第17話 EP05-01 三身一体
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。
少女が武器に残した強い記憶で戦う魔法使い『心剣士』だ。
◇
灰銀色の煙が、獣が大口を開けるように拡散した。
オレは、灰銀色の煙に『拒絶の蝶短剣』の剣先を向けた。
蝶短剣に籠められた『拒絶の念』が、灰銀色の煙を押し返す。
灰銀色の煙は、一定距離を置いて、オレを囲む。目論み通り、『壁』や『網』と違って隙間から侵入されないのが、ポイント高い。
今の出力で、半径五メートルの球状って感じか。もっと出力を絞って魔力消費を節約して良さそうだ。
籠められた拒絶の念もかなりの濃度と量だけど、四つ角の魔物『ヴォモス』を食った直後の灰銀の魔女に魔力量で対抗するのは無謀だ。魔力の消費をなるべく抑えて、時間を稼ぐべきだ。
時間を稼いで、理性の消えた灰銀の魔女を清楚なユーナ王女様に戻す方法を考える。今から考える。
「……」
王子様のキスとか、……あっ、やっぱ何でもないっす。調子に乗って悪かったっす。反省してるっす。
「……」
オレは、腕組みして、身を捩って、必死に考える。
「……」
隣で、美月も、難しい顔をして考える。
「っ!?」
オレは、ビックリした。
「美月?! どうして、いるんだ!?」
「え? えっと、下がり損ね……。ワタシも、何か役に立てるかと思って」
美月が、諦めた顔で答えた。
……そうか、逃げ損ねたのか。美月は、命を懸けるほどは、ユーナ王女様と親しく無いから、この死地に残る理由が無い。それでも、事実でも、理由が『逃げ損ねたから』じゃ格好悪いもんな。
「ジブンには何ができる? 何をすればいい?」
鴉羽がボーイッシュな声で、意気揚々と聞いてきた。
『っ!?』
オレも美月もビックリした。
鴉羽はオレの近くには居なかったし、まさか、あの状況を見て駆け込んできたのか?
あぁ、でも、よくよく考えてみれば、鴉羽も、この状況を予想できた人の一人だったか。
オレは、ビックリと納得が半々に混じる顔で聞く。
「鴉羽さん。どうしてここに? 言っちゃ何だけど、命の保証は無いぜ」
鴉羽が、不思議そうな顔で答える。
「新実とゲシュペンストが留まるようだったからな。疑問を持つことではないだろう? 友だちだからな」
迷いのない、ボーイッシュな微笑だった。
「っ!?」
純騎士の純粋さが眩しい! オレは思わず、掌を顔の前に翳す。
美月は、感激に全身をプルプルと震わせ、瞳を涙で潤ませてる。
「どうしたんだ、二人とも? 大丈夫か?」
鴉羽が困惑顔をした。
◇
「新実。策を簡潔に説明しろ」
策があって当然、と信頼顔の鴉羽の要求に、オレは考える。
策は、……無い! こともない? まだ固まってない断片なら、ある。
「まさか、策が無いとは言うまいな?」
鴉羽と美月が、疑いのジト目になった。
「ある! あるっす! あるっす!」
オレは慌てて取り繕った。無い、と答えて許される雰囲気じゃない。
オレは、断片的な情報を、とにかく断片でいいから並べよう。
「えっと、城壁の天辺から落ちて平気だったから、灰銀の魔女に単純な物理攻撃は効かないと思う」
これは間違いないだろう。
「でも、ヴォモスには弾き飛ばされてた。じゃあ、魔力でなら干渉可能なんじゃないかなぁ、と思う」
超強力魔法品とは超高密度の魔力の塊みたいなもの、とされている。ユーナ王女が内地から遠い外地の外端にいたのも、魔力の存在できない内地では自身の存在が消えるのでは、と危惧したからである。
「魔力での攻撃だな? 心得た」
魔力を銃弾のように飛ばせる遠距離攻撃タイプの魔法使いの鴉羽は、灰銀の魔女との戦闘で、たぶん相性が好い。
「大通りのヴォモス戦で、暴走したユーナ王女様が正気を取り戻したとき、頭を打った感じだった。頭に魔力で衝撃を与える、は試す価値があると思う」
「異議なし」
鴉羽が納得した。
「となると、灰銀の魔女の頭は、どの位置だと思う?」
鴉羽が周囲を見まわして、問題提起する。
半径五メートルの球の外側は、隙間なく灰銀色の煙に覆われる。灰銀色の煙しか見えない。その煙が、灰銀の魔女その人である。
「……頭?」
率直に、分からない。分かるわけない。灰銀色の煙しか見えない。
「ワっ、ワタシ、分かるかも!」
美月が緊張した口調で宣言した。瞳を輝かせ、頬を紅潮させていた。鴉羽の助けになれる!、と張り切ってるみたいだ。
「アーティファクトの濃度に、のっ、濃淡があるの。濃い煙の中にっ、人の形の薄い煙が歩いている感じっ」
オレと鴉羽で、驚き顔で目を合わせる。
アーティファクトを探せるだけじゃなくて、アーティファクトの形まで認識できるのか。『アーティファクトシーカー』は、探索型の魔法使いの最高峰とされる。その理由が、分かった気がする。
「素晴らしいな、ゲシュペンスト! ターゲット位置の指示をくれ!」
「うっ、うん! 任せて!」
新たな友情の誕生を見届けて感慨に耽るオレの、背中に、美月が抱きついた。
……え!? 何故だ!?
じゃない、分かる。魔法も優等生の美月なら、維持する拒絶空間は狭い方が魔力の消費が少なくて済む、と察する。だから、空間を狭くできるように密着すべき、と結論する。
エリート軍人の鴉羽も、当然のように察して、美月の背中に抱きつく。外地で戦うなら、魔法に精通して然るべきである。
平常心! 明鏡止水!
オレとしては、心遣いに感謝しながら、拒絶空間を狭める。
拒絶空間の外面には、粒子の一粒一粒に齧り食われてるみたいな、悍ましい感覚がある。
平常心! 明鏡止水!
背中に、美月の胸が押しつけられる。華奢だけど無いわけじゃないし。気になって集中できないだろ!
「どうした、新実? 魔法が急に不安定になったな? 今さら怖くなったか?」
鴉羽が揶揄う口調で、鼓舞の発破をかけてきた。
気遣いは嬉しいが、違うんだ、怖いんじゃないんだ。鴉羽は、デリカシーが無い。そういうところも、オレは嫌いじゃない。
平常心! 心頭滅却! 鎮まれ、オレの鼓動!
「だっ、大丈夫だ。問題ない。いつでも、始めてくれ」
オレは、赤い顔を見られないように向きを調節しながら、クールを気取った声音で答えた。
心剣士と灰銀の魔女
第17話 EP05-01 三身一体/END
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでくれる人がいると、書く励みになります。




