第12話 EP03-03 王女
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
大きく崩れた箇所から、石積み灰色の壁を踏み越える。
森から、ユーナベルムの元城下町に入った。
元城下町は廃墟と瓦礫だらけで、一年ほど前まで栄えていた城塞の面影なんて無かった。
コンブとユーナベルムの騎士兵士たちが、静かに町並みの残骸を見つめていた。
かつての栄華を知る者の悲しみか。ようやく故郷に戻れた感慨か。内地産まれ内地育ちのオレに、分かるはずもなかった。
オレの名は『新実 健二』。内地では、ごく普通の中二男子。外地なら、少女が武器に残した強い記憶で戦う魔法使い『心剣士』だ。
◇
元城下町に入って、遠目にヴォモスが見える位置に布陣する。
ヴォモスは、四つ角の魔物だ。
体高は周囲の建物の残骸よりも高く、長い鼻はないけど、象に似た形をしている。赤黒い肌は、赤黒い剛毛が疎らに覆う。薄汚れた牙が二本、口から長く突き出し反り返る。
額には、一本の根元から四股に分かれた角がある。遠目に見ても、大きな、歪な枯れ木が生えてるような、異様な気持ち悪さがある。
巨大い! 誇張なくビルのサイズ! 誰が呼んだか、『ユーナベルム戦場の重戦車』!
『ヴォォォォォッ!』
遠くに、ヴォモスが重低音で咆えた。重い空気がビリビリと震えた。心の奥の恐怖が膨らんだ気がした。
空気の震えが鎮まっても、騎士兵士たちが小声で騒つく。四つ角に勝てるのか?、だよな、やっぱり。
人間の軍は、遅れてた部隊が合流して、一万以上にはなったと思う。総兵数約二万には、まだまだ足りない。
「いた! 健二! そっちは大丈夫だった?」
美月が小走りで、こっちに来る。
美月は、オレのクラスメートの中二女子で軍人だ。ピンク髪のショートヘアで、年相応に可愛くも、芯の強そうな凛々しい顔立ちで、声が澄んで高い。体は軍人にしては華奢で、黒の半袖の軍服に、黒のミニスカートを穿いて、素肌の腕脚が細く伸びる。
「美月! 無事で良かった。青雨騎士団は?」
オレは手を大きく振って迎えた。
美月と一緒に、鴉羽もいる。
鴉羽は、最近仲良くなった中二女子だ。聖高潔騎士団所属の軍人で、黒髪のボーイッシュなショートヘアで、お堅い軍服姿で、意識高そうな大人びた感じの少女だ。
鴉羽がボーイッシュな声で答える。
「青雨は、森で魔物に襲撃されて散り散りになった。ジブンたちは運好く離脱できたが、他はどうなったか」
美月が、オレのワイシャツの裾を引っ張る。
「青雨騎士団が合流するまで、レオン隊にいさせてほしいのだけど」
「ジブンからも頼む」
鴉羽も意見を同じくした。
「鴉ぅぅっ! だったらウチ来ぉぉぉい! 来て手伝えぇぇっ!」
少し離れて、気性の荒そうな少女の大声が聞こえた。
「先輩の隊と行動を共にするとジブンの評価が下がるので嫌です!」
鴉羽が大声で返した。
レオン指揮官が、こっちを見て答える。
「自分は構わない。ゲシュペンストと聖高潔騎士団ならば、自衛は可能なのだろう?」
「ありがとうございます」
「感謝します」
「ありがとうっす」
オレと美月と鴉羽、三人揃えて頭をさげた。
◇
「報告!」
高い廃墟の屋上に立つ物見の兵が、焦る口調で叫ぶ。
「ヴォモスが動きます!」
遠くに、砂煙があがった。
「魔物の数は、多数! 正確な数は不明! 進行方向は、こちらです!」
碌な情報の無い魔物側の戦力を気にしても意味は無い。二万の兵で勝算があると判断したのなら、そのくらいの敵戦力なのだろう。
オレは、こっちの陣容を確認する。
こっちは、対魔物戦の基本通りにほぼ歩兵のみで、……一万と、千から二千ってところかなぁ。
最大規模の青雨騎士団も、総指揮の騎士団長も、いない。
他の部隊の指揮官たちは、打って出るか、迎え撃つか、後退するか、一時撤退かで、不毛な議論を始めた。会敵まで一時間くらいあるだろうけど、結論が間に合うかどうか。
騎士兵士は、中堅未満の騎士団や騎士団未満って感じの装備の人が多い。勇壮なユーナベルム隊と比べると、どうしても見劣りする。
この陣容だけなら不安になるけど。ユーナ王女とユーナベルム隊がいる。オレも武器が豊富にある。
勝算はあるのだ。あとは、この場にいる騎士兵士たち全員に、戦う意思と、勝てる自信が必要だ。それは、所詮は雇われ傭兵のオレには、どうにも出来ないんだぜ!
壮年のユーナベルム騎士が、キメ顔のオレの横に立つ。
「心剣士殿。何か懸念はあるか?」
「無いっす。いつでもオッケーっす」
オレの軽い返答に満足げに頷き、多重装甲の全身金板鎧をガシャガシャと鳴らしながら、前へと進み出る。
高い瓦礫の上に、壮年のユーナベルム騎士が登り立った。夏の青空を背景に、強い陽光を鎧がギラギラと反射した。
「静聴を願う!」
戦場に透る低音に、騒つきが静まる。注目が集まる。
「この老骨に! 全体の指揮を御任せいただけまいか!?」
歴戦の騎士の迫力はあった。でも、それだけでは、戯言で世迷言だ。
「先に貴公の名を名乗るのが、礼儀ではないか!? 青雨騎士団長が御不在とはいえ、騎士団長階級の幾人もの方々を差し置いて」
異論を唱えようとした騎士が、驚いた。
「まさか、ユーナベルムの……」
さすがに有名だ。
ユーナベルムは、周囲を森とし、魔物を誘き寄せ殲滅するほどの強国だった。強騎士団だった。
「しかし。この地の陥落の際に壊滅したのでは?」
「ユーナベルムの方に指揮していただければ、地の利を得られましょう」
「そもそも、戦力が足るまい? 青雨騎士団の合流を待たねば」
また、不毛な議論が始まった。
「貴公らの懸念も、尤もである! されど、御心配めされるな! 勝利の女神が、我らと共にあらせられる!」
高らかに宣言して、壮年のユーナベルム騎士が恭しく跪いた。
高い瓦礫の麓に、コンブが佇んでいた。
コンブは、昆布のようにウネる灰銀色の長い髪が顔を覆う、白いドレスの少女である。
コンブが、一つ深呼吸した。直後に、灰銀色の煙となって拡散した。灰銀色の煙は再び集まり、少女の姿を成した。
少女は、灰銀色の長い髪の、高校生くらいの美少女である。儚げで清楚で、胸が大きくてナイスバディで、煌びやかながら清らかな、白いドレスを纏う。ドレスには純白の金属の装甲が、存在を誇示するように、大切な宝を守護るように、カチャカチャと揺れる。
少女は、かつて、ユーナベルムの王女だった。王国の名を名に戴き、ユーナ王女様と呼ばれ、国民の全てに愛された。
「御許しいただけますのなら、わたくしが、かつてはユーナベルムの王女でありましたユーナが、先頭に立ち戦いましょう! ユーナベルムの伝家の宝剣の力で、仇敵ヴォモスを討ち取ってみせましょう!」
ユーナ王女が、清楚ながら凛とした瞳で、清らかながら力強い声で、万の兵に向けて宣誓した。
続くのは、静寂。皆、口に出すべき言葉を見失い、探す。躊躇ってるってよりは、戸惑ってる。
目の前の少女が、魔法と呼ぶにも不可思議な能力で、姿を変えてみせた。ユーナ王女の容姿で、死んだと思われていたユーナ王女を名乗った。
戸惑ってる、だけだ。
ユーナベルムの王女、伝家の宝剣、ユーナベルムの騎士、戦場はユーナベルムの城下町。これだけの勝算が揃って、勝てないわけがない。勝ち確なら、手柄を狙わない手は無い。
「……や、やります! 我が騎士団が、ユーナ王女様と共に戦わせていただきます!」
どこかの騎士団長が慌てて跪いた。
「なっ!? わっ、我が騎士団も!」
他も、抜け駆けは許さないと続く。
「ふ、ふんっ。たかが四つ角、臆するに値せぬわ!」
「祝勝会には御出席いただけますでしょうか!? ビンゴ大会の景品にサイン入りチェキをお願いしても!?」
「皆様、感謝いたします! 共に力を合わせ、ユーナベルムを取り戻しましょう!」
『おおーっ!!!』
全ての兵が、鬨の声で賛同を示した。
一万人が声を合わせると、音量に圧倒された。これで全員に、戦う意思と勝てる自信が芽生えた。
オレも不思議と、不安が消えた。前回はヴォモスにメチャメチャ恐怖したけど、それも無い。王女様に仕える、って、こんな感じなんだな。
さあ、戦う準備は整った! かの赤薔薇騎士団が討ち取れなかった四つ角の魔物『ヴォモス』を、オレたちで討伐してやろうじゃないか!
心剣士と灰銀の魔女
第12話 EP03-03 王女/END
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでくれる人がいると、書く励みになります。




