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第6話 普通に寝やがった!!


「そろそろお開きの時間ってことで」


「まだ明日の対策してないよっ」


「明日って何かあるの?」



 まだ事情を知らないらしいティアに、怪しげな補習について簡単に説明する。それを受けてティアの一言。



「補習なんてサボればいいんじゃない?」


「あんまり成績を落としたくない……」


「でも、そいつがでっちあげただけの補習なんでしょ? 別に成績には影響ないんじゃないの?」


「ちょっと微妙だな。可能性は低いと思うけど、正式に補習を組んでいる可能性はある。あと、特にこういう教師は心象が悪いと、露骨に難癖つけて成績下げてくるから」


「随分と教師の裁量が大きい評価システムなのね……。はぁ、めんどくさぁ……」



 ままならない話を聞いて気分が萎えたのか、俺の肩にお腹でぶら下がるティア。布団の化身か? 初対面なのに妙に気安いが、俺の肩は物干し竿じゃないぞ。まあ軽いから別にいいけど。

 話が全然まとまらないので、適当に仕切ることにした。



「補習には行く方針で話を進めるぞ。ポケットに護身用グッズとペン型ボイスレコーダー入れる。補習は普通に受ける。俺は近場で待機。以上」


「まあそれぐらいしかできないか。何か緊急時にレンくんに知らせたりできたらいいのになぁ」


「あら? アナタ達だけなら、心の内で強く呼びかけたらいいだけじゃない」


「えっ? そんなことできるの?」


「ええ。アイの才能なら、半径100メートルは余裕で届くんじゃないかしら」


「そ、そんなにっ!? ちょっと試してみるねっ」


(レンくん聞こえるっ!)


「うるさっ!? 危なっ!?」


「きゃっ!? な、ナイスキャッチ……」


「あっ、ごめんね!?」



 急に大きな声が脳内に響いたので、身体が跳ねて、危うくティアを振り落とすところだった。咄嗟に手と身体で挟んだおかげで何とかなったが。とりあえずティアを机の上に乗せた。



「通信機入らずの便利な能力だな」


「これって上手く使えば会話もできちゃう?」


「慣れればいけるんじゃないかしら?」


「何でもありだな」


「確か錬金術でも似たような効果のアイテムを作れたんじゃないかしら。それよりも、レンには色々作ってほしいものがあってね?」



 ティアはそう言うと、机の上に置いてあった調合書を迷いなく開いた。比較的初めの方のページ、初級ポーションの作り方についてであった。



「やっぱり初級ポーションと初級マジックポーションよね! ビギナー錬金術師がまず作るものと言えばこれよ!」


「まあそう言うイメージはある」


「まあアンタの場合は、それより難易度が高いものを作れているからおかしいんだけど。アイなんて、その初級ポーションでも失敗してるからね」


「うっ……それを言うなら、ティアだって作れないでしょ!?」


「あ、アタシは10回に4回は成功するから……」


「10回に1回の間違いでしょ! 錬金術は私と大体同じレベルだからね!?」


「はあっ!? 10回に2回は成功しますー! アイよりは上手くできるわよ!」


「五十歩百歩だろ……」



 ティアも半分は成功するとまでは言わずに、10回に4回って地味に盛る辺りが中々小賢しくて嫌いじゃない。それはそれとして、酷え有り様である。

 じゃれあっている二人を放置して、初級ポーションのページを読み進める。



「…………これぐらいの内容なら、頑張ればできなくはない、かも?」



 手間と時間はかかりそうだが、作業内容自体は単純だった。薬草やらの素材は二人に融通してもらえばいいが、保存用のガラス瓶がない。まあ水筒やペットボトルでいいような気はするが。



「……どう? 作れそう?」


「多分? まあ時間はかかりそうではあるけど」


「催涙爆弾まで作れたレンなら、初級ポーションぐらい余裕でしょ! 心配する必要なんてないと思うわよ?」


「そうだといいけど。じゃあ、もう補導時間にも近いし、今日のところは解散と言うことで」


「それもそうね」


「うん、そうしよっか」



 激動の一日がようやく終わった。唐突に今後の身の振り方を考える必要性が出てきたのは、非常に憂鬱ではあるが、やってしまったものは嘆いても仕方ない。朝起きたときは連休に心躍らせていたのに、寝る前には真逆の心境になっているとは。


 帰るアイ達を見送るために立ち上がって、玄関の方に誘導する。……したつもりだったが、なぜか誰も着いてこない。疑問に思って振り返ると、同じく首を傾げているアイ達がこちらを見ていた。何でだよ。



「レンくん? どうしたの?」


「いや、早く帰りなよ」


「え? なんで?」


「逆になんで帰らないの??」


「帰るの?」


「帰る」


「どこに?」


「……家に?」


「??」


「??」


「コントやってんじゃないわよ、そこの間抜けヅラ二人」



 どうしよう。同じ言語で会話しているのに、丸で話が通じていない。こっちはそもそも何が理解できていないのかもわからないが、あっちも何も理解できてなさそうな顔してるよ。話が平行線どころか、ねじれの位置なんだけど。今、そんなに難しい話していたっけ……?



「よくわかんないけど、おやすみなさい」


「え? ああ、おやすみ。……って、それ俺の布団」


「大丈夫、私は気にしないから」


「気にしろよ」


「じゃあ……一緒に寝る?」


「何をどう解釈した結果の『じゃあ』なんだよ。コイツ、イカれてやがる……ティア、アイっていつもこんな感じなの?」


「いや、普段は全然おとなしいわよ? 流石になんか、今日のテンションはおかしいけど」



 なお、現在話題に上がっている本人は、布団に潜って沈黙中である。一緒に寝るか聞いておいて、一組しかない布団を独占すると言った暴挙に出ている。帰って自分の布団で暖かくして寝ろ。



「まあ、いいんじゃない? 今日はアタシも泊まるし」


「よくねーよ。一人暮らしの野郎の家には、客人用の布団なんてシャレたものは存在しないから」


「ふーん? そう。あ、アタシはあそこのクッションと、柔らかめのタオルで今日はいいわよ」


「オメーも帰るんだよ。そこで籠城してる奴と一緒に」


「嫌よ、面倒くさい。大体アンタ、こんな真夜中にか弱い乙女を外に放り出す気? ほら、アイからも何とか言ってやりなさい。……アイ?」


「ん……」



 返事が怪しかったので、ティアが布団の中を覗き、こちらを向いて首を振った。暫しの沈黙。部屋に響く規則正しい微かな呼吸音。なるほどね。



「コイツ、普通に寝やがった!!」


「ちょっと、うるさいわよ。アイも疲れてるんだから、ゆっくり寝かせてあげなさいな」


「疲れてるのは俺の方だわ……」



 最悪だよ! 神経図太すぎるだろこの女!!



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