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羽ばたく小鳥は猫とゆく  作者: 久遠 聖
春はゆく

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65/66

50(内容前後したちきしょう)

ぶっ壊れ男は好きですか?

夜は深い。

窓の外で風が鳴っている。

宿の灯りは落とされ、部屋には月明かりだけが差していた。

ベッドの上で、シエルは眠っている。

呼吸は浅いが、安定している。

喉に宿る魔力核のひびは、まだ完全には塞がっていない。

時折、喉元がわずかに熱を帯びるたび、細い眉がほんの少し寄る。

それでも眠れている。

生きている。

その事実だけが、部屋にある。

椅子に座ったまま、シュバルツは目を閉じていた。

眠ってはいない。

眠るという機能は、未だ不完全だ。

意識を落とそうとしても、どこかが警戒を解かない。

体は休息を欲しているのに、脳が許可を出さない。

しばらくして、彼は目を開けた。

視線が、自然にベッドへ向く。

月光に照らされた横顔。

長い睫毛。

包帯の下、静かな喉。

足音は立てない。

立ち上がる動作も、迷いがない。

ベッドの傍らに立つ。

見下ろす。

何を考えているわけでもない。

感情は動かない。

ただ確認する。

そこにいることを。

指先が、ゆっくりと動いた。

自覚はない。

触れたいとも、触れてはいけないとも思っていない。

ただ、距離がゼロになる。

頬に触れる。

そっと。

指の腹で、なぞる。

温かい。

その瞬間。

ほんの一瞬だけ。

シュバルツの横顔が、やわらぐ。

氷の膜が薄く溶けるみたいに、

目元の緊張がほどける。

優しい、と形容できる表情。

守れた、という安堵に近いもの。

失っていない、という確証。

だがそれは刹那だ。

呼吸一つの間に、消える。

表情は元に戻る。

無機質な、平坦な顔。

指も止まる。

「……」

何も言わない。

言葉にする感情が、もうほとんど残っていない。

それでも手は離れない。

もう一度、わずかに頬を撫でる。

今度は、確認するように。

生きている。

温度がある。

脈がある。

それだけで十分だと、思考が結論づける。

だが胸の奥で、微細な違和感がある。

何かを強く握りしめたまま、

それが何か思い出せないような感覚。

シュバルツはゆっくりと膝を折る。

ベッドの縁に腰を下ろす。

そして、自然な動作で、

彼女の枕元に額を寄せる。

距離が近い。

それだけで、意識の緊張が一段落ちる。

呼吸が深くなる。

目を閉じる。

今度は、抵抗なく暗闇が来る。

眠りは、彼女の体温の半径内でしか発動しない。

無意識の条件。

壊れた精神が、唯一安全と判断する範囲。

数分後。

シュバルツは眠っている。

表情は穏やかだ。

戦場にも、血にも、叫びにも触れていない顔。

ただ静かな青年の顔。

眠っている間だけ、

彼は化け物ではない。

シエルは目を覚まさない。

知らない。

自分が、彼の睡眠装置になっていることも。

壊れた心を繋ぎ止めていることも。

部屋は静かだ。

月明かりが二人を照らす。

外の風が鳴く。

世界は何も知らない。

――彼が、もう感情をほとんど失っていることも。

――それでも、彼女の頬を撫でる指だけは、まだ優しいことも。

夜は、何も語らずに過ぎていく。





まだ空は藍色のまま。

窓の外に光はない。

鳥も鳴かない。

街も眠っている。

部屋の空気はひんやりしている。

シエルが、ゆっくりと目を開ける。

喉に、わずかな違和感。

ひびの入った魔力核は、朝方に少し疼く。

だが痛みはない。

生きている。

それを確かめるみたいに、浅く息を吸う。

視線を横へ向ける。

すぐ隣。

シュバルツが眠っている。

ベッドの端に、半分だけ身体を預けたまま。

掛け布は使っていない。

黒い髪が無造作に散っている。

呼吸は深い。

規則正しい。

(……黒猫さん、寝るならちゃんとシーツ被ればいいのに……)

声にはならない。

思考だけが静かに浮かぶ。

眠っている顔は、少し幼い。

起きているときの平坦な表情とは違う。

眉間の硬さもない。

口元の無機質さもない。

ただ、静かな寝顔。

シエルはそっと身体を起こす。

ベッドがわずかに軋む。

シュバルツは起きない。

彼がここで眠れている理由を、彼女は知っている。

自覚していないのは、本人だけ。

モゾモゾと動いて、足元の予備のシーツを引き寄せる。

そっと広げる。

冷えないように。

肩まで、丁寧に。

触れないように、でも近くで。

布が彼の胸元を覆う。

少しだけ、彼の呼吸が深くなる。

安心したみたいに。

シエルの胸が、かすかに温かくなる。

触れられたわけでもない。

名前を呼ばれたわけでもない。

でも、彼はここで眠っている。

自分の隣で。

それだけで十分だと、思える。

彼の横顔を見る。


今は、眠りのせいか無機質さが抜けた顔をしている。

(……戻らなくても、いいです)

声は出ない。

だから、心の中でだけ。

(今は、これでいい)

ゆっくりと横になる。

距離はほんの少しだけ縮める。

触れない。

触れないまま、温度だけ感じる距離。

瞼を閉じる。

彼の呼吸のリズムに合わせる。

ひとつ。

ふたつ。

世界がまだ始まらない時間。

戦いも、喪失も、叫びもない。

ただ、二人分の呼吸。

シエルは、静かに二度目の眠りへ落ちていく。

外の空が、わずかに色を変え始める。

朝はまだ遠い。

それでも。

この瞬間だけは、

何も奪われていない。

ぶっ壊していきましょう


魔力核……どこやったけ??ってなりながら書いてた


個人個人で場所が違うし、肉体依存が多いいのに、たまに亜空間に仕舞われてたり、物体(ブローチ、ピアスとか)に依存してたり。

何だったらシュバルツ2つあることになる(義手と心臓横と…)

シエルは喉、鎖骨から声帯の間に有る

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