時間稼ぎになればいいですねー」



この娘は……本当に痛い所を突くわね。

事実だから私も何も言えないけれど。

遣る気に満ちている春蘭を簡単に止められるとは私達とて思ってはいないわ。

この一件が終われば直ぐに合流する。

その間だけ……問題を起こさないで欲しいわ。

こればっかりは願うしか出来無いのだけれど。

……はぁ~……人の心というのは難しいものだわ。



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