M01《3》「いつも楽しんでます、ヤマネコさん」
(「──今夜はもうしないんですか。配信」)
上記の隣人の発言から、推測出来ることを述べよ。
①自分が配信者であることがバレている。
②昨日の夜の配信を、ベランダから聞かれていた。
完!!!!!!!!!!!!!
と寧子は思うけれど、いやいやいやいや、まだ活路があるかもしれない。ここから入れる保険があるかも!?
③昨日偶然聞かれていただけかもしれない。
④まだ配信者のアカウントはバレていないのでは!?
これならワンチャンネコチャン、本当に行けるか~!? と寧子は一晩悶々と過ごした。なんなら彼氏からフラれたことよりも、隣人バレの方が重大ごとだった。
(どーしよ……)
どうしてもこうしても、朝は来る。
翌日の朝、ペットボトルのゴミを捨てるため、寧子が部屋から出た。可燃ゴミは24時間出せるステーションがあるのだが、資源ゴミはその限りでなく、月に2度しかないので、捨て逃すと大変なことになってしまう。
袋を持って寧子がエレベーターを待つ。
ガチャ。
エレベーターの扉の反射でうつったのは、マンションの廊下、その、ちょうど寧子の部屋の隣から、若い男が出てくる様子だった。
(うわ)
隣人は、やはり資源ゴミ出しなのだろう。黒いTシャツ、細身のパンツ。常飲しているのか、大量のエナドリの缶が入った袋を下げていた。
(気まずいがすぎる……)
と寧子さんは思った。
とっととエレベーターに乗り込んで消えてしまいたかったが、朝で混雑しているせいだろう、エレベーターの動きは遅く、斜め後ろに気配。額にじわりと汗が浮かぶ。
「あ、あの!」
思わず声をかけたのは、気まずさゆえだった。声をかけられた方も驚いたのだろう。長い前髪の向こうで、ちょっと目を丸くしているのがわかった。
やっぱり、若い。身長は寧子と同じくらいか、少し高いくらいだが、腰の位置が高くて手足が長かった。
「すみません昨日……とか。うち、うるさかった、です、よね……?」
失礼しました、今度から気をつけます、とぼそぼそ言ってるうちに、エレベーターが到着したので慌てて寧子が乗り込む。
あとから乗り込んだ隣人が、『1』の階数ボタンをおした。
そして、寧子に背を向けたままで、言う。
「……いえ、部屋の中にいたら聞こえてないので」
その声に、そうだよね!? と一瞬寧子が明るい顔をした。
の、束の間。
「なので今日は窓あいてるな~って思ったら、ベランダに出て聞くことにしてて」
「へっ!!」
「あ、でも大丈夫です。いつもリアル音源聞いてるわけじゃなくて。普段は配信がはじまると、通知が来るようにしてあるので」
「ふぁっ!?」
エレベーターが、1階にたどりつく。
ちら、と長い前髪の、隣人が振り返って。
「いつも楽しんでます、ヤマネコさん」
配信、がんばってください。
エレベーターに残された寧子は思う。
(お、終わった~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!)
なお、この報告をした雑談配信はめちゃくちゃ盛り上がった。
隣人バレ。リスナー発見。特定されました。
どいつもこいつも、他人事だと思って好き勝手にもりあがる、その、たくさんの投げ銭の中に、隣人からのものもあるかもしれないが……寧子は考えることを、やめた。横転。
次話でM1が終わります。




