第3話 乱暴された。もうお嫁に行けない
「その、えっと……………えへへ、死ぬときは一緒だよ♡」
「…………」
「……私たち、運命共同体だね♡」
「可愛く言えば、何でも許されると思うなよ? えぇ?」
「んひぃ〜!? ほっへたひっはらないで〜!」
水無瀬さんの貴重なぶりっ子仕草である。可愛い。だが許さん。やってることが、聖徳太子でも聞き返すレベルの暴挙だぞ。本当に洒落になっていない。天使のような姿から繰り出される悪魔の所業である。
「はぁ〜……。この無駄にもちもちしたほっぺに免じて許してやる」
「痛た……。富士金くんに乱暴された。もうお嫁に行けない……あっ、もう私はあなたのお嫁さんだったね。みぃ〜!?」
「実は余裕あるだろオメー」
このバカがよぉ〜……。そんなにほっぺた引っ張られたいのか? 何で騙し討ちみたいにして、結婚式擬き挙げてんの? 俺はまだ、人生の墓場に入ったつもりなど更々ないが。
契約の破棄とか解約については、どうせ聞いたところで無意味だろう。方法自体はあるのかもしれないが、強引に押し切ってきた奴が素直に応じるとは到底思えないから。
呪いの手紙をもらってから、あれよあれよと言う間に文字通りの意味で一連托生の存在ができるなんて、夢にも思わなかった。むしろ、夢ならばどれほどよかったでしょうと言いたい。
「う〜、容赦ないなあ……。まあ錬金術関連は一旦置いといて、まだなるべく早く解決したい問題がいくつかあるの」
「まあいいや。いや、本当はよくないけど。とりあえず相談には乗る」
水無瀬さんの問題を放置すれば、俺まで突然死する可能性が大きくなるってことだろ。実質、選択肢ないじゃんそれ。
少しでも生存率を上げるには、とにかく水無瀬さんの余計な心配事を減らして、魔法少女としての活動に専念してもらうべきだろう。
「えへへ、面目ない。一つ目の問題は、魔力不足。魔力はゲームのMPとかと大体同じだけど、完全になくなると変身が維持できなくなるよ。魔物をやっつけるには必要不可欠なんだけど、今はちょっと不足気味で……」
「さっき言っていた、魔力供給がどうとかって話?」
「ううん、そっちは直接供給してもらう方のお話で緊急手段。それももちろん、大事なことだけどね。私が言ってるのは、普段の回復手段のほう。魔力はね、幸せを感じると回復しやすくなるの」
「具体的には?」
「え? えっと、例えば……美味しいものを食べたり、誰かと一緒に遊んだり、趣味を楽しんだりするとか?」
「普通に生活できていたらいいってこと?」
「普通の生活ができないのが問題なんだよね……」
「確かにそうか……」
「だから、事情を知った富士金くんには、色々と手伝ってほしいなって思って。……いいかな?」
「まあそれぐらいなら」
「ホント? ありがとう!」
普通の感性していたら、命懸けの戦闘なんてやりたくないわな。普段からストレス溜め込みそうな性格しているし、ストレスフリーな普通の生活は意外とハードルが高いのかもしれない。
「それでね。えっと、一つご相談がありまして……」
「次は何?」
「できればでいいんだけどね? その……ご飯を食べさせてくれないかなーと、思いまして……。ちょっと金欠気味で、昨日からキャベツしか食べてなくて……」
「…………」
「いや、その最近物騒だから防犯グッズを買い込んじゃったりして、ね? 今月の生活費が苦しいと言うか……」
「……アレルギーはない?」
「へ? あ、何もないです! 何でも、いっぱい食べられます!」
「20分ぐらいで戻るから、待ってて」
「あ、はい!」
普通に可哀想なんだが。食べ盛りで活動量も多そうな年頃がしていい食事じゃないだろ。
まずは作り置きの煮物や冷凍食品をレンジに入れる。それ以外にも今日食べる予定だった親子丼と簡単な味噌汁を振舞うことにした。
早速調理に取り掛かっていると、何故か水無瀬さんがおずおずとキッチンに入ってきた。
「私に手伝えることはある?」
「今はない。……牛乳でも飲む?」
「あ、いただきます」
「アイスミルク。ダブルでね」
「絶対それ言いたかっただけだよね? でも、ありがとう」
バレたか。まあ個人的にアイスミルクはバーより、喫茶店のイメージが強い気がする。
「……座って待っていたら? 見てても面白いものはないけど」
「そんなことないよ。富士金くんって、お料理できたんだね。意外かも」
「簡単なものならな。普段はレンジで済むものとか、ズボラ飯のときの方が多いぞ」
「わかる。自分で食べるだけなら、適当に済ましちゃうよね」
「水無瀬さんも一人暮らし?」
「そうなの。お父さんが単身赴任でね。……あ、誰にも言っちゃダメだよ?」
そんな情報を迂闊に漏らすな。いやまあ、聞いた俺も悪かったけれども。
「安心して。俺には喋る友達がいないから」
「あー……そうだったね。ごめん」
「謝るのやめてもらえる? 余計に惨めになるから」
「ごめん!」
「おい」
謝るなと言った直後に謝るのは故意犯だろ。ちょっと口元ニヤけてるのバレてるからな?
どうでもいいやり取りをしながら、程なくして料理が完成した。ご飯はどれぐらい食べるかわからないので、自分で盛ってもらったが……。
「……いっぱい食べるって言った割には少なくない? 今更遠慮してるのか?」
「だ、だってさぁ……うぅ、わかりました! 引かないでね!?」
「おー。いや、それは盛りすぎ。溢れるから減らして。後でおかわりしな」
「……引かない?」
「何を心配しているんだか。そのために多めに用意したんだから、いっぱい食えばいいじゃん」
むしろこれで全然食べなかったら、こっちが心配になるわ。別にダイエットが必要な体型でもなかろうに。水無瀬さんの体付きで太っているとか言ったら、世の女性達にフルボッコにされるぞ。
水無瀬さん用に野菜の煮物や鰤の照り焼きもさっさと用意して、一緒に食卓を囲む。心なしか目が輝いているようにも見える。
「いただきますっ」
「残さず食えよー。……箸が止まっているけど、大丈夫? 口に合わなかった?」
「ううん、美味しいよ! 誰かの手料理を食べるなんて、久々だったから……」
喜んでもらえたなら何より。少し涙目になっているのを指摘するのは野暮なことだろう。まあそれを言ったら俺は手料理どころか、誰かと一緒に食事することすら久々なんだがな! ガハハ!
「一人暮らしならそうなるな。それで? 金欠の本当の理由を答えるなら、デザートにプリンが付くけど?」
「うっ……。じ、実は魔法少女として活動するようになってから、急に食べる量が増えちゃって……。前はもっと少食だったんだよ? それと、たまたま欲しかったものが、期間限定で売られててつい……」
「トドメに防犯グッズを買ったと。それはもう、どうしようもないな……」
「防犯グッズを買ったのは、治安以外の理由もあるんだけど、それはあとでお話するね。美味しいもの食べてるときに、あんなこと話したくない」
まあ下手に物欲を我慢して、ストレス溜められるよりは断然マシである。慎重そうな水無瀬さんが金欠なのは違和感があったが、急な出費が嵩んだなら仕方ない。そこは安全第一である。
防犯グッズの件は少々不穏だが、下手にこっちから突っ込みたくない。
その後は、他愛もない話を駄弁りながら食事を続けた。
なお、水無瀬さんは親子丼と味噌汁をおかわりした模様。構わん、いっぱい食べるんだ……。
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