オレの名は『新実 健二』。内地では、ごく普通の中二男子。外地なら、少女が武器に残した強い記憶で戦う魔法使い『心剣士』だ。
今日は外地の小さな戦場で、バイト傭兵として討伐作戦に参加する。夏休みだけど、他に適切な服も持ってないし、中学校の制服、半袖のワイシャツに黒のスラックスに黒のスニーカーである。
◇
「それでは、今回の作戦概要を説明させてもらう」
レオンが、粗末な木のテーブルに地図を広げた。いかにも外地的な、雑な測量に手書きの地図だ。
レオンは、オレの今回の雇い主で、小さな騎士隊のリーダーである。
いかにも前線の騎士っぽい、無精髭でボサボサ金髪の、オレの親より年下であろう若めのオッサンだ。体格がいいし、顔に大小の傷痕があって、全身金板鎧を纏い、大剣を背負って、戦場で叩きあげてきた感じだ。
オレもユーナ王女も、地図を覗き込む。
小さな村が複数ある。森があって、丘がある。その丘に、この前線基地がある。
「討伐対象は、この森に巣食う魔物の群れだ。二つ角が二体、一つ角が約ニ十体、確認されている」
魔物の頭には、角がある。一本の根元から一本の角が伸びる一つ角から、一本の根元から角が六股に分かれた六つ角までいる。角の分かれが多いほど強い。
一つ角ですら、人間より強い。訓練を積んで武装した人間が数人掛かりで互角。
二つ角は、並の人間じゃぁ太刀打ちできない。討伐には、強い魔法使いと、その護衛の兵が必要だ。
「近隣の村には放棄も視野に入れた避難を勧告したが、農作物の収穫を目の前にして避難も受け入れられない、と断られた」
基本的に、『内地』の高い税金を払えない人たちが『外地』に住む。金銭的な余裕なんてなくて、文明の利器の動かない『外地』での過酷な農業に従事して、挙句に収穫の放棄なんて許容できるわけがないよなあ、と中学生のオレでも察する。
「以上を踏まえ、隊を二つに分けての、森林内での魔物の捜索および討伐を実行する」
レオンがゴツい金属籠手で、地図の中央にある森を指さした。
◇
敵が二部隊だから、こっちも二部隊。シンプルで堅実な作戦だ。
隊が森に入るのは、敢えて襲いやすい状況にして魔物を誘き寄せるため。
森の外で待つ作戦だと、魔物が警戒して、姿を見せるまで時間がかかる。魔物が隊を無視して近隣の村を襲撃する危険性も高い。
村の人たちが避難しないなら、敵地に飛び込んでの短期決戦一択しかない。
隊を二つに分けるのは、魔物の群れも二部隊分。『二つ角一体+一つ角十体』が一部隊分として、それが二組いる、と推測されるから。
当然ながら、こっちは隊を分けず人数が多い方が安全だけど。こっちの全戦力が敵の一部隊と交戦してる間にフリーな方の敵部隊が村を襲撃、なんてなったら被害甚大だ。
魔物側が二部隊で別行動しても、隊側も二部隊で別々に動けば対処できる。
でも、まぁ、問題がないわけじゃない。
最悪の場合、二つ角二体と一つ角ニ十体を、こっちは『二つに分けた片方の部隊=戦力の半分』で対処しないといけない。対処できる戦力が二部隊は必要、ってことでもある。
「それだと、二つ角二体と一つ角ニ十体を殲滅できる戦力が、二組は必要っすよね?」
オレは直球で聞いた。
大雑把に考えて。『強い魔法使い部隊+騎士兵士五十人』が二組。=『強い魔法使い部隊が二組+騎士兵士百人』が最低ラインか。
でも、レオンの隊は、魔法使いは外部の傭兵頼み、騎士兵士だって五十名くらいだと推測する。
「さすが新実 健二『心剣士』殿、御明察だ。敵の規模が小さいゆえに、大きな隊を運用できる予算は付かない。にも拘わらず、小さな隊で対処するには状況が厳しい、困難な戦場だ」
作戦の説明を続けるレオンが、オレとユーナ王女を見て微笑する。
「普段の戦力であれば、討伐に名乗りをあげようとすら思わなかっただろう。されど、幸運にも現在、自分の隊には新実 健二『心剣士』殿と、……ユーナベルムの王女様が率いる騎士たちがいらっしゃる」
ちょっと躊躇って、ぎこちなく、不慣れな言葉遣いだった。
◇
「コンブさん、とお呼びください」
ユーナ王女が、いや、コンブが楽しげに訂正した。
「オレも『新実』でいいっす」
オレも便乗した。
「……善処させていただきます」
レオンが渋々と畏まった。
コンブは、ユーナベルム王国のユーナ王女である。
色々あって、軍の上層部から逃げ隠れる身である。隠匿先のレオン隊や協力者のオレに迷惑がかからないようにと、偽名の『コンブ』を名乗る。
灰色に近い長い銀髪が、昆布のようにウネって頭の全面を覆う、高校生くらいの美少女である。煌びやかながら清らかな、フリルやレースで飾られた白いドレスを着る。細い手と細い指には、白いレースの手袋を嵌める。
必要条件の一つ、『二つ角の魔物二体を討てる強い魔法使いが二組み』、は満たせる。『心剣士』のオレと、ユーナベルムの英雄ユ……コンブがいる。
必要条件のもう一つは、『一つ角の魔物ニ十体を包囲殲滅できるだけの騎士兵士隊が二部隊』である。個人の練度と集団の統率が高い五十人×二部隊は欲しい。
「ユーナベルムの騎士さんたちって、どんな感じっすか?」
「一万を率いた騎士団長経験者がいらっしゃる。千を率いた団長クラスも数名、隊長クラスは十数名。今回……コンブさんに同行しているだけでも五十名だ」
ユーナベルム王国は、城塞を餌に魔物を誘き寄せて狩るような強国だった。そこの騎士団は、実戦慣れした猛者揃いに違いない。
「そりゃ怖いっすね」
「作戦の説明の度に、ダメ出しされないかと戦々恐々だ」
騎士団未満の小さな隊のリーダーが騎士団長クラスの騎士集団相手にプレゼンって、完全に罰ゲームだ。
「でも、頼もしいっすね」
「うむ。心強い限りだな」
レオンが、異論は無い、とばかりに深く頷いた。
ユーナベルム隊の戦力は十分だ。実力を疑う方が難しい。
レオン隊も戦場で叩きあげてきた実戦派だから、信用していいだろう。いざとなれば、オレがフォローすればいいし。
「編成は、新実殿と自分の隊五十名、……コンブさんとユーナベルム隊五十名、の二部隊編成とする」
「その作戦でオッケーっす。オレも異論は無いっす」
オレも気楽に頷いた。
コンブも、何の話か分かってないキョトンとした雰囲気で頷いた。
心剣士と灰銀の魔女
第03話 EP01-01 小規模討伐作戦/END