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アンチコメント・ラブソング  作者: 瀧ことは
M05 炎上ゲーム配信者、電車で急病人を助ける

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12/17

M05《2》「いいな……欲しいな、ネネさん、うちに来てくれないかな……」

 腕を掴むようにして、寧子は萬里を連れ出すと、ひとまずホームの椅子に座らせた。


「大丈夫? ほんとに誰か呼ばなくていいの?」


 電車をおりて安心したのか、萬里は少しだけ呼吸を深くして、目を強くつむったままで言った。


「……過呼吸。人ごみちょっと、苦手……」


 でも、しなないから。大丈夫、と萬里が言う。

 まあなんて、信用のおけない「大丈夫」だろうと寧子は思いながら、首を回すと近くの自販機で水を買ってきた。


「はい。飲めたら」


 萬里の頬につけるとその冷たさが気持ちよかったのか、水をあてたままで、少しだけ笑った、ような気がした。寝言のようにかすれた声で、言う。


「ネネさんって、かっこいーね」

「は?」

「強くて……番犬みたいだ……」

「いや、ひとのこと犬にしないでくれる!?」


 思わず、急病人相手なのにつっこんでしまった。

 萬里は斜めになっていた身体を起こすと、ひっぱるように寧子の手首を引いて、隣に座らせた。

「!」

 突然のことに寧子は驚きこそしたが、それより冷たい指先が気になった。水に冷やされた、というだけでもないのだろう。

 萬里はまだ目を閉じたままで、まだかすれた声で言った。


「ネネさん、なんか喋って……」

「え、なんかってなに? 名前とか呼んだらいいの? 年齢とか聞く!?」

「そんなに切羽詰まってない……雑談配信、聞きたい」

「はあ? お題もないのに話せないよ。なんかないの、そっちが」

「お題、お題か……」

「うん。ちゃんと、コメントで投げてきて」


 寧子の命令にくつくつと喉の奥で笑うようにして、目を閉じたまま、お悩み相談の口調で萬里が喋り始める。


 十七才、高校三年生です。

 人混みが苦手です。

 中学校の時に、そのせいで学校いけなくなっちゃって。

 今は通信、たまに登校すればいいから、なんとかなってんだけど。

 疲れてたり、寝てないとまだ、たまに発作が出ちゃって、全然ダメです。


「は? 寝な!?」


 つらつらと離す萬里に、寧子は思わず強い口調で言っていた。


「まず寝なよ! それからだよ、あとちゃんと食べな!」


 ぐ、と萬里の手首をつかむ。節ばったそれは、骨と皮だけとは言わないが、片手でぐるりとまわせてしまうくらい細い。


「若者、こんな細くてどーすんの、全然食べてないんじゃない!? エナドリもほどほどにしないと心臓によくないって言うよ!」


 思わずオカンになってしまった。

 ふふ、とまた萬里が笑った。

 手の中で、脈がうつ。

 冷たい手が、ゆっくりと熱を戻していく。


「いいな……欲しいな、ネネさん、うちに来てくれないかな……」

「あのね、もういるから! 隣に!」


 含み笑いが重ねて聞こえる。


「いるかー……隣に……」


 お得だね……と言いながら、萬里が寧子に、肩を借りた。黒い頭が、肩に軽く体重をかけてくる。

 野良猫がなついてくるような、変にいじらしい仕草が、嫌ではなかった。

 されるがままに寧子がなっていると、萬里の口元が小さく声をあげる。

「?」

 なにかを伝えようとしているのかと寧子が思って耳を澄ますが、どうやらそうではないらしく。

 口ずさんでいる、のは。


「なんの歌?」


 寧子が聞く。メロディ、だと思った。ラ、ともタ、ともつかない、言葉にならない歌の。


「なんの歌かなあ……」


 萬里が答える。でも、まるで寝言みたいに、うやむやとして。


「わかんない」

「わかんないの」


 うん、と小さな子供みたいに萬里が言う。


「ごめんね、ネネさん。もうちょっとだけ、こうしてて……」


 別にいいけど。


 萬里の口元が、何度も、何度も同じメロディをなぞる。


 いい、曲だな、と、あまり思ったことのないことを、寧子は思っていた。

 言わなかったけれど。



──♪

  ♪♪

M05 炎上ゲーム配信者、電車で急病人を助ける

でした!

ブクマ・評価・反応ありがとうございます!

少しずつ近づいていくふたりのきょり……というやつです。

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