M06《2》「その時はこの避難壁、破っていきますね」
「美味しかったです。ごちそうさまでした」
「ほんとに食べた! え、まだポテトあるけど食べる? 残ったら冷凍しておこうと思ったんだけどさ」
「ネネさんの分じゃないんですか」
「こんなにたべたら太るじゃん」
自分のポテトを差し出す寧子に、
ふっと萬里が笑うと、
「太りネコだ」
小さく言って、自分も手を伸ばしてそのポテトをつまんだ。袋ごともっていってもよかったのに、と思いながら、寧子も同じ袋からポテトをつまむ
爽やかな風が吹き、ふと、唐突に、薄い避難壁が邪魔に思えてしまう。
ここにこんな壁がなかったら、たまに一緒にベランダランチをしたり、萬里が絵を描くところを眺めたり出来るのに。
「今日は絵、描かなくていいの?」
キャンバスが出ていないベランダを寧子が覗き込んで、言う。
「まだそこまでいってないから……」
渋い顔でポテトを噛みながら、萬里が言う。
「でも、もうちょっとかも。ネネさんのおかげで」
「わたしのおかげ。ハンバーガー?」
「そうは言ってないけど、まあ、婉曲的にはそうかも」
だから代金、払ってもいいですよ、という萬里に「いいって」と寧子は固持する。
「バンリくんは、スタッフが美味しくいただきました、のスタッフだからさ。黒メリさんちゃんが出てくるまでよかったらつきあってよ。でもちゃんとした栄養あるものも食べなきゃだめだよ。冬になったら鍋とかする?」
「鍋。ベランダで?」
ふっと萬里が笑って言う。
あーそっか、と寧子も思う。
鍋はさすがに、こんな風にベランダごしに渡しあえない。じゃあ、と冗談めかして萬里が続けた。
「その時はこの避難壁、破っていきますね」
「破るな破るな」
言いながら寧子は、少し惜しい、残念な気持ちにもなった。
(バンリくんが女の子だったらもうちょっとやりようあったのにな~)
もっと互いの家を行き交いして、いっぱいご飯を食べさせて、もっともっと仲良くなれたかもしれない。
隣の席にイケメンなんて、チャンスじゃないの? と言ってくる女友達もいたけれど、イケメンよりも女の子の方が絶対よかった。
ていうか。
(イケメン……か……?)
覗き込んでみる。三つも、年下の男の子。前髪がながくて、手足が長くて。
ポテトを食べてる。
「ネネさん、どうかした?」
視線に気づいた萬里が、顔を寄せる。「なんでも、ない……」と寧子は離れ、「あ、ちょっとまってて」と部屋に戻る。
「これ、かぶりだから一個あげるね」
寧子がそう言いながら萬里に渡したのは、メリーさんちゃんの小さなぬいぐるみだった。
萬里はそれを、喜んだ様子はなかったけれど、じっと目をあわせるように見た。
用は済んだ、と寧子は部屋に戻る用意をする。
「んじゃ、美味しく食べてくれてありがとね! スタッフに感謝! ないと思うけどもしも、わたしでなんか出来ることあったらいつでも呼んでね~~」
そんな風に別れて。
萬里はふらふらと部屋に戻ると、もらったぬいぐるみをディスプレイの隣に立てて、頭をなでた。
パソコンには、制作途中の楽曲の表示。
「出来るまで、見守ってて」
そう小さく囁くと、ずっと机の上で鳴りっぱなしのスマホを操作した。
「はいはい、起きてる。起きてるから。猶さん、鬼電もうやめて……」
──真 昼 太陽 ごしの アラーム
朝 か 夜 か
エサ を あ げるよ 出ておいで
M06 炎上ゲーム配信者、隣人にデリバリーをする
でした。
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物語はゆるやかに、佳境に向かいます。
ここがひとつの、ターニングポイント。




