M06《1》「お待たせしました~デリバリーお届けですう」
S2の紹介実況が終わると、寧子のゲーム実況はあまり奮わなかった。
単純に、出がけの新機種はソフトの弾が少なく、実況しようと思うほどのものに出会えないという環境的な事情だ。
初夏のウラオモテヤマネコ配信は、すっかり雑談ばかりとなってしまっていた。
「えっ今日からのハピーセット、メリーさんちゃんなわけ!?」
金曜夜の雑談配信の最中、有名ファーストフード店のコラボおまけが発表された。
コラボ先は寧子が小さい時から好きな、女児向け人気キャラクターだった。
「しかも、黒メリさんがあるやないかーーー!! わーん!!」
小さなヤギにも似た羊のぬいぐるみには、レアキャラであり寧子の推しでもある黒メリさんもいた。
これはやるしかない!
と寧子が週末昼間からはじめたのは「ハピーセットランダム開封配信」だった。
デリバリーで調達したハンバーガーセットを4種並べて、いざ、開封。
「うわーーーーー!! ランダム、死すべしっっっっっっっっっっっっ」
好きなものは、大体出ない。それがランダム。
《乙》《あるある》《わかるよ》《全部食うの?》《さすがに太ネコになるのでは》
「誰か太ネコや。スタッフがおいしくいただきます~~」
《スタッフ?》
冷めてしまうのでとっとと配信を終わり、スマホを取り出す。素早くメッセージ。
《助けてスタッフ~~!》
《くると思った》
既読即返信。うん、見てると思ったよ。
《ポテトとハンバーガー食べよう。嫌い?》
《嫌いではないですが、食べようではないのでは?》
《別にお金をとらないよ?》
《払っても全然いいですけど、ベランダでいいですか?》
《いいよん》
「お待たせしました~デリバリーお届けですう」
明るい休日、爽やかな風に吹かれながら、ベランダに出るとすでに隣人は待ち構えていた。
「どうも……」
「あら。なんか珍しいね。寝起き?」
手渡しながら、いつもよりももっさりした様子に思わず言ってしまった。珍しく日中の配信だったのは、夜に大量のジャンクを食べるわけにもいかなかっただけだ。
ふあ、と猫みたいにあくびをしながら、萬里は頭をかく。顔色はいいようで、それはよかった。
行き倒れの隣人を電車で救出してから、数週間が経っていた。
「ネコさんの通知音で起きた……」
「はからずも寝起き配信をしてしまったってわけね。大丈夫? 食べられる?」
「うん。おなかすいた」
あ、寝起きでジャンク食べられるタイプだ、と寧子は思って、
「飲み物なにがいい?」
と聞いた。
「なんでもいい。余ってるのみんなもらってもいいよ。あ、でも炭酸ある?」
「あるある。よかったら飲んで」
萬里が避難壁の隣に椅子を引き寄せて、そのまま食べ始めたので、あ、そういう感じ? と寧子は自分も台所の踏み台を持ってきて軽く腰をかけた。
ベランダでの青空ランチは少しピクニックめいて、気持ちがあがる。
「バンリくん、ちゃんと食べてるー?」
「食べてます。今まさに」
「え、これ全部食べるの?」
渡したのは種類違いとはいえ、ハンバーガーが三つにポテトがひとつだ。
「だってバーガーって、ひとつじゃ足りない」
若いぜ、男子高校生。
寧子は素直に感心をしてしまう。
渡したたべものをもりもりとたくさん食べられるのは、小気味がよかった。
「ねーまた買ったら食べてくれる?」
「まだ買うんですか」
「黒メリさん出てないんだもーん」
「フリマサイトにもう出てますよ」
「ぜったいかわねー」
出るまでチャレンジしつづけるのだ。
食べてくれるスタッフがいるなら、課金のしがいもあるというものだ。
なかよし。この章も短めですので早めに2話がきます。




