M07《1》「これは、ストーカー行為では?」
最近ウラオモテヤマネコの配信は、ゲーム実況よりも雑談の方が視聴者数が多い。
ちょうどS2の誤配提供あたりが分岐点となったようだった。
複雑なことだが、広告収入は増え続けている。
その日も夜遅く、益体もない雑談配信をしていると、新作のコンビニスイーツの話になった。
「え、ってことはチョコミントのロールケーキがきたってこと?」
なにを隠そう、寧子はチョコミント党だ。
《えっないわ》《ないない》《歯磨き粉がどうした?》
「歯磨き粉いうやつかえってもらえる? 宗教上の理由でNGワードにいれさせてもらおうかな? チョコミントは夏の季語なんで……。異論は認めないので……ここではあたしが法なので……」
《いきなり独裁宣言》
《暴君ネコ》
《fossi》《またどうしてそんな燃えそうな食べ物を……》
《お、隣人さんだ》
《隣人氏チース》
隣人氏、すっかりアカウント名を覚えられてしまっている。
コメント欄だけで盛り上がってなんなよ、と思うがこの際は流れにのって寧子は言った。
「やだやだなっちゃったよ~口になっちゃった、チョコミントの口に! えっそれは食べにいくでしょ。行くわ。これからあたしはチョコミントを買う旅に買い出ますので、止めるな」
おやすみ!
そう言って配信を切ってしまうと、眼鏡つけたままでいいや、と適当に髪をくくってキャップの後ろから尻尾を出す。
スマホと財布をつかんで廊下を出る、エレベーターを待ってのりこむと、閉じかけたドアが閉まる瞬間、つっこまれた手で止められた。
「おわっ」
「乗り、ます」
「駆け込み乗車はおやめください~」
棒読みで乗り込んできたのは黒いTシャツを着た隣人だった。急いで出てきたのか、ちょっと息が上がってくる。
「これは、ストーカー行為では?」
驚いた顔をしてみせたけれど、実際のところは来るかも、という気がしていた。
二人でエレベーターの中に肩を並べて立つ。
「ストーカーに用心する心があったら、あんまり危ないことしない方がいいよ。夜中のコンビニとか」
「コンビニ別に危なくないよ。実況とかしながら出た方がよかった?」
「そっちの方がよっぽど危ない。わかって言ってるの、よくない」
億劫そうにため息まじりで萬里が言った。
そりゃまあ、わからいでか。伊達で長年炎上配信をしてきていない。
「まぁまぁ、気をつけないとね。隣人にストーカーされるかもしれないし」
「ストーカーではないので……。今、偶然、ドリンク切れたから、買いにいくだけ」
しれっという萬里の言葉、違うところが寧子がひっかかって声をあげた。
「ああ!? バンリくん、わたし前も言ったよね!? エナドリやめろって!」
「ネネさんうるさい」
エントランスに響く寧子の口元を、萬里がふさいだ。あいからず、体温の低い手で。
「言われた。覚えてます」
「む~~!!」
昼夜の逆転は仕方ないとしても、エナドリで生きながらえる真似はやめるように、としばらく前に電車で助けてからきつく寧子は言ったのだ。
わかった、と萬里は言っていた。
「箱で買うのやめたんです。それで、なくなったからコンビニに行くの」
だから、この買い物はストーカーでなく正当、と萬里。
「ほなええか~」
と寧子がゆるく許可を出し、並んだままマンションから出た。




