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アンチコメント・ラブソング~どうしようもない炎上配信者の私に恋をしたのは 隣の部屋に住む、ラブソングの神様でした。  作者: 瀧ことは
M02 炎上ゲーム配信者、隣人宅に潜入する

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M02《2》「訴える? 俺のこと」

「波涛萬里」とその、くちゃくちゃにしてしまった荷札には書いてあった。

 寧子は、一旦「続きは、明日!!!!」と無理矢理配信を切りあげ、痛む額をぐうっとおさえた。


(どうする!?)


 行くべきか。行かざるべきか。いやまあ、大人だから。大人なので……。

 今の、配信のスパチャが隣人本人でなかったとしても、どちらにせよ謝罪をしなければならない。大人なので……。


 ダンボールを抱え、自首する犯罪者よろしく、ピンポン、とインターホンを押して、しばしの沈黙。

 インターホンはこたえることなく、ガチャリと扉が開いた。

 顔を出したのは、相変わらずひょろりとして前髪の長い、年若い隣人。その人は、なんでもないことのようにして、言った。


「ようこそ?」


 あーーーーーーーーーーーーーーこれは、コメントしたの、本人ですね。本当にありがとうございます!!

 寧子は泣きそうな気持ちになりながら、青い顔をして、封をあけたダンボールを差し出して、言う。


「すみません、悪気はないんです。本当に、申し訳ありませんでした……」


 隣人氏は、そのダンボールには手を触れず、詳細を聞くこともなく、「ふむ」という顔をして。


「どうぞ」


 と部屋の中に促した。

 この日この時この場合、果たして寧子に拒否権はあったのか……それから何度もこの瞬間を思い出し、考えるけれど、寧子には永遠に、正解がわからない。

 この時はまるで、連行される犯罪者の気持ちで、促されるまま、隣人の部屋に入っていったのだ。

 パタン。



 寧子の部屋が、1001号室。ここが1002号室。間取りもほとんど同じだったが、その雰囲気はすっかり違っていた。

 リビングルームを埋め尽くしてるのは、音楽機材と、画材の山、山。

 音響機材は熱は出しても匂いを出すことはほとんどないので、鼻に少しさわるのは油絵だろうか。まだ使っていないキャンバスも、サイズの大きなものが大量にあった。

 それ以外、人間の暮らすような余地がほとんどない。寧子の部屋のようなダイニングテーブルもないし、ソファもないので、寧子はかろうじて機材のない部屋の中央部に、ダンボール箱を置いてそのまま、深々と三つ指をついて頭を下げた。


「ほんっっとーにすみませんでした!」


 迎えいれた隣人氏は、ゲーミングチェアの座面で片膝を抱えるように丸く座って、寧子の土下座を見下ろしながら、言った。


「…………ネコさんに悪気があるとは思ってないので」


 低く、ぼそぼそとしていたが、耳ざわりのよい声だった。

 ウッ、と寧子の心をえぐったのは、慰めの言葉ではなく「ネコさん」というその呼び方だ。

 どう聞いてもどう考えても、リスナーだ。

 しかも、今日みたいな雑談配信を聞いているなら、かなりの常連ヘビーな客ではないか。

 知らぬが仏であったものを、掘り返すような真似をしてしまった……。


「あのですね、ほんっとーに、こんなところでこんなこと、頼むことじゃないってわかってるんですけども……」


 寧子は青ざめた顔のままで、頭をあげずに言った。


「い、言わないで欲しいのね……」

「……?」


 隣人氏、首をかしげる。寧子はこぶしをかためて言った。


「いや、人の口に戸は立てられないって、ほんっとーによく知ってるんだけど! 黙ってて欲しいんですよ! もっと言うなら、出来たら晒さないでもらえないかな!? 住所とか、本名とか……!」


 寧子は祈りながら頼みこんでいた。人の口に戸は立てられない。

 でも、ある程度、心配りというか、口先だけでも、安心の言質は欲しい……。

 乞われた隣人氏はぼんやり空中を見上げながら、



「言ったら、どうなるんだろ」


 と呟いた。


「え?」


 顔を上げる寧子の正面に、目線をあわせるようにしゃがみこんで。


「訴える? 俺のこと」


 晒しの対応って、どんな感じですか? と聞く隣人氏は、シンプルに興味がある、という顔をしていた。

 晒したら、訴えるのか。

 その方法があることは、寧子も知識としてはあったけれど……。

「は?」と寧子は気がつくと素で言っていた。


「なんで。そんな面倒なことしないよ。裁判したくて配信してるわけじゃないもん。バラされたら、ええと、即引っ越し。転生。そうね、しばらくはボイチェンでアバター配信でもしようかな」


 そういうところも、寧子は全然、一切ためらいのない女だった。

 前よりも顔が売れてしまっているから、次の転生はガワもかえる必要があるだろう。Vのデビューか。

 それはそれで興味があるし、今の自分の人気なんて、泡沫みたいなものだとよくよくわかっている。


 その、寧子の返事に、「うーん」と隣人氏は口元をおさえて考え込んで。


「俺は、ネコさんの配信好きだから、やめてほしくないな……」


 と、考え込みながら言った。


(これは……いける!)


 と寧子は光明がさすのを感じた。


 この感じ、いけるぞ! このまま逃げ切ろう! そうと決めたら寧子ははやかった。


「じゃあ、そういうことでよろしくお願いします!」とそのまま立ち上がった。


 隣人リスナーには家バレはしたけど、どうやら現状維持希望の良ファンみたいだし、これまで大して交流がなかったんだから、今後もどうせないだろう。あとは相手の良心に期待!!!!! と思っていた、ところで。


「ところで」


 帰りかけた寧子の背中に、隣人氏は声をかけた。


「ネコさん、このゲーム機、いる?」


「え?」


 寧子は思わず振り返る。隣人氏は目の前に置かれた『witchS2』の箱を眺めながら言った。


「これ、なんか、知り合いがダブったからうちに転送してくれたんだけど、ちょっと音周りの確認させてもらえたらいいし……俺、ゲームってしないんだよね」


 ネコさんが配信につかってくれるなら、もらって欲しいんだけどな、俺。


(ああん??????)


 その瞬間、寧子の頭上を走る、《バレ黙殺》《現状維持》《引っ越しキャンセル》《存在をスルー》《NO交流ゼッタイ!》という言葉をかき消すようにでかでかと、「witchS2当選」の文字が躍る。



(に、逃げられない……)


 そんな風に寧子は、絶対絶命になってしまった。

 これはもう、勝手に。



 そうして座る隣人氏のディスプレイの後ろには、どこかで見たような、油絵のPVが流れている。





──無人島に 独裁のフラッグ

  裸でも王様だと 教えてくれた

  着飾ったステップ 狂気で高貴

M02終でした

ブクマ・評価・コメントすべて、ありがとうございます!

次回、

M03 炎上ゲーム配信者、転売を疑われる

でお会いしましょう

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