第5話 私も名前がいい
家にあったものと水無瀬さんがどこかから持ってきた素材で、催涙爆弾と音響爆弾は無事に完成してしまった。正直、自分でも作れるとは思っていなかったので、現物を見てもイマイチ実感が湧かない。
ちなみに閃光弾だけはどうしても素材が足りなかったので、そもそも手を出していない。
「初めてなら、普通は魔法を使う過程でつまずくはずなんだけど……」
「いや、何か知らんけどレシピ通りにすればできた……」
「それができたら苦労しないんだよ……? 私がティアに教わったときも、って……あぁ!?」
「うわっ、どうした急に」
「ティアを紹介してない!?」
「誰それ?」
急に初耳の名前が出てきたぞ。話の流れ的に『ティア』とやらが重要人物なのは、何となく察した。名前の響きや諸々から、仲間のマスコット枠辺りと予想。
水無瀬さんが目を瞑って数秒後。何もない空間からポンっ! とコミカルな音が鳴り、急に純白のワンピースを着た妖精が現れた。妖精ってそんなに手軽に呼び出せるものなんだ……。
金髪ロングツインテに碧色と金色のオッドアイ、銀のティアラ、エルフ耳と勝ち気そうに見えるつり上がり気味な目などが目立った特徴か。登場するや否や、観察するかのようにこちらをじっと見てくる。
「アンタがアイの話によく、ん?」
「何すか?」
「……えっ!? ちょ、ちょっとアイ!? アナタ、まさか……」
「な、何かな?」
「アナタねぇ……レン! ちょっとこの暴走娘を借りてくわよ!」
「わわっ」
「あ、返却は不要ですよー」
「薄情者〜!」
失礼な。どちらかと言えば情に厚い方だと自負しているぞ。
俺を見て固まったかと思うと、すぐに水無瀬さんを引っ張って部屋を出ていった妖精さん。妖精さんにとって想定外なことがあったのだろうけど、心当たりが多すぎて何故驚いたのかわからん。
─────────
手持ち無沙汰だったので、借りた調合書を読み進めていること2分ほど。どこか気まずそうな顔をした妖精さんと、特に反省してなさそうな水無瀬さんが戻ってきた。思っていたより帰ってくるのが早い。
「来て早々に騒いじゃって悪かったわね。アタシはラスティアラ。まあ本当の名前はもっと長いんだけど面倒だし、気軽にティアって呼んでくれたらいいわ。長い付き合いになりそうだから」
「おお、これはご丁寧に。水無瀬さんのクラスメイトの富士金 錬です」
「ええ、よろしくね。それと堅苦しいのは嫌いだから、敬語はなしでいいわよ。その代わり、アタシも普通に話すから」
「了解」
空中で綺麗なカーテシーを披露した妖精さん改めティアさん。振る舞いや服装が、見るからにいいところのお嬢さんっぽいな。不敬罪かと考えかけたが、ここは妖精の世界じゃないのでセーフ。
ふと袖を引っ張られて振り向くと、水無瀬さんがブスッとした顔でこちらを見ていた。
「……名前」
「名前?」
「ティアだけずるい。私も名前がいい」
「あー、好感度がまだちょっと……」
「初対面のティアはよくて、なんで私はダメなの!? 意味わかんない!」
「ほら、ラスティアラって名前は略さないと長いから」
「なら水無瀬さんって呼ぶより、愛って呼ぶ方が短いよねっ!」
「誤差の範囲内」
「も〜!!」
「ハハハッ、おとといきやが、痛っ!? 痛い痛い痛い!?」
「うわぁ……」
見た目はただの可愛らしいポカポカパンチなのに、威力は全く可愛くないラッシュだこれ!?
「……私に何か言うことある? レンくん?」
「へへ、何もないっすよ、水n 「なんて?」アイさん」
「もー、呼び捨てでいいのに」
「へへへ……」
「なんかアンタ、既にお尻に敷かれてない?」
天使みたいな見た目の割に、距離の詰め方があまりにもパワープレイすぎるんだよなぁ。協力するのは吝かではないが、できれば深入りしたくないんだけど。
……あ、駄目だ。アイが死んだら、俺も自動的に死が確定するんだった。誰だよ、こんな不平等なカス契約結んだ無能は。絶対営業のセンスないだろ。お前騙されてるよ。
どこか憐れむような目をしていたティアだったが、少し真剣な顔をして問いかけてきた。
「ねぇ、この催涙爆弾と音響爆弾を作ったのはアンタで合ってる?」
「合ってる」
「そう。次の質問よ。錬金術には今日初めて触れたっていうのは、本当かしら?」
「当然、初めてだぞ。具体的には大体3時間前ぐらい?」
「そう」
音もなくふわりと飛んだティアは、何故かそのまま俺の左肩に腰を下ろした。重さはあまり感じないから別にいいけど、ティアも相当距離を縮めるの早くない?
「アイ…………よくやったわ」
「でしょ?」
「貴重な錬金術の適正持ちよ。間違いなく、今の私たちに一番必要な人材だわ。絶対に手離しちゃダメよ。ポーションや消費アイテムの生産から、装備品の製作やエンチャントに加えて、マジックアイテムの解析まで、頭の痛い問題が一気に楽になるんだから!」
「元からそのつもりだよっ」
「そんなにすごいことした?」
二人の反応から察すること自体はできるが、その辺りの常識も比較対象もないから今一つピンと来ない。俺は調合書に載っていることしかしてないぞ。
「レンくんはレシピ通りにしただけって言うけど、普通は設計図と材料だけ渡されてすぐに製品が作れるわけないよね?」
「設備だってほぼないに等しいし、魔法技術が必要な部分もあっさりクリアしてるじゃない。その時点でアンタは普通の錬金術師が、時間をかけて何十回、何百回と練習して習得する技術を既に実用レベルで使えることになるわ。はっきり言って異常よ」
「あっ……ティア。いま気づいたんだけどこれ、素材の代用まで使ってるっぽいんだけど……」
「レシピ通りに作ってすらないじゃないっ! なんなのよアンタ!?」
「調合書に書いてあるやり方だからセーフ」
「……錬金術師で優秀なヤツって、大体秀才タイプか変人かどっちかなのよね」
「確かに俺は努力家ではある」
「どう考えても変人タイプでしょうがっ!」
まあ妖精の世界ではそう見えるかもしれないが、ここは人間の世界なんでね。こっちの世界では常識人であり、決して俺は奇人変人の類いではない。
それはそれとして、一つ質問がある。
「今さらの質問なんだけど、なんで俺のシャツとズボンに着替えてんの?」
「お風呂もらったからだけど……? 今日一日中、着てた服をもう一度着るのはちょっと……」
「それはそうだけど」
「だからいいよね。ほら、見てー、ぶかぶかー」
「服を捲るな。羞恥心とかないんか?」
これが年頃の娘の行動か? まだ小学生の方が慎みがあるだろ。
「これがレンくんの匂いか。なんか安心感あるし、私は結構好きだよ?」
「匂いを嗅ぐな。さっきから何やってんだオメー」
「ねえ知ってる? いい香りがする人同士は遺伝子から相性がいいってお話」
「ゲノハラやめろ」
ケラケラ笑っているが、ティアには若干引かれているぞ。そう言えばゲームとか漫画も好きって言ってたねキミ。
「妖精のティアが来たってことは、ようやく魔法少女の変身が見れる?」
「いやです。恥ずかしいのでっ」
「流石に一度は見せておいた方がいいんじゃないかしら? レンもその方が信用しやすいでしょ」
「……魔法とかティアとか、もう色々見てるんだし、それでよくない? あの格好をレンくんに見られるのはその、恥ずかしいし……」
「神聖な魔法少女の正装よ? 恥ずべき姿ではないわ」
「じゃあティアはあれと同じ服装で街中を歩ける?」
「…………それとこれとは話が別だわ」
「ほら、やっぱり無理だよね! あの無駄に露出が多い服装なんとかならないのっ!?」
「なによ!? 神聖なコスチュームにケチつける気っ!?」
「今の服装も大概だろ……」
ヒートアップした二人は全く止まる気配がない。そういうやり取りもできる方が健全な関係だとは思うが、それはそれとして口論するなら、ティアも肩から下りてくれよ。俺を挟んで言い合いするのは、普通にうるさいからやめてほしい。
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