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アンチコメント・ラブソング~どうしようもない炎上配信者の私に恋をしたのは 隣の部屋に住む、ラブソングの神様でした。  作者: 瀧ことは
M03 炎上ゲーム配信者、転売を疑われる

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8/8

M03《2》「今はネネさんには言いたくない、かも」

 なりゆき、隣人の部屋で、ゲーム機の接続を眺めながら、寧子は沈黙が気まずくならないように、話を変えてみる。


「えー……そもそも、よくうちの配信きいてたね。えっ、もしかして、特定して引っ越してきたりしてないよね!?」

「いや……それはさすがに、偶然」


 接続をかえたためか、自分はゲーミングチェアに戻って、ヘッドホンを軽く首にひっかけながら萬里は言った。


「ヤマネコさんの配信は前から聞いてた、けど。隣の声とイヤホンがサラウンドで聞こえた時にはびびった。ネネさん、窓開けてやるのはほんと、まずいんじゃないですか。防音の意味ないんで」

「うあーーー」


 やっぱそれか〜まずいのはわかってんだよ〜〜と寧子は頭を抱える。

 萬里はふい、と顔を背けながら、低い声で言った。


「ネネさん、かなり脇が甘い。でもそこがウケてもいるんだと思う。不本意なウケ方だろうなと思ってたけど……もしかして、不本意じゃ、なさそう」


 んですかね、と萬里が椅子から、寧子を覗き込んできた。

 うっと寧子が身を反らす。


「な、なに……不本意って? どういう意味?」


 本当にわからなくて、聞き返していた。

 炎上しがちな配信者だけれど、不本意だったこと、あんまり心当たりがない。


「……………………つよ」


 小さく萬里はそう呟いて、自分はまた接続のいくつかを確認するために背をむけた。そんなに接続が難しい機械ではないはずだが、音響の配線の方は調節がいるらしい。

 巨大なディスプレイ画面では、S2の起動がはじまっている。

 寧子はワクワクとその起動を眺めた。下手くそゲーム配信者だが、ゲームは好きだから血が騒ぐのだ。


 起動だけして、萬里はコントローラーを渡してきた。


「俺はアカウントないから、どうぞ」

「う、うん」


 ほんとにゲームしないんだな、と寧子は思いながら、自分のアカウントでログインした。


「ふわ~画面でっか~~! やば!!」


 寧子は普段配信用の画面接続をしているため、こんなに解像度の高い液晶で見たことはなかった。加えて最新機の性能の良さだけでは説明がつかなかったのはオーディオだった。


「なにこれ、めっちゃ音響よくない!?」


 隣に言ってみれば、萬里はゲーミングチェアに膝を立てて座りながら、空中を見つめている。


「だいぶ低音まで拾えるんだな……。もうちょっと、ピコピコ系の音が出るゲームってある?」

「オッケー」


 言われるまま、寧子はソフトをかえてみせた。それから隣人のリクエストにこたえる形で、寧子も最新ゲーム機を心底楽しんでしまった。


 あっという間に深夜もまわり、はっと気づいた寧子は時計を見て、慌ててゲーム機を箱に戻す用意をした。いつの間にか、ゲームに熱中する寧子を放置して、萬里は背中を向けて、PCで作業を進めているようだった。


「バンリくん!」


 心持ち大きい声で叫んだら、萬里が背筋を正して振り返る。びっくりした顔をさせてしまった。


「ごめん、長居しちゃった。帰るね。配線このままで大丈夫?」

「あ、そのまま置いておいてください。大丈夫です。触らないで」


 そして、サンダルをひっかける玄関先で、寧子は聞いた。


「バンリくんてさ~、なんか、つくってるんだよ、ね?」


 ほとんど、確信に近い問いかけだった。寧子はアマチュアだけど、なんとなく、そういう人間の空気みたいなのが、わかるのだ。

 そもそもなんにもつくらない人間は、こんな機材を抱えてひとりぐらしをしない、というか……。


「その……アカウント名とかって、聞いてもいいやつ?」


 これは、ただの寧子の、長年の「インターネット勘」だったけれど、寧子の配信に話しかけてる、あのアカウントが創作者としての名前ではない、ような気がしたのだ。これは本当に、インターネットの勘で。

 その言葉に、見送りにきていた萬里が一瞬、真顔のままかたまった。

 しばらくの、沈黙ののち。


「隠すつもり、ないんだけど……」


 それから一拍おいて、言った。


「今はネネさんには言いたくない、かも」

 

 言いたくない。

 ことはそれ以上聞けないだろう。

 すみやかに隣の部屋をあとにして、そのまま寧子は、配信生活に戻っていったのだった。




 で、配信は今にいたる。


 コメント欄はいまだに荒れ気味だ。


《てか隣人なにもの?》《自演?》《枕じゃねえの》《ネコ寝た?》


「あのね……」


 匿名のコメントはいつだって、とびきり民度が低い。

 呆れ気味に寧子は言った。


「誰や枕っていったの。いや、あなたたちが下品なことを言うのはいいけどね、あたしひとりのことなら好きに想像したらいいけど。あ、抜いたらちゃんと金投げなさいよ」


 丁寧に、フラットな、一定の音階。

 ポイントは、半分諦めて喋ること。伝わらないひとは絶対伝わらないし、伝わらなくたっていいって。信頼半分、諦め半分で。半分諦めても、半分を、リスナーの信頼を、諦めない。


「でも、今回はちゃんと相手がいるからね。あたしじゃない人間いるから。失礼なことあんまり言わないように」


 こんなゆるい言葉でコメントがおさまるとは思っていない。

 炎上にはいつだって、流れがある。この際正義はあんまり関係がない。人は、叩きたいものを叩くだけだ。

 言いたいリスナーには、言わせておいてやる。それもひとつのファンサービスだと寧子は思っているので、動じることなかった。


「あと、当の隣人も見てるかもしれないし、コメントしにくくなっちゃうじゃない?」


 この言い方はちょっと、ズルい。ひとをまきこむことをいうのは、よくない、という自覚はもっていたものの。

 これも寧子の長いインターネット勘というやつで。

 ちゃりん、と小銭の投げ込みとともにコメントが上がった。


《隣人です。私が提供しました✌》


 わ、とコメント欄が盛り上がる。コメントはくると思っていたけれど、投げ銭つきなことに寧子は心中、引く。


(すぐ投げよるじゃん)


 なお、アカウント名は前と一緒だが、ご丁寧に尻に(隣人)とついている。


《!!!!!》


 その、たったひとことで、コメントの流れがかわった。

 寧子はほっとする。人の心がなくても、気持ちが動く時は、たくさんある。

 荒れてしまった流れを断ち切るのに、どんな消火も意味がないことを寧子はもうよく知っているのだ。

 対処として、一番いいのは、叩くことより面白いものを差し出すこと。


《本物?》《自演じゃなければ》《え、嘘松ちゃうの?》《アカウント一緒》


 騒然とするコメント欄の話を打ち切るように、


「信じるか信じないかはあなた次第です~~」


 そう宣言をする。あとはもう、コメント欄は好きに遊ばせるとして。


「S2起動配信はじめまーす。音楽良いから、聞いていってね~」



 一方その頃、隣の部屋では。


「♪」


 カチカチと、マウスを動かす萬里が、ヘッドホンで寧子の配信を聞きながら、動画の編集をしていた。





──生存確認通知音

  気ままに弾丸を躱す君は

  どこまでも走る 光のはやさで

M03でした!

評価・ブクマ・コメントありがとうございます。大変励みになります。

次回、

M04 炎上ゲーム配信者、ほろ酔いで絡む

楽しんでいただけたら幸いです♪

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