第05話 EP01-03 ユーナベルムの騎士
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
薄暗い天幕の中、粗末な木のテーブルを四人で囲む。
オレとレオンとユーナベルムの騎士が立って、コンブは粗末な木のイスに座る。
コンブは、ユーナベルム王国の王女ユーナの偽名である。ユーナは、諸事情で軍の上層部に追われている。
オレは『新実 健二』。中二男子で『心剣士』だ。
夏休みに中学校の制服、半袖のワイシャツに黒のスラックスに黒のスニーカーのオレと。灰銀の髪が昆布のようにウネって頭の全面を覆い、煌びやかながら清らかなフリルやレースで飾られた白いドレスを着て、細い手と細い指には白いレースの手袋を嵌めたコンブと。騎士然とした全身金板鎧を纏ったレオンやユーナベルムの騎士と。
場にも人にも、ちぐはぐで纏まりのない組み合わせである。
木のテーブルに魔物の角を並べて、レオンが報告する。
「今回の作戦の戦果だ」
二股の角が二本と、一本角が二十本ある。
「魔物の残存がないか、数日は捜索を続ける。しかし、作戦は成功した、として問題ないだろう」
「素晴らしいですわ」
コンブが笑顔で拍手した。御尊顔は見えずとも、眩いほどの優雅さだ。
ユーナベルムの騎士が仰々しく畏まる。壮年の、レオンに負けず劣らず体格のいい男で、紋章の入った立派な鎧を着て、件の騎士団長経験者って人だと思う。
「畏れ入ります、ユーナ王女様。これも、レオン殿と心剣士殿の御力あればこそ、です」
「そっ、そのような。買い被りです。ユーナベルムの方々の御助力あればこそです」
レオンが照れたように困ったように、慣れない口調で訂正した。
「御謙遜を。御二人が申し出てくださらねば、我々は正規の戦場に立つことも出来なかったのである」
ユーナベルムの騎士が、さらに訂正した。
コンブが、くすくすと微笑ましげに笑う。
高貴な美少女のブリリアントな笑顔が目に浮かぶようだった。髪に隠れてなかったら、直視してしまっていたら、オレは興奮して卒倒不可避だったぞ!
◇
「そうですわ! それでしたら、感謝の贈り物をするのはいかがでしょうか!?」
コンブが、閃いたとばかりに、白いレースの手袋の両掌を叩き合わせた。パンッ、と高く軽快に鳴った。
「素晴らしい御提案に御座います、ユーナ王女様」
ユーナベルムの騎士が、仰々しく賛同した。
「そそそんなっ! 御言葉だけでも勿体ないっすよ!」
思わず動揺するオレに構わず、コンブが何かを取り出す。それを白いレースの手袋で差し出す。
「今差しあげられるものは、これしかありませんが。よろしければ、お受け取りいただけますかしら?」
……花をモチーフにした髪飾り、か?
「えっ!? で、でも、ユーナベルム王家に代々受け継がれる、みたいな大事なものなんじゃないっすか?」
「いいえ。城下のお店で、どなたでも買えますような、普通の品ですわ」
コンブが微笑で答えた。
それなら、頂いても問題ないか? ちょっと嬉しい。……否!!!、途轍もなく嬉しい!!!
「あっ、有難く頂くっす」
オレは全力で跪いて畏まって、両手で恭しく受け取った。
家に帰ったら神棚に飾ろう。末代までの家宝にしよう。
◇
とはいえ、堅苦しいのは性に合わない。オレは立ちあがって、いつもの軽い調子で話を進める。
「この戦果なら、レオンさんの隊の評価もあがるっすかね?」
「もちろんだ。本来ならば、自分の隊の戦力で達成できる作戦ではない。それを短期間、ほとんど被害なくとなれば、報告書を見た上層部も一目置くだろう」
「それじゃぁ、そっちはレオンさんにお任せするっす。大きな戦場に誘ってもらえるように、隊の評価を可能な限り上げておいてくださいっす」
「任せてくれ。ユーナベルムの方々の御協力があれば、難しくはない。頼りきりになってしまうのは心苦しいがな」
「不要な心遣いである。我々こそ、縁も所縁もない貴公らに無理を願い、申し訳なく思う」
「それこそ、不要な心遣いっす。オレがオレの正義に従うのは、当たり前っす」
オレは格好つけて、キメ顔で笑んだ。
応えて、ユーナベルムの騎士もレオンも、クールに微笑する。
「……ふっ。そうであるな」
三人、拳と金属籠手と金属籠手を打ち合わせた。オレだけ素手で、ちょっと痛かった。
◇
コンブがニコやかな微笑みで手を振る。
「それでは皆様、ごきげんよう」
ユーナベルムの騎士が畏まる。
「失礼いたします、ユーナ王女様」
オレも、緩んだ笑顔で手を振り返す。
「ごきげんようっす!」
天幕の垂れた布一枚が下ろされて、オレたちは天幕に背を向けた。今のやり取りを頭の中で反芻し噛みしめながら、歩き出した。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………好いっっっっっ!!!!!
王女様のいらっしゃる生活! 好い! 興奮に胸がドキドキしてる!
ユーナベルムの若い騎士が一人、小走りで近づいてくる。ユーナベルムの鎧は装飾のパーツが多くゴテゴテしていて、分かりやすい。
その姿に、並び歩く壮年のユーナベルム騎士が口を開く。
「御二人に、共有しておくべき情報がある」
若い騎士が、余韻に浸るオレの前に足をとめた。手にした円盾を差し出した。
……円盾? 分厚い鋼板が、獣に食い千切られたみたいな歯形で割れてる。円形だったものが、半月か三日月か、くらいの形状になってる。
当然ながら、分厚い鋼板は獣が食い千切れる素材ではない。これを何かがやったのなら、魔物、しかも三つ角以上だろう。
少し間を置いて、壮年のユーナベルム騎士が話し始める。
「ユーナ王女様は、魔物との戦闘の際に一瞬、理性を御失いあそばされることがある。ある種の興奮状態、敵味方の区別を忘れ、飢えた野獣のように、本能のままに獲物を探す、とでも表現すべきか」
唐突に、不穏な話だ。
「これまでも度々、あった。ほんの一瞬、飢えた目で周囲を見まわす、程度ではあるが」
不穏だけど、全然許容範囲内だな。アーティファクトと合体なんて意味不明な事態だ、それ以上に驚くほどでもないし。まだまだギャップ萌えの範疇だ。
壮年のユーナベルム騎士が、やや表情を暗くする。
「しかしながら、本日の作戦行動中に、ついに近くの騎士を襲うに至ってしまった。我々も実戦経験を積みしユーナベルムの騎士なれば、盾一枚の損傷で凌いだのであるが」
あー、いや、やっぱり不穏な話だ。じゃぁ、分厚い鋼板の円盾を食い千切ったのは、ユーナ王女様ってことだ。
「今のユーナ王女様は、三つ角すら容易く御屠りあそばされる。並の人間では、一溜まりもないのである」
…………………………………………………………不穏だけど、全然許容範囲内だな? まだまだ、王女様のいらっしゃる生活の幸福度の方が上回る。
オレは、襲われても、どうにかできるし。情報さえあれば適切な武器の準備が可能、って柔軟性も『心剣士』の強みである。
「了解っす。味方のフォローも含めて対策を考えておくっす」
オレは自信半分格好つけ半分くらいで答えた。
「情報の共有に感謝します。隊の皆にも、作戦中の注意点として周知しておきます」
レオンも、慣れない丁寧な口調で答えた。
ユーナベルム騎士二人が、揃って深々と頭をさげる。
「協力を断られても仕方のないリスクである。にも拘わらず、心剣士殿、レオン殿、隊の方々には、重ね重ね感謝する」
「頭をあげてください。自分も隊の皆も、新実 健二『心剣士』殿の真似になってしまいますが、自身が正しいと信じることのために戦っております」
「そうっすよ。その程度の覚悟、戦場に出るからには出来てるっすよ」
オレは、拳を握って、前に突き出した。
レオンが勇快に微笑して、握った金属籠手を突き出した。
壮年のユーナベルム騎士も若いユーナベルム騎士も、握った金属籠手を突き出して、四人で拳と金属籠手と金属籠手と金属籠手を突き合わせた。
こういう頼もしい仲間の関係ってヤツも悪くないな、と、好いもんだな、と思った。それはそれとして、オレだけ素手で、ちょっと痛かった。
心剣士と灰銀の魔女
第05話 EP01-03 ユーナベルムの騎士/END
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでくれる人がいると、書く励みになります。




