第08話 EP02-03 レサリアにリベンジマッチ
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
畳敷きの道場の真ん中に立つ。
格闘技系の授業やクラブで使う、学校の設備である。広い畳敷きで、板壁に囲まれ、天井も板張り、瓦屋根を掲げる。古めかしい和風の建物、ってヤツである。
オレの名は『新実 健二』。『内地』では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子だ。
今日は夏休みの二回目の登校日。中学校の制服、半袖のワイシャツに黒のスラックスである。
相対するは、『レサリア レッドローズ』。赤髪ロング縦巻きロールで、小柄で体が上から下まで細くて、自信家で高慢な御嬢様って顔をした、赤い制服の女子だ。
前回はボロ負けだったが、問題ない。
こっちは、前回から一人増えて、三人になった。
まずはオマケのオレ。オレ居なくてよくない?
一人は主力、聖高潔騎士団所属の軍人『鴉羽 梨華』。黒髪のボーイッシュなショートヘアで、意識高そうな、大人びた感じの女子だ。
もう一人は新規加入の期待の新戦力、最強の騎士団の一つゲシュペンスト騎士団のマスコット的存在『美月 ゲシュペンスト』。体は華奢で、肩までくらいの長さのピンク髪で、年相応に可愛くも、芯の強そうな凛々しい顔立ちの女子だ。
敗北から毎日、特訓を積みあげた。この三人なら、必ずや勝てる、はず、きっと、たぶん、もしかしたら。
ちなみに、鴉羽と美月は、中学校の制服、白の半袖ブラウスに黒のプリーツスカートである。学校指定の標準カラーである。
「勝たせてもらうぞ、レッドローズ!」
鴉羽がボーイッシュな声で、レサリアに宣戦布告した。
◇
オレは畳に仰向いて、板張りの天井を見あげる。
鴉羽と美月も、絶望に光を失った瞳で、畳に横たわる。
「鴉羽 梨華さんと新実君は、前回よりも格段に良くなっていらっしゃいましてよ。美月さんも、ワタクシのライバルだけありまして、なかなかでしたわ」
レサリアが満足げに高笑う。
勝って上機嫌とかじゃなくて、手合わせが純粋に楽しかったのだろう。レサリアって、そういう純粋な御嬢様だ。
「皆様の努力への御褒美に、素敵な情報を教えてさしあげましょうかしら。ロゼリア伯母様の二つ名『難攻不落』は、赤薔薇騎士団の堅守を表す言葉のように呼ばれますけれど。真実は、ロゼリア伯母様が御見合いを悉く失敗し続けていらっしゃいますことに起因いたしますのよ」
レサリアが誇らしげに、無い胸を張った。
……どうでもいい情報だった。オレは早く帰ってオンゲがしたい。
◇
「反省会をするぞ!」
鴉羽が、ドーナツを片手に力強く提案した。ストロベリーチョコがけの甘そうなヤツだ。
オレと美月と鴉羽で、学校近くのドーナツ屋に来ている。焦げ茶色のレンガ造り風の大きな店舗である。
昼前で空いてるし、木陰を楽しめる大通り沿いのテラス席で、並ぶ白い丸テーブルの一つに陣取る。一本足の白い丸イスに座って、イスの脚が長くて、地面に届かない足をブラブラと動かす。
鴉羽が奢ってくれると言うから、誘惑に負けて付いてきてしまった。オレは、美月が嬉しそうだったから、いいんだけど。
「反省会も何も……」
自分のプラ皿の、茶色一色に積まれたドーナツを眺める。ドリンクの紅茶も茶色で、我ながら地味な選択である。
「敗因は何だ?、新実」
敗因っても、作戦に問題は無かった。
手順1:オレと鴉羽がレサリアの前に、美月は立会人を装ってレサリアの横に立つ。
手順2:手合わせ開始直後、オレがレサリアに投げられる。
手順3:そのオレを遮蔽物として、鴉羽がレサリアを掴みにいく。
手順4:レサリアが鴉羽に集中するタイミングを狙って、立会人を装う美月が死角からレサリアにタックルする。
手順5:美月のタックルで体勢を崩したレサリアに、鴉羽が投げを決める。
繰り返すが、作戦に問題は無かった。
目論みが外れたのは、手順5だ。
手順4の『美月がタックル』までは成功した。少なくとも見た目は成功していた。
手順5で、レサリアが体勢を崩さなかった。どころか、微動だにしなかった。むしろ、タックルした美月の方が、驚いた顔で尻餅をついたくらいだ。
結果、ほぼ一対一でレサリアと組み合う形になった鴉羽が、投げられて宙を舞った。
一発勝負の不意討ちが通じなくて、その先は、真っ向勝負で勝てるわけもなく、三人ともレサリアに投げられまくった。
ということは、敗因は……
「……オレは、総合的な戦力不足だと思うぜ」
オレは真顔で結論した。
「同意。あれで勝てなければ、今のジブンたちに勝ち目はない」
鴉羽も真顔で同意した。
毎日顔を合わせて分かったことがある。
鴉羽の本質は騎士だ。『ジブンは軍人』と宣っていたけど、騎士の家に産まれて騎士に育てられた天然物。信念の髄が真っ直ぐで真面目な、騎士のソレだ。
オレは、軍人は嫌いだけど、騎士は嫌いじゃない。嫌いじゃない騎士が、何人もいる。
◇
「で、どうするんだ、鴉羽さん? また特訓か?」
「残念だが、『外地』に戻らねばならん。内地の中学生ごっこは終わりだ」
鴉羽が不服そうに、手にするドーナツを齧る。口を動かし呑み込んで、チラとオレを見る。
「……どうせ、知らぬ存ぜぬで通すのだろう? 『新実 健二心剣士はユーナ王女の行方を知らない』と上には報告しておいてやる」
鴉羽の本質は騎士だ。
「鴉羽さん……」
美月がキラキラと輝く瞳で、鴉羽の手を握った。
「何だ、ゲシュペンスト? このドーナツなら、右端のショーケースの下段にあったぞ? ジブンの奢りだ、好きなだけ食べてくれ」
鴉羽が困惑顔で美月を見返した。
「……うん」
美月が席を立って、少し寂しげに、店内に入っていく。
分かる。『クラスメートの女友達』ができると思った矢先に、また可能性が潰えてしまう。
あとで、オレの方から慰めておこう。
美月を見送って、また鴉羽がチラとオレを見る。
「一応言っておくが、大人の騎士たちも、ユーナ王女の職務放棄を糾弾するつもりは無いらしいぞ。この一年間、ユーナ王女が何をしていたのか、全く把握していないわけでもない」
次のドーナツを手に取った。今度は、ホワイトチョコがけの甘そうなヤツだ。甘いものが好きなのだろう。
「魔界に近い外地の外端、軍も見捨てた管理外地域で、未登録集落を脅かす魔物を討伐する一団の噂があった。金属鎧の重装備集団を率いる、灰銀色の長い髪に白いドレスの少女。人々に、『灰銀の魔女』と呼ばれていたそうだ」
「…………………………………………っっっっっ!?!!?!??!?!!」
オレの感性に、凄まじい衝撃が走った!!!!! 全身が小刻みに、ブルブルと激しく震えた。
灰銀の魔女?!?!!?!!!
カッッッッッッッッッッッッッッッッッッコイイッッッッッ!!!!!
格好好い! 誰だ、『コンブ』に決めたヤツは?! あ、ユーナ王女様御本人様だから、いいのか。
……次に謁見が叶ったときに偽名の変更を提案してみよう、とオレは心に決めた。
心剣士と灰銀の魔女
第08話 EP02-03 からの反省会/END
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