第02話 EP00-02 ユーナ王女は死にました
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
ユーナ王女は、ユーナベルム王国の王女である。
王制ではなく民主制の世の中だけど、複数の町を内包するような大城塞は、『王国』とも呼称される。そこの最高責任者が、『外地』での軍の治外法権と相俟って、『王』と呼ばれる。
要するに、『大城塞ユーナベルムの最高責任者の娘』、ってことだな。それよりは、『ユーナベルム王国の王女』の方が夢があってキラキラしてて響きも好い。
残念ながら、ユーナベルムは魔物の軍勢に襲撃されて、一年前に陥落した。今は魔物が巣食う廃墟で、激戦地の一つ、『ユーナベルム戦場』だ。
その魔物の軍勢の大将を討ったのが、ユーナ王女である。魔物側の最高戦力『魔将軍』の、四体のうちの一体を討伐した、百年に一度の奇跡を起こした、英雄である。
といった人物背景を心して、御尊顔を拝謁してほしい。
◇
薄暗い天幕の中、粗末な木のテーブルを前に、粗末な木のイスに座って、ユーナ王女がいた。
顔を隠す灰銀色の長い髪と白いドレスで分かりにくいけど、高校生くらいの美少女である。
オレは恐縮する。
「そんな、畏れ多いっす。新実って、呼び捨てでお願いするっす」
そして卑しい下賤者を見る目で吐き捨てるように罵ってほしい、もとい。
「でしたら、新実様、と。わたくしも、王女様、と誰かに聞かれては困りますわね。ユーナの名も、聞かれては困りますかしら」
ユーナ王女が、楽しげに、くすくすと笑った。
◇
一週間前のことだ。ユーナ王女は、オレが検査入院してた軍病院で、軍に拘束されそうになった。
表向きは、『ユーナベルム王国の陥落から一年間の行方不明と管理責任放棄の理由の説明を求める』だった。
それは分かる。実際に、ユーナ王女は立場上、ユーナベルムの最高責任者である。それが一年間も姿を晦ましていたのも相違ない。
交渉役として、ユーナ王女と歳が近い同性だから選ばれたのだろう、中学生くらいの女子もいた。黒髪のボーイッシュなショートヘアで、軍服の、意識高そうな、大人びた感じだった。
でも、重装金属鎧に帯剣した騎士を四人も同伴していた。交渉で済ます気はないと、ピリピリした雰囲気で明白だった。
とはいえ、ユーナ王女が大人しく軍に同行するなら、オレが出しゃばる幕でもない。と思った。
次の瞬間、ユーナ王女が一瞬の迷いもなく、窓から逃走を図った。
オレは、ユーナ王女を追おうとした騎士たちを妨害せざるを得なかったのだ。不可抗力だったのだ。
そもそもオレは、超強力な魔法品、通称『アーティファクト』、その最高ランクの一本『滅魔の剣』の攻撃に巻き込まれたせいで、検査入院することになった。その相談ができそうな人として、美月がユーナ王女を連れてきてくれた。
ユーナ王女は、同じく最高ランクのアーティファクトの一本、ユーナベルム王国の伝家の宝剣の使い手である。
ユーナベルムの生き残りを率いて『魔城の前庭』に援軍に来てくれた恩人でもある。
その状況で、嫌がるユーナ王女が軍に拘束されるのを黙って見てるとか、恩人を罠にかけて軍に売り渡したも同然だ。恥を知れってヤツだ。
オレは当然、窓の前に立ち塞がった。美月も一緒に立ち塞がって、そんな感じの説明を騎士たちにしていた。
ちなみに、美月はオレのクラスメートの美少女で軍人だ。オレの命の恩人で心の友でもあるのだ。高名な騎士団の長の養女でもあるから、力尽くは気が引けるようで、騎士たちが対応に困っていた。
◇
要するに、今現在、ユーナ王女は軍に追われる身だ。
「それは、そうっすね。匿ってくれてるレオンさんたちにも迷惑がかかっちゃうっすから」
オレは恐縮して同意した。
「自分たちの心配は無用だ。上層部から情報すら来ていないからな。知らなかった、で済む」
レオンが泰然と答えた。
ユーナ王女の隠匿を相談したときも迷いなく立候補してくれたけど、オレとしては助かったけど、豪胆なのか楽観的なのか判断に迷う人だ。
ってことは、ユーナ王女の生存は、末端の小さな隊までは周知されていない感じか。上層部が情報を止めてるんだろうか。
かといって、知らぬ存ぜぬで済むとは限らない。表向きは御咎めなしでも、出世の道が断たれたり、戦場で事故を装って消されたりするかも知れない。それは申し訳ない。
「偽名で呼ばせていただくっすか? どんなのがご希望っすか?」
オレは、腕組んで、眉間に皺を寄せて、思考をフル回転させて、真剣に考える。
「どのような呼び名が、よろしいでしょうか?」
ユーナ王女が楽しげな声音で、一緒に考える。
一国の王女様の呼び名だ。半端は許されない。こう、エレガントで、ビューティホゥで、ブリリアントで、至高で、究極の
「……そう、……例えば、ホワイト……フリージ……イノセン……」
「そうですわ!」
ユーナ王女が、閃いたとばかりに、白いレースの手袋の両掌を叩き合わせた。パンッ、と高く軽快に鳴った。
オレは、ドキッ?!、と胸が高鳴った。王女様のキラキラした笑顔が目に浮かぶようだった。髪に隠れてなかったら、直視してしまっていたら、オレは興奮して卒倒不可避だったぞ、これは!!!
「コンブ、は如何ですかしら? ときどき、そのようにお呼びいただきますし」
美しい声も、楽しげに弾んでいた。
……っ!?
オレは、顔に出さないように動揺する。
王女なのに昆布呼ばわりされて、いじわるや皮肉で返した、ではない。ユーナ王女は本心で、純粋な気持ちで提案したのだ。結構、気に入ってるのだろう。
でも、だからって、『コンブ』? いいのか?、許されるのか? 一国の王女様を、いくらなんでも『コンブ』呼びはちょっと……
「……い、いいっすね。じゃ、じゃぁ、『コンブ様』って、呼ばせていただくっす」
オレは、迷いの震え声で快諾した。普通の中学生男子が、王女様の無垢な願いを拒否れるわけもなく。
「親しい仲になれましたようで、素敵な響きですわ。でしたら、『様』は堅苦しくありませんこと?」
「……じゃ、じゃぁ、『コンブさん』、で」
オレは、もうどうにでもなぁ~れ!、の震え声で快諾した。
「いや、しかし、ユーナベルムの王女様を『コンブさん』呼びは、少々気が引けないか?」
レオンが思案顔で、常識的な意見を提示した。
そう、それ! 名前を呼ぶときに毎回、ちょっと躊躇って、ぎこちなくなる自信がある!
「お気遣いは無用ですわ」
ユーナ王女が、白いレースの手袋を嵌めた細い手を、髪に隠れた顔の前に掲げる。
「ユーナベルム王国の王女ユーナは、死んだのですから」
その手が、灰銀色の、無数の粒子となって拡散した。無数の粒子は再び集まり、白いレースの手袋を嵌めた細い手になった。
「……っっっ???!!!」
何度見てもビックリする。隣のレオンも、何度か見てるのに一緒にビックリしてる。
アーティファクトを認識できる魔法使い『アーティファクトシーカー』の美月曰く、ユーナ王女はアーティファクトになった。一年前の戦いで、何が何だか分からないけど、ユーナ王女と伝家の宝剣が合体してしまったようなのだ。
そんな事象が現実に起きるなんて、聞いたことない。聖剣となった騎士、守り神に身を捧げた巫女、非道を重ねた果てに魔像に呑まれた暗君。どれもこれも、ファンタジーな物語の中だけの存在だ。
もう本当に何が何だか分からないけど、ユーナ王女が一年間も姿を晦ましていた理由も、軍から逃げる理由も、察するに十分だった。
何が何だか分からないけど、ユーナ王女を軍に任せてはいけないのだけは確かだと、オレにも分かった。
心剣士と灰銀の魔女
第02話 EP00-02 ユーナ王女は死にました/END
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