M04《1》「え、それでそれで? その隣人となんか進展してるの?」
「え!? それで普通に? 隣人DKと交流してんの?」
夏に向かう、レポート終わりの居酒屋で、「いつも」のメンバー四人組で女子会が開かれていた。「なになに?」と他二人の女子も身を乗り出してくる。
「寧子が隣に住んでる男子高校生逆ナンしたって話」
「男子高校生!?」「逆ナン!?!?」
「してない~~! ちょっと、荷物の誤配で交流持っただけ!」
「え、でも寧子って春に引っ越したばっかりだよね。相手は実家ってこと?」
「いや、相手も、ひとり暮らし……」
「しかも配信の客。つまりファン」
チリが余計なことを言う。
「ええ!?」とドン引く二人。
寧子がチリをどついた。
「それやばくない?」
「寧子前もなんかさ~トラブってなかった? 大丈夫? 刺されたりしない?」
「しない~~! 刺されないように引っ越したの! 隣人は偶然!」
「偶然でもバレたんやろがい」とチリのツッコミは容赦が無い。
「まあ、でも前の男は捨てられてよかったよね」「ねー」
と話の矛先が、「振り彼氏」に移行して寧子がビビった。
「え!?」
「いやだって、ね~」「ね~~」
顔を見合わせる友人s。チリは同意はしなかったが丁寧に説明をしてくれた。
「これは、前奴が完全にモラハラ系男だったのを、余りに寧子がそこのところ鈍いため全然気づいてなかったことを指しています」
「それ本気で言ってる!?」
三人の顔を見るだに本気らしい。
え、知らなかった。つらい。
確かに心当たりは……あった。
「ほんと女って機械のことほんとになんもわかんねーよな」というのが口癖で、「女って」「寧子って」とよく言われたものだった。「わかんないものはわかる人間に聞いた方が効率よくない?」と寧子自身は全然それが堪えたことはなかったが、それ以外にも、思い返せばエトセトラ……
「え、それでそれで? その隣人となんか進展してるの?」
思わず頭を抱えた寧子の、終わコン元カレには興味がなく、友人は楽しそうに身を乗り出してくる。うんざりとした顔で寧子はサワーのグラスを傾けた。
「なんの進展よ。なんもないよ。相手、だって17よ!?」
ひゅー!
沸くテーブル。沸くな沸くな、と寧子がなだめる。
「え、17で一人暮らし、しかも寧子のとこ確か、ちゃんとしたマンションだよね!? すごいお金持ちの家ってコト!?」
「そんなん知らないよ~~。知らないけど、まあ貧乏ではなさそうだった……? 通信制に通ってるとはいってた。あとなんか、仕事してるって」
「通信制で仕事ぉ!?」「勤労学生?」「だったら実家か、もっと安いとこ住むでしょ」
他人事でもみんな勝手な想像をおこたらない。
いやむしろ、他人事だからなのかも。
「なんか……クリエイター系なんじゃないの。わたしそういうの全然わからんけど」
「あーオンチだもんねぇそういうの寧子は……」
「でも、気をつけなよ~。17才っていったって……ねね、隣の男の子、顔は?」
こっそりと、とはいえテーブル全員に聞こえる声量で、友人が寧子に尋ねてくる。
「顔?」
ぼわ、と頭の中で思い出して見るが、顔を意識して見たことがなかった。
どちらかというとS2のゲーム機の方が強い印象だ。
(「ネコさん、このゲーム機、いる?」)
うーん、手足が長くて細い。あと。
「前髪が……長い……」
だめだこりゃ、と友人達も離れて居酒屋メニューに戻った。「なんにせよ気をつけなね」と釘をさすことは忘れずに。
同時に女子会らしく、話は「元カレ」に巻き戻った。
「てかさ~前彼はいつ別れたんだっけ? 寧子」
「別れたから引っ越したんでしょ。あれ、違った?」
「みんな私に対する記憶、いい加減すぎん? 別れたのは引っ越したあと!!!!!」
まあ、引っ越そうと思う、という段階で、「じゃあ一緒に住もうか」とならなかった時点で……終わりはもう、予想されていたのかもしれなかった。
でも引っ越しは手伝ってくれたし! とグラスを干す寧子に、「それからなんか連絡きたんだっけ? 元彼は」と友人が聞いた。
「あー……」
寧子がスマホを眺める。数日前の、LINEの通知がそのままにしてある。
《もう一回、話せないか》
既読はまだ、つけられないでいる。
◉
「あー……あれ、あかな、あいた~……」
かしゃん、とカード型キーを足下に落としながら、酔いがまわって頬を赤くした寧子が部屋の玄関ドアをあけた。
「んー……今日はもう、配信は無理……って言ってあったか。あったっけ?」
ガシャガシャ、とコンビニ袋を足下に置く。勢いで買ってきたスイーツと、明日のパンと、けれどもそれは置いたまま、缶チューハイを持って、電気もつけずにベランダの窓をあけた。
「はー、あつ……防音高いと、空気こもるんだよね~……」
言いながら、脳裏に思い出す、少し生意気な、若人の。
(「ネネさん、窓開けてやるのはほんと、まずいんじゃないですか。防音の意味ないんで」)
「今日は配信、してないもーん……」
言いながら裸足で人工芝のベランダに出る。
夜風に当たりながら、プルタブを引っ張った。
髪を風に流したまま、もうほとんど香りもわからないチューハイを呷る、と、鼻についたのは、グレープルフーツのにおいじゃなくて。
ぐい、と柵から身を乗り出し、避難扉の向こうの隣人の部屋を覗き見た。
「あー」
長身の背中。初めて顔をあわせた時みたいに、汚れたエプロンで、キャンバスに向かってる、その影、が。
「やっぱ、いた!」
でっかい月夜。上機嫌な絡み酒、以外のなにものでもなかった。




