第1話 実は私、魔法少女なんです!
初投稿です
桜も散り始め、新緑が眩しくなる時節。放課後の屋上にて、とある少女は少年に告白した。
「わ、わたっ! …わたしを助かっ! けてくだしゃいっ!!」
「よくわからんけど、まずは落ち着くんだ」
「あの、えっと……じ、実は私、魔法少女なんです!」
「ちなみにジャンルとしてはニチアサ系?」
「うーん……一歩間違えればダーク系?」
「無理! 解散! お疲れ様でしたー!」
「待って待って待って! ホントに待ってってば!」
「離せ! 俺も命は惜しい!」
これは人知れず世界を守る魔法少女と、それを手伝うことになった新米錬金術師の始まりである。
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ゴールデンウィーク直前の平日、カーテンがなびく教室の窓辺にて。当然のことながら、教室全体が浮ついた空気に包まれていた。
何と言っても高校生活が始まって以来、初の大型連休である。遊びたい盛りのクラスメイト諸君は一人残らず、ここぞとばかりに新しくできた友達と遊ぶ計画を立てては楽しそうに喋っていた。
もちろん俺もご多分に漏れず、来る長期休暇に向けて、友人と予定について喋っては……いなかった。
いや、違うんです。俺が周りに馴染む努力もしない社会性も人望も足りぬ輩だと断定するのは、少しだけ待ってほしい。
確かに俺こと、富士金 錬が人の輪から外れた、現状クラスで唯一のぼっちであるのは、残念ながら間違いない。揺るいでほしいが、今はまだ揺るがせられない事実である。
しかし、その原因に関しては自身に過失がないことを主張させていただきたい。
まず、最も大きな原因としては、友達作りにおいて最も重要と言っても過言ではない初日から1週間、不幸にも季節外れのインフルエンザによる出席停止を食らったことだ。
出停明けには既にほとんどグループが固まっていた。何ならその期間中に、クラスメイトたちで親睦会でもあったかもしれない。俺はそれがあったかどうかすら知らないが。
だが、当時の俺はその程度では諦めていなかった。落ち着け。まだ慌てるような時間ではない。出停期間中で予習をしても尚、有り余った時間を大して使わずに考えたプランがあるのだからと。
グループと言っても、所詮は一週間程度でできたハリボテの絆。今ならまだ絹ごし豆腐のように突けば崩れる関係性である。ならば趣味でも合えば、余裕で輪の中に入れるに違いない。
俺は流行りのファッションにもスポーツにも興味はないが、漫画やゲームは好き。熱心な先達には劣るものの、それなりに明るい方である。
逆にその他の趣味は、共有するには少々ニッチだと言う自覚もきちんとある。話題としては悪くないが、それを前面に押し出すのは微妙だろう。相手側が興味のない話を長々するほど、配慮に欠けていない。
以上より、どのクラスでも一つはあるだろうオタクグループに滑り込んでしまえばいいじゃないか。賢い俺はそう結論付けた。と言うか、元々そう考えていた。
オススメの作品を教え合って、一緒のゲームに熱狂し、時には推しについて熱く語り合う高校生活。華はなくとも、充実した毎日になりそうで素晴らしいじゃないか。
そう希望を胸に一歩踏み出して。
秒で引き返しました。
流石に公共の場ド真ん中で、しかも無駄に大声でエロゲ談義はやめてね? 教室の中心で推しへの愛を叫ぶのもダメだから。声がデカければいいってもんじゃないんだわ。
熱くなるのはいいんだ。情熱を持つのは素晴らしい。だけど、迷惑かけて周りの空気をキンキンに冷やすのは駄目だ。温度差で風邪引くわ。
俺たち狂ってる、じゃないんだわ。本当に狂ってるのはやめていただきたい。
女子たちのあの、ゴミ山で蠢くゴキブリを見るかのような目は見えてる? あれは人ではなく、ヒトとして認識されているんじゃないかと思う。俺はまだ人間でいたい。
このグループの恐ろしいところは、クラスの男子のほぼ半分が所属している最大派閥という点である。まあ、それだから声も自然と大きくなるのかもしれないが。
なお、このグループと下ネタと女子の品評会しかしていないような発情期グループを合わせると、クラスの男子の七、八割ぐらいになる。落とし物入れに大量の理性が届いてませんか?
そして、その他のまともそうな男子たちは、異様に結束が固い。カッチカチである。付け入る隙がなかった。少なくとも俺のコミュニケーション能力では、攻略の糸口が掴めなかった。
女子グループ? 普通に無理だろ。だから、教室では必然的にぼっちになったのであった……。
それでも俺は諦めない。クラスが駄目なら部活で、と言いたいところだが、放課後は自由時間が多めにほしい。まあそうでなくとも、運動部にはとある事情で入る気はないが。
文化部も入りたいクラブがなく、自分で新しく立ち上げる気力もない。そもそもつくるのに人脈が必要だから不可能だ。
手詰まり。八方塞がり。万策尽きた。最早来年のクラス替えに賭けるしかない。どうしてこうなった。
よくよく考えてみると、出停になっていなくてもあまり変わっていなかったような気がしてきた。あ、でもその他グループに入れた可能性が……いや、あの結束力の前では結局門前払いされてた可能性が高いか?
閑話休題。昼休みになった教室の自席で、俺は頭を抱える羽目になっていた。
机の中に身に覚えのない謎の手紙が入っていたからである。
人から好かれることも、嫌われることも特にしていないはずである。なぜならぼっちだから。他人との会話も、事務的な内容以外はほぼないのが日常だから。何なら一言も喋らない日も普通にあるレベルである。
そんな俺に突然届いた手紙である。怪しさしかない。
当然、人違いや場所の勘違いを疑ったが、手紙の表面にデカデカと『富士金くんへ』と書かれていた。お年寄りの目にも優しい安心設計である。それと、こんな名字の奴は恐らく、学年でも俺しかいないだろう。
諦めて手紙を開いた。
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富士金くんへ
突然のお手紙でごめんなさい。
大事なお話があるので、今日の放課後に屋上へ一人で来てください。
P.S. もしも放課後お忙しいようでしたら、直接あなたのアパートへ伺います。
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差出人の名前を書け! と内容をぼかすな! が、手紙の本文を読んだ最初の感想である。
続いて、面倒なので無視しようかと思ったが、追伸を見て行かざるを得ないことが確定した。
なぜ俺がアパート暮らしであると知っている?
誰にも教えていない情報だぞ? 教える相手がいないの間違いだろとは言ってはいけない。真実は時に人を傷付けるからです。まあとにかく、偶然知るような情報ではないのは確かである。
しかも無視したら家に押しかけて来るってことじゃん。怖すぎない? 来ないことを予想して後書きを付け加えたならば、あまりにも効果覿面すぎる。
駄目だ。放課後のことを考えると、お腹が痛くなってきた。俺の胃腸にダメージを与えた手紙の送り主は結局誰なんだよ。文字の書き方は女子っぽいけど、確証はない。
こんなに放課後が来てほしくないと思ったのは、初めてかもしれない。
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「わ、わたっ! …わたしを助かっ! けてくだしゃいっ!!」
「よくわからんけど、まずは落ち着くんだ」
「うぅ〜……」
そうして屋上に着くや否や、熟れたトマトみたい顔色で助けを求められたのだった。
目の前に居るやや小柄な女子はクラスメイトの水無瀬さん。ちなみに、下の名前は知らない。まあつまり、その程度の関係性ということである。
容姿は白に近い金髪ふわふわロングで碧眼、白百合のような肌の可愛い系美少女。翼と光輪のない天使とは誰が例えたものか。よく頼まれごとをされては、断り切れずに後で肩を落としている少し可哀想な子である。
そして、控えめな仕草や大人しい性格とは似つかわしくない、主張の激しいバストの持ち主であった。
赤面した顔を手で扇ぐことしばらく、水無瀬さんはこちらの目を睨みつける勢いで見た。困ったような笑顔が多い水無瀬さんには珍しい、真剣な表情である。だが既に若干涙目である。
見詰め合ったはいいが、その後は何も続かない。この子は本当に大丈夫か……?
「で、助けるっていうのは具体的には?」
「た、助けてくれるのっ!?」
「話を聞かないと何とも言えない」
「えっと、そのぉ〜……ぜ、ぜったいに誰にも言わないって、約束してくれるっ!?」
「そんな重要なこと、大して関わりのない異性に言わない方がいいと思う」
「それは、そうなんだけど……でもっ! 富士金くんなら、大丈夫ですっ! 優しいし、そうやって忠告してくれるし!」
「基準が甘すぎないか……?」
水無瀬さんの言う『優しい』は、俺がちょこちょこ手伝っているからそう思うのだろう。
よく色々な人から頼みごとをされて困っている水無瀬さんを、誰かが勝手に助けるだろうと最初は思っていた。何故なら彼女のお顔は非常によろしいから。
が、しかし全然そんなことはなく。驚くほど誰も手助けしないのである。むしろ追加で頼まれごとが増える始末。この世界は美少女にも意外と冷たかった。
だから俺が手伝っているのは、純粋な優しさと言うよりも居たたまれないだとか、気づいていて放置するほど非情にもなりきれないと言うか。そちらが主な理由である。正直、誰か助けてやれよとは思っている。
「あの、えっと……じ、実は私、魔法少女なんです!」
「そう……で、話とは具体的には何ですか?」
「聞かなかったことにされた!?」
「ほら、俺って優しいじゃないですか? つまりはそういうことです」
「どういうこと!? しかも急に距離遠くなったよね!?」
「そのようなことがあろうはずがございません」
「ねえ、お願いだから敬語やめて?」
元々これぐらいの距離感だったから継続で。微妙に引き攣った顔をしたが、あちらは引く気がないようだった。意外と心が強え奴なのか?
「実は私、魔法少女なんです!」
「おお、デカい花火だったなー……で、なんだっけ?」
「言い訳が苦しすぎるよ!?」
「じゃあ電車の音ってことで」
「この辺りに電車は走ってないよ!? ごまかし方が雑すぎない!?」
「電車がないとか、そんなの見れば分かるだろ」
「えっ。私が悪いの……?」
正直自分でも雑だとは思うが、特級の厄ネタを回避するにはそれしか選択肢がないかと思ってつい。まあでも、このまま無かったことにするのは、流石に少し薄情かもしれない。話だけでも聞いてみるべきか。いや、やっぱりめんどくさそうだな……。
「あの、そろそろお話を進めるね……?」
「ちなみにジャンルとしてはニチアサ系?」
「うーん……一歩間違えればダーク系?」
「無理! 解散! お疲れ様でしたー!」
「待って待って待って! ホントに待ってってば!」
「離せ! 俺も命は惜しい!」
「大丈夫だって! 死ぬときは私も一緒だから!」
「結局俺も死んでるじゃねーか!」
何がどうして大丈夫なんだよ! 儚い系美少女に無理心中宣言されたけど、当事者になると驚くほど嬉しくないぞ! 新発見だが、そんな事実は未発見のままで一生を終えたかったなぁ!
ただ、別にこの子とそこまで関わりが深い訳ではないが、それでも善良な知り合いからのヘルプを無視した結果、行方不明になったとなれば寝覚めが悪すぎる。一応、できる範囲で協力するべきだろう。だからと言って、積極的に関わりたい訳ではないが。俺も命は惜しい。
「一応、話だけは聞く」
「あの、富士金くんは私が魔法少女だって信じてくれるの……?」
「まあ、嘘吐くようなタイプじゃなさそうだから」
「あ、ありがとう……」
「嘘吐けるタイプじゃなさそうだから」
「……あれ? もしかして、ちょっとバカにされてる?」
「嘘吐かれて騙されそうなタイプだから」
「ねぇ、なんでわざわざ悪い方に言い直していくの??」
見たままの印象なんだな。今度、クーリング・オフ制度について、教えてあげるといいかもしれない。まあ既にお世話になっていそうだけど。
「よしっ。協力も得られたし、続きは富士金くんのお家で説明するね!」
「おお。まだ協力するとは言ってないけど。……いや、ちょっと待て。聞き間違えじゃなければ今、俺の家でって言った?」
「え……? うん。ここから徒歩15分ぐらいで近くにコンビニがある2階建てグレーのアパートの108号室で間取りが1Kの富士金くんのお家」
「怖っ。何でそんな詳しいの?」
「えへへ。大切な秘密を打ち明ける相手のことを調べるなんて、当たり前のことじゃないかな」
「まあそれもそう、か……?」
その情報いる? とは思ったが、それぐらい慎重な方がいいのは間違いない。考えなしに、ただ『優しそうだから』という理由だけで選んだ訳ではなさそうなのはよかった。
それで俺が選ばれてしまったのを除けばな!
「そもそも俺よりもっと他に適任な人がいるんじゃないか? ほら、クラスのイケメン枠の爽やか君とか……池谷さん? とかはどう? 色々スペック高そうだし、何となく良さそうじゃない?」
「あ、絶対無理」
「即答じゃん。しかも拒絶が強い」
「あれはダメ。顔はいいけど、性格が酷いから。優しい顔で近づいてきて、弱味なんて見せたら脅迫してくるタイプだよ。それにヒョロヒョロで普通に打たれ弱そうだし、いざと言うとき頼りにならなさそう。あと、重度のマザコンだから無理」
「評価がボロクソすぎる」
さては君、意外と口が悪いな? まあ普段から我慢していることが多そうだから、色々と溜め込んでいるのはありそう。
しかし、そんな悪口言っちゃっていいのか? 俺が誰かに漏らすと考えたりは……そもそも話す相手がいなかった。やだ、完璧なリスクヘッジだこと。そう考えると、俺って本当に都合のいい男だった。
「それと富士金くんもクラスメイトの名前ぐらいは、確証をもって言えるようにしておいた方がいいと思うな」
「まだ1カ月も経ってないから、大目に見てもらいたい所存」
「『まだ』1カ月じゃなくて、『もう』1カ月だよ!」
「最近、物忘れがちょっと……」
「富士金くんが学年トップレベルの成績なの知ってるからね?」
「だから何でそんなに詳しいんだよ」
謎のリサーチ力を持つ水無瀬さんからここまで言われるなら、爽やか君の情報も多分本当のことなんだとは思う。どうやって情報を得ているのかは謎だが。
でも俺はモテモテ爽やかイケメン君の闇なんて知りたくなかったよ。
「じゃあ、せめて同性で候補は居なかったのか?」
「私の友達ではちょっと荷が重いかなって……あと、一部の子からは嫌がらせもされてるし……」
「何かあった?」
「その、こう言うことはあんまり言いたくないんだけど……さっき話題に出てきた池谷くんが、私に言い寄って来るのが原因なんだよねー……。ほら、あの人って顔はいいじゃん? 私は全然タイプじゃないけど。だから女子から人気があるらしくて、ね……?」
「うわ……。あー、他は頼れる大人とかって……担任はまあ論外として」
「うん。アレだけはない。しかも昔、性犯罪で逮捕されたってお話は事実みたい。生理的に無理。正直、近づきたくもない」
「そんなのが担任とかするなよ」
相対的にぼっちに頼む方がマシな環境とか、マジで終わってるだろ。
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