第4話 一回作ってみてほしいな。お願いできる?
夕飯と後片付けを済ませて、少し休憩してから話を再開することにした。
ちなみに、皿洗いを申し出られたが、一応客人だったので丁重にお断りした。
気を遣ったのか、水無瀬さんは俺が皿洗いしている間もキッチンに居座っていたが。別に座って待っていればいいと思うが。
「それで、何のお話から進めようかな。……あ、防犯グッズを急いで買った理由の説明があったね」
「正直聞かなくてもいいけど」
「だめ。聞いて。私たちのクラスって昨日、体育あったよね? その授業の後で体育の強力に呼ばれて、明日の夕方から補習って言われたの」
「へー。体育の先生って強力って名前だったんだ」
「富士金くんって、ホントに興味のない人の名前とか覚えないよね……」
「まあ、先生って呼んどけば、大体解決するから問題なし」
「確かにそれはそうなんだけど……」
態とではないが、他人の顔と名前があんまり一致しないんだよなぁ。覚えていられる人が優秀なだけで、大抵の人はそう言うものじゃないのか?
それにしてもこう、個性的なお名前というか。職業も併せて一回聞けば忘れなさそうなインパクトがあるけど……あ、初日欠席だったから自己紹介されてないし、俺もしていなかったな。それなら知らなくても仕方ない。
「強力の悪い噂はよく聞いてるでしょ?」
「名前を初めて知ったレベルだけど……まあ体育の先生が横柄な態度だったのは、印象に残っているな」
「売春、パパ活、セクハラとか色々あるんだけど、指導とか言って身体を触られた人もいるみたい。汚らわしい……」
「この学校って、性格終わってる奴多くない?」
この分なら絶対、担任と体育教師だけじゃないだろ。あの水無瀬さんが汚物でも見たかのような態度をとるのは相当だぞ。いつもなら頑張って多少は取り繕うのに、それすらないとは。
「それで、この補習のお話なんだけどね。私以外誰も呼ばれてなかったし、ちょっとおかしくない?」
「選ばれたのは、欠席数が多いからとか?」
「私は全部出席してるよ。ちなみに体力テストも平均より上の成績だったし」
「そもそも俺は最初の方は学校休んでいたから、水無瀬さんが補習なら、俺にも声が掛からないとおかしいわな」
「そうだよね。確か休んだのって、インフルが原因だっけ? ついてないよね」
「俺はあれのせいでぼっち生活になった」
「いやー、どうかな? 男子の中心グループに話しかけられても、変な愛想笑いと曖昧な返事しかできない富士金くんには無理だったんじゃないかなぁ」
「今、変な愛想笑いって言った?」
「うん。かなり変だよ。 『話しかけてくれるのは嬉しいけど、エロゲの話題とか他所でやってくれよ』 みたいな表情」
「実はキミ、読心術できたりしない??」
最近の魔法少女は超能力も使えるのか? 考えていたことを見事に当てられているんだが? と言うか、愛想笑いも曖昧な返事も俺が悪い訳じゃなくない? むしろ調和を守るための優しさに溢れているだろ。だから、俺は悪くないんだ。
「えー? けっこうわかりやすいよ? だから、富士金くんって私と仲良い友達からは、感性がまともすぎて男子のノリについていけない可哀想な人みたいに思われてるよ?」
「まさかの可哀想な人扱い……」
「ショックを受けているところ悪いけど、補習の話に戻すね? まあそう言うことだから、昨日の放課後に慌てて護身用の防犯グッズを買いに行ったんだ。けっこう高かったよ……」
「うわ、かわいそ……」
「可哀想な人から可哀想って言われた!?」
そこでショック受けるなよ。何故か分からないけど、俺にもダメージが来てる気がするから。
「まあ強力からの呼び出しはほぼ間違いなくクロだから、防犯グッズは買って正解だと思う。仮にクロじゃなくても、警戒するに越したことはない」
「ちなみに万が一にでも、シロの可能性はあると思う?」
「呼び出す人を間違えたとか、成績の付け方をミスったとか?」
「ちょっと考えにくいよね……」
「明日の夕方か。予定は空いてるから、近くで待機しとくわ。場所は体育館?」
「え?」
「え?」
水無瀬さんの反応に、逆にこっちが驚いた。何でそっちが驚いているんだよ。別に変なことは聞いてないだろ。そのために俺に話したんじゃないのか?
「いや、当たり前みたいに動いてくれるから、ちょっとびっくりしちゃった。……やっぱり嫁が心配だから?」
「何ニヤニヤしてんだオメー。嫁じゃないけど、心配ぐらいするだろ。嫁じゃないけど」
「別に照れなくてもいいよ? んにぃ〜!? やへて〜!?」
「おお。伸びる伸びる」
大福みたいによく伸びるもちもちほっぺである。しかしこいつ、口答えする割には全然抵抗しないな……。実はそこまで痛くないんじゃないか?
「はぁ、はぁ……さっきから、乙女の柔肌になんてことするの……」
「次また生意気なこと言ったら、その乙女の柔肌とやらを捏ねるからな」
「捏ねるってなに!?」
「パン生地みたいにな」
「富士金くんって、パン作りしたことあるんだ……」
「実はない。スコーンならあるけど」
「逆にスコーンの方が珍しくない? 食べてみたいから、今度作ってほしいなー」
「嫌です。めんどくさいので」
「ケチ! ……あっ、また話が逸れてる!?」
「全く、油断も隙もない……」
「半分以上は富士金くんのせいなんだけどね?」
そんなに褒められたら照れるだろ。ちなみに俺は、既に本題が何だったかすら覚えていないぞ。覚えているのは精々、久しぶりにスコーンが食べたいかな、と思ったことぐらいである。
「そう言えば、防犯グッズって具体的には何を買い揃えた?」
「それ聞いちゃう? 実は今日、全部持ってきてあるんだ〜。富士金くんが見たいって言うと思って。用意がいいでしょ?」
「その辺は本当にどうでもいいが」
「素直に褒めてもいいのに。まずはこれ! ペン型カメラ! やっぱりペンにしか見えなくない!?」
「へー、次は?」
「なんか反応が薄くない? ペン型の集音マイクもあるよ!」
「次」
「ペン型の……」
「水無瀬さんはペンを買いに行ったのか??」
「もう、冗談だってば。他にも催涙スプレーとか防犯ブザーとかが……あ、あれ? おかしいな……」
困惑した表情で鞄を漁っているが、お目当てのものは中々見つからないようだ。なんか雲行きが怪しくなってきたな。
「…………ない」
「えぇ……。どこに置いてきたかは覚えている?」
「……学園の自分の机かも。そこで一回、荷物の整理をしたから」
「もしかして、割とアホの子?」
「ちがっ、違うから!? 今日はたまたま忘れちゃっただけで……!」
「なるほど、肝心なときに役に立たないタイプか」
「私への信頼が音を立てて崩れていく……」
「そんなもの元からなかったぞ」
「ひ、酷いっ!?」
最初からないものはどう足掻いても崩れることはないんだな。
そもそもの話、今日に至るまでの水無瀬さんとの関わりは、何回か困っていた水無瀬さんを手伝った程度だぞ。限りなく赤の他人に近い知り合いである。色々と段階をすっ飛ばして、今の意味不明な関係になってしまっているが。
「こうなったら……富士金くん! なにか代わりになるものを作ってほしい! レシピはこの調合書に書いてあるから!」
「いや無理だろ」
「えっと、この中で役に立ちそうなのは……催涙爆弾と音響爆弾、閃光弾あたりが候補かな。どう思う?」
「その本は本当に調合書なのか……?」
調合書ってそんな物騒なレシピ載ってたっけ? いや待て、まずそんな分厚い本を学校に持ってくるな。君は学校に何しに来ているんだ?
「とりあえずダメ元でいいから、一回作ってみてほしいな。お願いできる?」
「まあ、やるだけやってみるけど……」
─────────
〜3時間後〜
「……できた」
「ウソでしょ……?」
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