第01話 EP00-01 王女の帰還
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
人間は遠い昔から、魔物と戦い続けている。
魔物とは、人間を殺そうとする、人間とは異なる姿形のモンスターだ。
魔物は、人間の生活圏を囲む闇『魔界』から侵略してくる。
魔物と人間が争う範囲を『外地』と呼ぶ。
外地より内側の、人間の安全生活圏を『内地』と呼ぶ。
ドーナツで例えるなら、ドーナツの穴が『内地』、ドーナツが『外地』、ドーナツの外側が『魔界』である。
◇
「外地前行き~。外地前行き~」
家の近くのバス停から、外地行のバスに乗る。
終点で降りるから、最後尾の窓際の席に座る。ガラス越しに夏の日差しが、ちょっと暑い。
イヤホンを付けて、スマホで音楽を聞く。流行りのアニソンが多い。
古ぼけてボロいバスが、荒いエンジン音で走り出す。
オレの名は『新実 健二』。内地では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子だ。
外地なら、少女が武器に残した強い記憶で戦う魔法使い『心剣士』である。数ある魔法の中でも、かなり強いらしい。
内地で、退屈な日常を過ごす。ときどき外地に行って、バイト感覚で魔物を狩る。
今日は外地で、小さな戦場の討伐作戦に参加する予定だ。
ちょっとソワソワと落ち着かない。夏休みに中学校の制服、半袖のワイシャツに黒のスラックスに黒のスニーカーで、襟が曲がってないか気にして整える。
ソワソワと窓の外を眺める。
内地の中央の方向に、白くキレイなビル街の景色が見える。オレの家のあるこの辺りは、マンションや民家の閑静な風景が広がる。
道路は、商店街の通りなら交通量も多い。離れるに連れ徐々に減って、いつの間にか車もバイクも見なくなる。
ついには景色が、灰色に荒れたスラム街になる。それは内地の際まで続くらしい。
整備されたアスファルトの道も凸凹の土になって、バスがガタゴトと揺れる。道沿いの林からは、セミの声が鳴り響く。
スマホが動かなくなって、イヤホンを外して、学生カバンに突っ込む。
外地が近い。この辺りは、もう電子機器は動かない。
外地は、車も動かない。
「終~点~。外地~前~。外地~前~」
内地の終点でバスを降りる。馬車に乗り換えて、目当ての前線基地を目指す。
石畳の街道を、二頭引きの幌馬車に揺られて進む。ガッタンゴットンと、バスよりも酷く揺れる。冗談抜きで、喋ると舌を噛むから、誰も一言も発さない。
皆無言で声はないけど、オレと同じく報酬目当ての、鋼の武器や金属鎧で武装した大人たちが十人ほど、ギュウギュウ詰めで同乗してる。ガチャガチャ煩いし汗臭いし息苦しい。
まぁ、今のオレには大したことじゃない。
オレはソワソワと、外を眺める。文明から隔絶された農村や田園の、気が滅入るような、寂れた風景が広がる。
しばしの我慢で馬車に揺られて、前線基地に着いた。馬車を急いで降りて、小走りで離れて、白い雲の塊が浮かぶ夏の青空の下に深呼吸した。
高らかに歓喜を叫びたいほどに、爽快な気分だった。
◇
まずは、戦場を確認しよう。
前線基地の立地は、見晴らしのいい高台の更地だ。
基地とはいっても小規模な隊で、土色の天幕だけが十ほど並ぶ。
そこから坂を下った先に、草原を挟んで大きな森がある。
相変わらず、堅実な布陣だ。
魔物の陣地は、だいたい森の中にある。魔物は、人間より強く単独行動を好むから、視界の悪い森の中でゲリラ戦を仕掛けてくることが多い。
集団戦を得意とする人間とは、真逆である。
隊の騎士兵士は見える範囲で十名ほどいて、誰も彼も男女ともに体格のいい戦士系だ。装備品は、金属鎧、革鎧、長剣、戦斧、円盾、クロスボウ、といったところ。
前線の小規模な隊としては、装備は整ってる。
外地では、火薬すら機能しない。爆発物どころか、銃器も使えない。強靭な魔物を倒すには貧弱な、鋼の刃物とか弓矢が主力となる。
そんな装備で大丈夫か? と聞かれれば、こう答えよう。
大丈夫だ。問題ない。
外地に出た人間は、理由は全く不明だが、魔法が使えるようになる。魔法という、内地には存在しない、内地では使えない強力な武器を得る。
◇
「新実 健二『心剣士』殿!」
この前線基地のレオン指揮官が、よく通る低音で呼びかけてきた。
レオンは、いかにも前線の騎士っぽい、無精髭でボサボサ金髪の、オレの親より年下であろう若めのオッサンだ。体格がいいし、顔に大小の傷痕があって、全身金板鎧を纏い、大剣を背負って、戦場で叩きあげてきた感じだ。
「レオンさん! また、お世話になるっす!」
大きく振られるゴツい金属籠手に、オレも大きく手を振り返した。
ソワソワと手短に、ゴツい金属籠手と握手を交わす。金属の凹凸が手に痛い。
「今回の作戦、新実 健二『心剣士』殿に御助力いただけて、とても心強い。早速で申し訳ないが、作戦の概要を、あちらの天幕で説明したい」
「早速、お願いするっす」
レオンの後について、並ぶ天幕の一つに向かう。途中で、騎士兵士の掛け声に手を振って応える。
天幕の前で、オレもレオンも、次の一歩を躊躇うように足をとめた。二人してソワソワと落ち着かず、二人して深呼吸して、二人して咳払いした。
「新実 健二『心剣士』殿をお連れしました。入っても、よろしいでしょうか?」
レオンが、遥かに高い身分の相手に御伺いを立てるように、不慣れに丁寧な言葉遣いで、天幕の垂れた布一枚の向こう側に声をかけた。
布一枚の向こう側から、優雅で気品のある、儚げで清楚な、少女の声が答える。
「どうぞ。お入りください」
「失礼いたします」
軽く布を捲って入った薄暗い天幕の中に、その少女がいた。
粗末な木のテーブルを前に、粗末な木のイスに座っていた。
その少女は、灰色に近い長い銀髪が、昆布のようにウネって頭の全面を覆う。煌びやかながら清らかな、フリルやレースで飾られた白いドレスを着る。細い手と細い指には、白いレースの手袋を嵌める。
まるで昆布の精霊みたいな見目の、その少女は。
オレは、緊張する。超緊張する。超超超緊張する。
「こ、こんにちはっす! 昆布の精霊様っ! じゃなかった!、申し訳ないっす!、ユーナ王女様っ!」
うわぁっ?! やっちまった! 緊張しすぎて、思考が声に出てしまった!
「ごきげんよう、新実 健二『心剣士』様」
ユーナが、楽しげに、くすくすと笑った。
心剣士と灰銀の魔女
第01話 EP00-01 王女の帰還/END
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