第16話 EP04-02 ヴォモス討伐戦
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
「走れ走れ走れ! 一歩でも距離を縮めろ!」
重装の騎士たち数百人が走る。金属鎧をガチャガチャと騒がしく鳴らして、夏の午後の日差しを駆け抜ける。
「全隊、停まれ! 弓、構えー!」
軽装の弓兵たち数百人も、重い弓と矢筒を背負って、汗だくで追従する。号令に滑るようにブレーキをかけ、弓を構え、矢を番え、弦を引き絞る。
矢の向く先は、撤退を続ける『ユーナベルム戦場』の魔物の軍勢のボス、四つ角『ヴォモス』。と、ヴォモスと共に撤退する魔物ども。
ユーナ王女との一騎討で大ダメージを負ったヴォモスの歩みは鈍い。ビルサイズの巨体だからそれでも速いけど、重装の人間でも走れば追撃できる。
「撃てーーー!」
号令に合わせて、一斉に矢を放った。数百本の矢が山なりに飛んで、ヴォモスや魔物どもの背中に雨のように降り注いだ。
巨体のあちこちを削られ抉られ齧られたヴォモスだけど、矢の百や二百じゃダメージにもならないだろう。
矢を射る目的は、逃げるヴォモスに休む暇を与えないことと、周囲の魔物どもを減らすことだ。
人間の軍は、ヴォモスを王城の城壁まで追い込みたい。城下町から森へと脱出されると困るし、魔物側に一致団結の反撃とかされても困る。
「ヴォモスが南の大通りに逸れます!」
「別動隊が間に合う! 問題ない!」
南に延びる大通りから、一斉に矢が放たれる。南ルート担当の別動隊である。
「ヴォォォォォッ!」
ヴォモスが堪らず、進路を戻しながら咆える。魔物数十体が反転して、こっちに来る。
出番だ! オレは腰から、刃の欠けた大鉈を握った。
オレの名は『新実 健二』。内地では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子。外地なら、少女が武器に残した強い記憶で戦う魔法使い『心剣士』だ。
「オぉレがぁぁぁ! 殺るぅぅぅっ!」
武器に残る少女の記憶に引っ張られて、恥ずかしい名乗りをあげてしまった。
「三つ角はアタイが殺るぅぅぅっ!!!」
本人も名乗りをあげた。
「三つ角は居無ぇぇぇぇぇっ!!」
「なんだそりゃぁぁぁっっっ!!!」
心剣士あるあるなのだが、オレは赤面するほど恥ずかしいのに、本人は臆面も無くノリノリなのが納得いかない。
捨て身で弓兵を襲撃する魔物は、重装の騎士たちと火力担当で対処する。
とにかく、ヴォモスに逃げる以外の暇を与えない。王城の方向に逃げる以外の選択肢を与えない。
そのために、弓矢で追撃し、追い駆ける。追う果てに、きっと、オレたちの英雄が待っている。
◇
ユーナベルム城を囲む高々と堅牢な石積み灰褐色の城壁に、赤い夕陽がかかる。後方を振り返ると、夕陽に照らされて、町の廃墟と瓦礫が赤く染まる。
夕刻に、ついにヴォモスを王城の城壁まで追い詰めた。
「弓、構えー! 撃てーーー!」
号令に合わせて、千の弓兵が一斉に矢を放つ。
降り注ぐ矢の雨に、ヴォモスと数百の魔物どもがジリジリと後退する。もう少しで、城壁の崩れた箇所から王城の敷地へと踏み込む。
四つ角の魔物を討つには、緻密な作戦を大胆に遂行する実行力が要る。
四つ角と他の魔物を分断し、四つ角を総力で攻撃する。分断を維持する部隊は最小限の兵力で、四つ角を討つ部隊共々、甚大な犠牲を覚悟する。
それくらいやって、ようやく四つ角の魔物は討てる。十年に一度の快挙であり、誰もが認める偉業となる。
「ヴォォォォォォォォォォッッッ!!!!!」
怒り狂ったヴォモスの、怒りの咆哮が重く重く轟いた。
残り数百の魔物どもも、雰囲気が変わった。生き延びるための撤退から、命を捨てた抗戦へと、覚悟を決めた感じだ。
来るか! 魔物どもの最後の抵抗だ!
「大盾兵、前へ! 迎撃態勢!」
弓隊の前へと、重装の騎士たちが進み出る。大盾を構え並び、敵の突撃に抗する防壁を構築する。
オレは、一緒にいる美月に向く。
「美月は下がった方がいいかも。危ないぜ」
「……」
美月は無言で、上を見あげていた。意外そうだった。
オレも、上を見あげる。
夕陽と夕焼け空を背景に、高々と堅牢な石積み灰褐色の城壁が聳える。城壁は一面だけ無くて、そこから王城が覗く。
城壁の天辺から、城壁を構成する大きな石の一塊が、崩れ落ちた。……ドンッ!、と大きな音で、草茫々の土の地面に落着した。
「!?」
一瞬、静かになった。人間も魔物も、全員がビックリして、落ちた石の方を見た。一つ角の魔物より大きな、灰褐色の、城壁から崩れ落ちた石。
美月が、また上を見あげた。
オレも、また上を見あげた。
城壁が崩れて、無数の石の塊が落ちる。下のヴォモスに、魔物どもに無数に降り注ぐ。
ドガガガガッ!!!、と凄い音で、無数の石が落着した。落ちた石が積みあがった。転がって散乱した。
人間の軍はビックリしすぎて、思わず後退った。攻撃とか迎撃とかの思考は、真っ白に消えていた。
呆然と、見つめる。
魔物の軍は、……。
数百残っていた魔物は、ほぼ消えた。ビルのサイズの四つ角の魔物『ヴォモス』でさえ、極太の脚四本の全ての膝を折り曲げて、石の塊の下敷きとなって、蹲っていた。
また上を見あげる。
純白のアーマードレスの少女、ユーナ王女が城壁の天辺から飛びおりた。
「!!!!!」
感激で声にならなかった。
ユーナ王女は、上を向いて落ちない。下を向き、眼下のヴォモスを見据えて、落ちる。灰銀色の長い髪と白いドレスを靡かせる。
ヴォモスに至る直前に、ユーナ王女が灰銀色の煙に変わった。灰銀色の煙は、落下の勢いのまま、ヴォモスに喰らいついた。
灰銀色の牙を突き立てる。深く食い込ませる。荒々しく咬み潰す。
ヴォモスが消えた。歪な枯れ木みたいな四股の角が、積み重なる石の塊の中に転がった。
魔物は、死ぬと消滅する。角だけが残る。
◇
呆気なかった。
地の利、敵の分断、追撃、急襲。
ここまで綺麗に繋がれば、当然か。
急展開に、ほぼ全員が呆然とする。全員の視線の先で、ヴォモスがいた石積みに、純白のアーマードレスのユーナ王女が佇む。
この瞬間に状況を正確に理解できた人は、極僅か。ユーナ王女の事情を知っていて、さらに、ユーナ王女の登場を予見できた者。
まずは、『アーティファクトシーカー』の魔法でユーナ王女を認識できていた美月。美月の反応から、ユーナ王女が城壁の天辺にいると察したオレ。あとは、特に忠義に厚いユーナベルムの騎士たち。
「近づいちゃダメっす!」
「総員! 下がれ!」
オレと壮年のユーナベルム騎士が、ほぼ同時に叫んだ。
ユーナ王女が、恍惚の表情で、焦点の合わない淀んだ瞳で、如何わしく笑んだ。紅潮した頬を隠すこともせず、全身をビクンビクンと痙攣させた。
呆気なくて、当然か。
魔将軍を討伐した英雄が二人もいるのに、四つ角の『ヴォモス』ごときがラスボスなんて甘すぎた。
ラスボス『ヴォモス』の後には、裏ボス『灰銀の魔女』が控えていた。ラスボスなんて、ただの前座だった。
ユーナ王女、ここは敢えて『灰銀の魔女』と呼ぼう、が灰銀色の煙となって拡散した。
騎士兵士たちが困惑の見える後退を始めた。
状況は、全力で逃げる、が正解だ。オレだって、逃げていいなら、逃げていた。四つ角の魔物すら屠る、何をどうすれば勝てるのかも不明な『灰銀の魔女』に立ち向かうのは、自殺行為の蛮勇だ。
オレだって、逃げたい。食われたくない。
それでも、大勢が逃げ遅れて、食われるだろう。
ユーナ王女は、伝家の宝剣のせいだったとしても、人を一人でも殺めれば、悼み、悲しみ、後悔し、自身を憎んで、姿を消すだろう。一生を世界の果てに孤独で過ごすか、自らの命を絶つかも知れない。
そんな、何れにしても、二度と会えなくなる予感がある。
もう会えないなんて嫌だから。また畏まって、跪いて、微笑んでもらいたいから。
ユーナベルム騎士たちは、諦めなかった。ユーナ王女様も、諦めなかった。
だから、オレが諦めるわけにはいかない。
誰も死なせない。誰も殺させない。オレが、どうにか、してみせる。
オレは、前へと、灰銀の魔女へと、進み出た。『拒絶の蝶短剣』を振るように抜き開いて、胸の高さに構えた。
超怖い。死にたくない。逃げたい。
でも、踏みとどまる。灰銀色の煙を、真っ直ぐに見据える。
大丈夫だ。問題ない。
オレには、防御手段がある。勝ち筋が、勝算が、ある、たぶん。
心剣士と灰銀の魔女
第16話 EP04-02 ヴォモス討伐戦/END
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