第13話 EP03-04 髪飾り
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。内地では、ごく普通の中二男子。外地なら、少女が武器に残した強い記憶で戦う魔法使い『心剣士』だ。
「暑くなってきたっすね」
オレは、誰にともなく呟いた。
ユーナベルム奪還作戦の兵一万二千。さっきの場所から少し移動して、石畳の大通りに布陣した。
大きくて賑やかな繁華街だったのだろう。今は廃墟で、石畳が割れ、掘り返され、荒れ放題だ。大通りの左右に幾つも積みあがった町並みの残骸にも、一年前の賑やかさが想像できた。
夏の日差しが降り注ぐ。日陰は無いし、むしろ石畳や瓦礫が照り返す。軽装のオレでも暑い。
「新実。ジブンに手伝えることはあるか?」
鴉羽が、真面目な声をかけてきた。優等生だ。
「鴉羽さんって、どんな魔法が使える? 軍事機密とかなら、答えなくていいけど」
オレは、一応聞いてみた。
「ジブンの魔法は、魔力の弾を射出できる。可視黒色で透明度が低く、サイズ、威力、速度、軌道を、ある程度は制御可能だ。内地での銃に近い運用を想定してくれていい」
銃相当の魔法とは、強そうではある。でも、多数 vs 多数で銃が一丁だけ、と考えると、この戦場での運用は難しいか。
「後方で、美月を護衛してやってくれ。美月は戦闘向きの魔法じゃないから」
「分かった。任せておけ」
鴉羽が、自信あり気な微笑で答えた。自信家だ。
ミニスカート軍服の美月が、キラキラと輝く瞳で、鴉羽の手を握る。
「ワ、ワタシは、『アーティファクトシーカー』なの」
美月は割と人見知りで、鴉羽にまだまだ緊張して、軍事機密をサラリと口走った。
「ほ、ほぅ、そうなのか。素晴らしいな」
鴉羽が困惑顔で称賛した。
まぁ、お堅い軍人の鴉羽なら、軽々しく口外はしないか。
◇
「この大通りで、ヴォモスを迎え撃つ」
壮年のユーナベルム騎士が、荒れ果てた石畳に立ち、戦術の説明を始めた。
各部隊の指揮官と、ユーナベルムの戦法に興味のある有志が、清聴する。
「ここならば丁度、ヴォモスの横幅とほぼ同じ道幅がある。大通りの幅一杯を専有して直進するヴォモスに並走できる魔物は、精々一、二部隊。ほとんどの魔物が瓦礫の山を大きく迂回せざるを得ず、敵の分断が見込める」
分かりやすい。直進するヴォモスと、迂回する魔物部隊。ヴォモスと他の魔物を分けようってわけだ。
「ヴォモスと並走する魔物があれば、ユーナベルム隊で抑える。孤立したヴォモスを、ユーナ王女様が伝家の宝剣にて御討ち取りあそばされる」
勇壮な金属籠手が、傍らに佇むユーナ王女を示す。
純白のアーマードレスのユーナ王女が、清楚に微笑んだ。
皆見惚れて、『おおぉっ』、と感嘆の声を漏らした。
壮年のユーナベルム騎士は、咳払いを一つして続ける。
「迂回する魔物部隊は、貴公らの隊を左右に二分して対処していただきたい。この作戦は、ヴォモスを討伐できれば我らの勝利である。合流されぬよう、足止めで構いませぬ」
「お任せください!」
「この命に換えましても!」
皆の士気が、いつにも増して高いから。分かる、オレも士気が最高潮。ザコの足止めは問題ない。
ヴォモスは、人間の域を超越した感じのユーナ王女様にお任せしよう。
残るは、ヴォモスに並走する魔物がいた場合だ。部下に守られたボスを討つのは難しい。ヴォモスの孤立、それが最低限の勝利条件と考えるべきだ。
オレは、強面の大人たちに気後れしながら挙手する。
「新実 健二、『心剣士』っす。王女様の露払いを申し出るっす」
大人たちが騒つく。けど、『心剣士』と名乗っておけば、大抵はどうにかなる。
「暴れるヴォモスの近くで三つ角と戦闘する。そのような困難な状況ともなろう。貴公らに異論無くば、新実 健二『心剣士』殿に、お願いする」
事情を知る壮年のユーナベルム騎士が、信頼の顔で頷いた。
「おいぃぃぃっ! 楽しそうだなぁぁぁ、それぇぇぇっ!」
気性の荒そうな少女の歓喜の声が聞こえた。
「アタイも混ぜろぉぉぉっっっ!!!」
体格のいい少女が、オレたちの前に仁王立つ。男みたいな太さはなく、すらりと細い、撓りの強そうな肢体である。
鴉羽の先輩で、超戦闘狂で、オレンジ色のボサボサの長い髪をして、歯がギザギザしてて、円形の金属パーツで急所を守る軽装金属鎧を装備する。
どうだろう? 強そうではあるけど、敵は三つ角だし。鴉羽曰く『命令無視が多い』のも、不安要素だ。
「先輩の命令無視は全て、待機命令を無視して魔物に襲いかかった、だ。新実は思考が顔に出やすいな」
鴉羽に心を読まれた。オレって、そんなに顔に出やすい?
超戦闘狂少女は、周りの雑音そっちのけで、壮年のユーナベルム騎士と睨み合う。まるで獣同士の、老狼と若豹の威嚇合戦である。
「……貴公にも、お願いしよう」
壮年のユーナベルム騎士が、察した笑みで頷いた。
「任せなぁぁぁっ!」
超戦闘狂少女が、大口を開けてガハハと笑った。
◇
ユーナ王女が心配顔で、祈るように両手を組んで、オレを見つめる。
「新実様も、お気を付けください。魔物にも、わたくしにも」
前髪に顔が隠れていない、美少女の、王女様の、御尊顔ダイレクトアタックだ!!!!!
オレは必死に、気を強く保つ。興奮で失神しないように、スゥーーーッッッと長く息を吸う。
「御しっ、ししし心配無用っっっすすす!!! 対抗策も、御守もあるっっっす!!」
オレは胸の高鳴りにドギマギしながら、ユーナ王女様に戴いた『花をモチーフにした髪飾り』を差し出した。庶民的な品との話だったけど、オレにとっては家宝だ。
「っ?!」
ユーナ王女が一瞬、動揺した。慌てたみたいに、後退った。
「?」
オレの驚いた感じの反応に、ユーナ王女がまた慌てて頭をさげる。
「もっ、申し訳ありません。皆様にも、御挨拶してまいりますので、失礼します」
やっぱり慌てたように、逃げるように離れていく。
ユーナ王女の背中を見送って、オレは手にある花の髪飾りを見る。
ユーナ王女は、これに驚いていた。触ってはいけないもののような、大切なもののような反応だった。
肌身離さず持っていたいのに、理性を失い全てを喰らうかも知れない自分が持っていてはいけない、失ってはいけない、とても大切なもの、そんな悲しげな瞳をしていた。
「……あー」
オレは花の髪飾りを見つめて、ようやく思い至った。忘れていたと、初めて気付いた。気に留めていなかったから、気付いていないとすら、気付いてなかった。
ユーナ王女の記憶で見た。花の髪飾りは、仲の良い侍女に、ユーナが友として贈った、誕生日プレゼントだ。ユーナ王女の思い出の品、友の形見だ。
それをオレに預けたってことの意味は、これから、オレ自身が考えるしかなかった。
心剣士と灰銀の魔女
第13話 EP03-04 髪飾り/END
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