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アンチコメント・ラブソング~どうしようもない炎上配信者の私に恋をしたのは 隣の部屋に住む、ラブソングの神様でした。  作者: 瀧ことは
M01 炎上ゲーム配信者、隣人バレする

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4/7

M01《4》(らぶか、らぶか、ラブソングの神様、ねぇ……)

「マンションの隣部屋に、身バレしたぁ?」


 大学の学食で、日替わりのランチを食べながら言ったのは、寧子の友人の秦野はたのチリ。

 眼鏡をかけたおかっぱ頭の、寧子の同級生だった。コスプレイヤーという趣味も持つチリは、寧子の配信者としての顔もよく知っている。


「んじゃまた引っ越し?」

「やだよ、まだ今の部屋来て半年だよ!?」


 サンドイッチを勢い半分にちぎりながら、寧子が嘆く。


「でも寧子、前も住所バレが原因だったじゃん?」


 そうなのだ、半年前、突如アンチからの攻撃でインターネット上にウラオモテヤマネコの個人情報が晒された。

 名前や大学までは流出しなかったが、ご丁寧にグーグルマップのピンをさして、窓からの画像と照らし合わせ。警察にも駆け込んだけれど、身の安全を考えると一日でもはやく引っ越すに越したことがない、と言われた。

 引っ越し代は高くついた。もちろん突然の個人情報流出に、応援してくれるリスナーは多くのカンパを送ってくれたけれど、それだけでなく配信者としての広告収入がなければ、家賃が前より倍額近くの今のマンションには越せなかったことだろう。

 さすがの「心のない」寧子もちょっと落ち込んだ。

 いきなりドンピシャに、自分の住所がネット上に晒されたことについて、いくつかの写真が決め手になった……とされているが、寧子はそうではない可能性も大いにあり得た。


 ……もしかして、身内オフの嫌がらせなのではないか。


 考えても仕方がないが、ぞっとする話だった。疑心暗鬼で怯えていても仕方が無い、のはその通りで。

 頭を抱える寧子に、『とりあえずお金あるなら、いっそ誰も知らないところに引っ越しちゃいなよ~』と言ったのはチリだった。


『あたしも疑われたくないからさ、新しい住所は聞かないでおくねん』


 気楽な言葉は、下手な同情よりもよほど寧子の慰めになった。

 そうだよね、そうと決まったら切り替えて引っ越すしかない!

 同時に、人を疑うことはやめよう、と寧子も思ったのだ。

 隠し事がバレるのは、バラす人間はもちろん悪いのかもしれないが、そもそも隠す人間も罪なしとはいえまい。

 バラされて困ることは、墓場まで持っていく。周囲にいらぬ気遣いを求めない。

 罪を憎んで人を憎まず。だからわたしもちょっとぐらい炎上コメントをしても許して欲しい、と配信で言って、「保身ネコ」とまた燃えた。うるせー。

 別に傷つく心は持ってないとしても、なんでこんなに燃えるわけ、と一番炎上が酷かった頃にはさすがに嘆いたものだった。


『なんででも、なんじゃない』


 カフェでバエるラテアートを撮りながら軽い調子でチリは言った。


『なんでもいいのよ。なんなら、寧子が、上手くいってる若い女、だから燃えるわけ。最近は上手くいかなくっても燃えるけどね。アンタがやってるのは娯楽の提供。ボクシングジムのサンドバッグ、バッティングセンターのボール。ストレス解消の消耗品として、せいぜい期待にこたえてあげたら?』


 強いパンチをうけて、フルスイングのバッドで遠くまで。


『人をなんだと……』


 とうめく寧子に、ふっと、チリは笑った。


『人だとは思ってないんじゃない? そして、あたしも見る限り、こんだけネットで叩かれてもびくともしないアンタは、やっぱりちょっと、人じゃないかもね』


 その時、そうか、と寧子は思ったのだ。


 殴る方も人だと思ってないなら、人の心がないのは、きっとちょうどいいのだろう。


 人間離れした、娯楽の提供。やってやれないことならば、やってやらないこともない、適材適所。お金も入るし。

 そう思って割り切った、はずだった、が。

 時々、現実とこうして目が合うと、うろたえてしまったりするもので。


「わー!!」


 ため息をつきながら寧子が考えこんでいると、チリが突然顔を上げた。驚いて寧子も視線を向ける。

 チリは腰をあげて向かいから身を乗り出してきた。


「見てみてみ!!! 新曲、あがったんだって~~! MVつき、やだ~最高!」

「あー……」


 チリの見せるスマホ画面には、全画面の状態で、よくわからないぐるぐるした抽象画がまわっていた。どこかで見たような絵だと寧子は思う。実際のところ、絵になんかミリも興味がない。

 視線をそらせば学食のいたるところで、同じようにスマホを見せ合って盛り上がっている人間がいた。ほとんどが女子だ。


(らぶか、らぶか、ラブソングの神様、ねぇ……)


 残念ながら信仰している神が違うのか、一切寧子には響かない上に、最初に「アンチラブカ」として炎上をキメてしまったため、折につけコメントにもあがってくる。

 もう、こうなると好きになる要素がなかった。それを知っているチリも別に同意と共感を得たいわけではないようだった。言いたかっただけ。わかるよ。

 ただ、ここまでみんなが熱狂していると、乗り切れない自分というのもどこかいたたまれないわけで。

 スマホに目を落とし、SNSでも開いて茶を濁すか……と思っていたところで。


「っあーーーー!!!!!」


 思わず寧子が立ち上がったので、今度は驚くのはチリの方だった。「なに?? 新曲??」「違う!!」

 顔を覆ってこんどは座りこみ、絶望の声をあげた。


「ま、また落ちたーーーーーーー!!!」


 その叫びに、あー……とチリも察して諦めたような声をあげる。

 寧子が見たのはラブソングの神様の新曲でなく、『witcheS2』という、大人気ゲームの新型後継機、その抽選販売の結果だった。

 落選、落選につぐ落選。

 最近は雑談配信ばかりが切り取られてバズっているが、寧子はこれでも一応ゲーム配信者の端くれだ。いちはやくwitcheS2を手に入れて、実況をしたい望みだけはあった。

 望みは、望みだけで、叶いそうもなかったが。


「はぁああああ……」


 思えば、恋人にもフラれ、隣人にも配信バレをし、抽選も落選。

 神も仏もいない、と寧子は絶望した。


「いや、隣人バレは自業自得やろ」


 向かいでチリが、『ラブソングの神様』の新曲を流している。

 スカした歌が、耳にさわるけれど、他人事だと思っていた。

 この時は、まだ。





──深い夜、緊急車両、助けられたか恋の病

  Qと9の押し間違いに

  急病人の顔をしたのはどちら ほらHONEY

こちらで第一話となります。次回は

M02 炎上ゲーム配信者、隣人宅に潜入する

でお会いいたしましょう。

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