↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第2話 死ぬときは一緒だよ♡

 ゴールデンウィーク直前、放課後の帰り道。ニコニコ笑顔の美少女と一緒に、と言えば非常に羨ましいが、自称魔法少女と置き換えると途端に様子がおかしくなる不思議。

 できればは放置して帰りたかったが、既に家を押さえられているので適当に話に付き合わざるを得なかった。だって逆上されたら怖いし。



「お邪魔します!」


「邪魔するなら帰って」


「え? 嫌だけど……」


「そこは『じゃあ帰ります』って返すべきでは?」


「冗談でも帰るって言う気はないよ?」


「そのまま外に出てくれれば、鍵掛けて今日は終了だったのに」


「ほらっ! すぐそういう悪いことしようとする! そんなことしたら、ずっと玄関先で待ち伏せしてやるんだからね!」


「大丈夫。そうなったら110番するだけだから」


「じゃあ喧嘩して追い出されたって、警察とか近所の人を泣き落としするから!」


「発想が最悪だ……」



 実際はそんな真似をする度胸も厚顔無恥さもないのに、よくもまあいけしゃあしゃあと宣うものである。

 他人の前では借りてきた猫みたいになるくせに、俺の前ではどうしてこうもふてぶてしくなるんだ。初めて会った頃は、もっと大人しかったのに。なんか自棄になってない?

 家主に無断で家に侵入してきた水無瀬さんは、無遠慮に部屋を見回した。



「わあ、男子のお部屋に入るのなんて初めてだよ。生活感はあるけど、一人暮らしの割には整理されているね。と言うか、ものが少なめ?」


「ゴミ出しはしっかりして、掃除は気が向いたらするぐらいの部屋ではある。麦茶とコーヒー、どっちがいい?」


「麦茶で!」


「はいはい」




─────────




 ローテーブルを挟んで向かい合う。水無瀬さんはコップを両手で持って、緊張した顔で視線を落としたまま話し出した。今更、神妙な雰囲気を出すのはちょっと無理があるだろ。



「えっと……まずは何が聞きたい?」


「全部」


「うん、最初からそのつもりなんだよ? だけど、まずは何から話すのかを相談したいの」


「ここから入れる保険とかって……」


「いや、私は保険の相談窓口じゃないからね!? そもそもそんな危険な状況じゃないから! ねぇ、富士金くんって、そんなボケキャラじゃなかったよね? どっちかって言うと無口で地味だけど真面目なタイプだったよね? 何かあったの?」


「あぁ、何かもう思っていること、大体口にしちゃっていいかなと思って」


「えぇ……ちょっと話が進まないから、今は自重してほしいんだけど……」


「隠し事はなしってことで。水無瀬さんだけへの特別対応なんだから、むしろ喜ぶべきでは?」


「そ、そうかな……? いや、それとこれとは話が別じゃないかなぁ? それにしても富士金くんが、こんなキャラだって片鱗はなかったのに…………いや、ちょっとあったかも……」



 弩級の厄ネタに巻き込まれているのに、遠慮する方がバカらしくない? そう思ってしまってからは早かった。と言うより、ブレーキが壊れた。

 それと、俺は無口ではなく、喋る相手がいなかっただけだから。よく喋る方とまでは言わないけど、普通に喋れるから。ちょっと余計なことまで口走るかもしれないだけで。



「あ、もうこんな時間。親も帰って来るので、また後日と言うことで」


「まだお邪魔してから10分しか経ってないよ!? 今って小学生でも帰らない時間帯だからね!? しかも富士金くんは、一人暮らしでしょ! 私知ってるんだからね!」


「早めに帰った方がいいんじゃない? 一応、水無瀬さんも女子だから」


「一応じゃなくて歴とした女子ですー! それに遅くなったら、富士金くんに家まで送ってもらうから大丈夫ですー!」



 水無瀬さんの家がどこにあるかは知らないが、勝手に決めないでいただきたい。ただ、美少女であることは間違いないので、一応心配はする。特にここ最近は何かと物騒だから。



「富士金くんが喋るとお話が全然進まないから、とりあえず私がザックリ話していくからね」


「やっと始まるのか。はぁ……やれやれ、これまでの時間は何だったんだ」


「話をっ! 進めるねっ!!」



 急に大きな声を出してどうした? と言った冗談はさておき。一旦、話を聞くことにする。



「私たちの最終目標は、異世界から来た悪の組織を倒すこと。ただ、今のところ情報が全然集まっていないから、とりあえず奴らが送ってくる魔物や怪人の被害を減らす、それに好き勝手させないようにする方針なの。魔物とかをやっつけるには、魔法少女の力が必須になるよ」


「魔物や怪人?」


「怪人は人型で知性があるけど、人間とは全然違う存在だよ。魔物は負のエネルギーが具現化した怪物で、どっちも放っておくと悪さしかしないの。魔物は人間を餌としか見ていないし、怪人は人型の厄介な魔物。今はそれぐらいの認識でいいよ」


「わかった」



 出てくる敵を倒して、平和を守ると言うのが大まかな流れらしい。細かい部分が気になるが、まあ内容全体としては、シンプルで分かりやすい。



「それで、富士金くんには私のサポートをお願いしたいの。特にポーション作り! できれば便利なアイテムの製作も!」


「おお、ファンタジーっぽい」


「私それがホントに苦手で、何回かチャレンジしたんだけど全然ダメで……。だから錬金術の適性が高い富士金くんに頼みたいんだよ」


「あれ? 適性ってどうやってわかった?」


「あ、えっと……判別する特殊な方法があるんだよ。それでどう? 引き受けてくれるよね?」


「まあ…………それぐらいなら。ただ、本当に作れるかはわからんぞ?」


「ホント!? じゃあ早速、富士金くんの能力を覚醒させる儀式をするね!」


「儀式?」


「ちょっとここに立ってて!」


「いや、先に詳しい説明を……」


「部屋の明かり消すねー」



 水無瀬さんは鞄からスクロールを取り出し、半歩分の間隔を空けて俺と向かい合った。そして、何事か聞き取れない言葉を呟くと、持っていたスクロールが輝いて消えていった。

 すると、俺と水無瀬さんを囲うように複雑な魔法陣が展開され、あたたかい光を放ち始めた。

 淡い光の粒子がふわふわと漂う中、俯いていた彼女が顔を上げ、視線が交わる。



「“富士金 錬さん。貴方は水無瀬 愛をパートナーとし、病めるときも健やかなるときも、貧しきときも富めるときも、喜びのときも悲しみのときも、支え慰め助け、共に暗澹たる運命を拓くことを ──── 誓いますか?”」



 間近の彼女に対して、熱に浮かされたように体が火照る。しかしそれは決して不快ではなく、むしろ優しい温かさに包まれているような心地よい感覚で。

 どこまでも澄んだ綺麗な瞳を前に、契約を ──



「待って、契約内容を」


「“誓いますか?”」


「契約の確に 「誓って、お願いっ……」 ……誓います」



 あーあ。誓ってしまった。結婚式みたいな誓いの言葉だったから拒否していたけど、本当にこれで合ってる? 後から違ったことが判明して、バツイチになったりしない?

 微妙に不安だが、そんな胸中とは無関係に儀式は進行していく。


 最初の違和感は、熱を感じたことだった。火傷するほどの熱さではないのでそれはまだいいが、問題はその熱源の場所であった。

 もしやと思い恐る恐る確認すると、そこには見覚えのないリングが嵌まっていた。綺麗な白金色の指輪が、左手の薬指に。よりにもよって、その指なんだ……。

 ちなみに、水無瀬さんの左手薬指にも同じ指輪が嵌まっていた。あの、これって本当に俺の能力覚醒の儀式なんですか……?


 水無瀬さんは、しげしげと自身の指輪を眺めていた。そして右手で俺の左手を掴むと、2つの指輪を見比べ始めた。何か違いでもあるのか?

 そうかと思って黙っていると、突然襟元に掴みかかってきて、お互いの口が結構な勢いでぶつかった。キスがどうこうと言うよりも、唇が切れて痛いとしか感想が湧かなかった。

 それは水無瀬さんも同じだったようで、少し血が付いた口を涙目で押さえていた。初めてのキスは血の味でした。恐らく誓いのキスなんだろうけど、衝突事故と言った方が正しいと思う……。



「──── 其は溶け合った水に等しく。たとえ幾度雨が降り、大地が乾こうとも、永久に、共に廻り巡りましょう」



 何か分からんけど、滅茶苦茶重いこと言ってない? 少なくとも知り合って一ヶ月も経っていない間柄ですることではないだろ。


 2つの指輪が僅かに煌めく。身体の奥深くで見えない何かが、水無瀬さんとつながったような感覚があった。



「……ん、ここに契約は完了したよ。ふぅ〜……」



 安堵した様子で息を吐き、そのまま背中からベッドに倒れ込んだ。制服のまま他人のベッドに寝ないでほしいのですが……。

 推定とんでもねえことを仕出かした奴は、天井に掲げた左手を見てニヤニヤしていた。何だコイツ。



「何ニヤニヤしてんだオメー」


「だって、一世一代の大勝負に勝ったんだよ? ニヤけるのもしょうがなくない?」


「断られると思っていた?」


「正直その可能性は高かったと思ってるよ」



 まあそうでなければ、ここまで強引に事を進めないわな。それにさっき起きた謎の儀式が終わるまでは、俺も話半分で適当に聞いていたから。

 ただ、あれを見て漸く実感が伴ったと言うべきか。本格的に何かとんでもないことに巻き込まれたのを理解しかけたと言うべきか。真面目に話を聞いていなかったことを後悔しているところである。


 水無瀬さんの話を反芻してみる。魔法少女と悪の組織、契約、そしてどちらかと言えばジャンルはダーク系。これはもしかして、相当予後が悪いのでは……?



「で、そろそろ説明を再開してほしいんだけど?」


「えっとね……覚醒させるには魔力と触れることが必要なの。だからあれは必要なことだったの」


「…………その理屈だとわざわざ契約しなくても、何か別の方法があったかのように思えるけど」


「あぅ、えっと…………隠してもいずれバレちゃうか……。その、怒らないで聞いてくれる?」


「内容によるとしか言えない」


「う、うん。そのぉ〜……ね? 契約のおかげで富士金くんの能力が覚醒して、全体的に上がったのは事実だよ? 魔力を供給してもらうのにも、何をするにしても効率がいいのは間違いないし。今後の活動の上では、確実にメリットの方が多いから」


「へえ、それならさっきの契約はした方がお得だな」


「そうでしょっ!」


「それで、デメリットは?」


「うっ……」



 途端にばつが悪そうな顔をする下手人。え? 何すかその反応は? そんなやべー契約を情に絆されて結んでしまったんすか、俺?



「ただ、あの…………私が死んだら、あなたも一緒に死んじゃうだけで……」


「…………は?」


「あ、あはは……。その、えっと……………えへへ、死ぬときは一緒だよ♡」



よろしければ、感想や評価をお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。